天誅
「人間の街」の続きです!
〜前話までのあらすじ〜
人々の転生を司る「転生管理人」で日本を担当しているのフィオラムは気分で人の転生先を決めるとんでもない女神だった!
そんな彼女の元に、事故死した江坂智弘がやってくる。
彼の態度が気に食わなかったフィオラムは智弘をゴブリンに転生させた!
智弘は自身が手にかけた3人の冒険者が持っていた薬で、人間の姿になり、街に潜入する。
しかし、街の中にあった古い魔法道具店の店長、クルルにその正体がバレる。
彼はその事に焦ってクルルを殺してしまう……!
高く昇った太陽が砂浜をギラギラと照り付けている。定期的に聞こえるさざなみの音をフィオラムは首元の汗を拭いながら聞いていた。
暑い。
そう感じたフィオラムは指を鳴らし自分の部屋に戻した。するとテーブルの上の小さなベルが鳴っていた。嫌な予感がした。これが鳴る時は碌なことがない。
「通知は何?」とフィオラムはベルに聞いた。
〈クルル・シードベルの死亡が確認されました〉と機械音声が淡々と読み上げる。
フィオラムは目を見開いた。クルルはまだ寿命ではないはずだ。何故。
フィオラムは転生管理記を急いで開き、クルルのページを確認した。
“クルル・シードベル 年齢:81歳(寿命:113歳) Lv.51
———死因:トモヒロに殴られたことによる脳内出血”
フィオラムはゆらゆらと頭を揺らし、椅子に座り込んだ。
クルルはフィオラムの‘お気に入り’だった。
——今から80年程前、人間界で太平洋戦争があった頃、その時に大量の人物が送られてきた。
その中でも特に幼く、礼儀正しかったのがクルル—深澤千鶴だった。
千鶴はその頃8歳だったが、パニックに陥っている大人なんかよりよっぽど礼儀正しかった。
その態度に気に入ったフィオラムは「何か欲しいものは?」と千鶴に優しく問いかけた。
「幸せな生活が欲しい」と千鶴はにっこりと笑って返した。戦争で死んだことを微塵も感じさせない笑顔だった。
その返しに思わずフィオラムは笑ってしまった。8歳のわりに面白いやつだ。
ひとしきり笑った後、「分かった」と返し、フィオラムは千鶴に〈クルル・シードベル〉としての新しい人生を与えたのだった。平和な村に生まれさせ、好きなことをできるように……。
その後クルルは村の男性と結婚し、街に出て魔法装備店を開いた。だが、クルルが50歳になった頃にその夫は病気で他界した。その悲しみに暮れるクルルに胸を痛めたフィオラムはクルルの前に現れ花鏡を授けた。そのくらいしかできることはなかったからだ。
フィオラムは少しばかりクルルのことを思い出した。だが、その思い出は智弘に対する怒りで塗り替えされた。
フィオラムは花鏡の中に智弘を映し出した。大きく膨れたバックパックを背負い、広い平原を悠然と歩いている。そして腕には黄色い宝石が埋め込まれた鉄のリングをつけているのが見えた。
私のお気に入りを殺しておきながら反省もせずに歩いてやがる。
フィオラムは指を鳴らし「雷、天誅」と唱えた。
その直後、花鏡から眩い閃光が迸った。閃光が醒めた頃には智弘がいた場所は黒く焼き焦げていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
クルルを殺し魔法装備を大量に盗んだ後、智弘は走って街を出た。服には大量の返り血が付着しているため、上にはクルルの店に置いてあったロングコートを羽織っている。
道ゆく人が度々智弘の方を見た。
大きなバックパックを背負い動きにくそうなロングコートを着た男が走っているのだ。無理もない。
街を抜け、草原に出た智弘ははあはあと苦しげに肩で呼吸をした。
その時、頭の中でピロリンと通知音がした。
〈トモヒロのLvが16から29までアップしました〉
「あの婆さん、そんなLv高かったのか?」と驚きながら聞いた。
〈はい。クルルのLvは51です〉
智弘はガッツポーズをした。これでLvスキル獲得に近づいた。
ふうっ、と息を吐きながら草原を歩き始めた。風が心地いい。いい気分だ。
その時、いきなり青空を稲妻が切り裂いた。なんだ、と思った直後、稲妻が智弘に直撃した。
物凄い衝撃が智弘を貫く。
まだこんなところで死にたくない。
やっと希望が見えてきたというのに。
まだ何も成せていない。
前世も今世もやり残した事しかないというのに。
智弘は地面に倒れ伏した。
面白かったら評価お願いします!
これにて第1章「転生者:江坂智弘=ゴブリン」は終了です!
明日から第2章に突入します!