転生管理人:フィオラム
初投稿です!
相当癖の強い異世界ファンタジーへと仕上がっております。
ぜひお楽しみください!
頭上で桃色の花弁が舞っている。いわゆる桜というやつだ。
春の陽気を感じさせるような爽やかな風が吹き抜け、桃色の花弁と一緒に、自分の翠色の長い髪が揺れるのをフィオラムは感じた。
そんな景色とは対照的に彼女の頭の中は飽きた、という感情で占められていた。
この桜も最初の内は綺麗だなあと眺めていたのだが、数分経った今では髪や肩に落ちてくる花弁が鬱陶しい。
ため息を一つ吐き、フィオラムは指を鳴らす。すると満開の桜に覆われていた景色がみるみるうちに見慣れた部屋に変わっていく。
まあ、部屋といっても永遠に広がる空間にぽつんと机と椅子が置かれただけ殺風景なものだが
フィオラムは椅子に座り、机の上に置かれた鏡を見た。
鏡の中にはフィオラムの顔ではなく、広大な草原が映し出されている。そしてその草原の真ん中には小さな町があった。
この鏡は、今フィオラムが管理している世界を映し出す「花鏡」という代物だ。
フィオラムは「女神」だった。
ひとえに神と言っても様々な役職が割り振られている。
様々な役職の中でもフィオラムは「転生管理人」という役職に就いている。
転生管理人とはその名の通り、死亡した人間を異世界に転生させるのが役目だ。
と言っても、全世界の死人を1人で捌くことはほぼ不可能に近いため、国ごとに役割を分担している。
フィオラムは日本を担当させられていた。
だが、日本だけといっても毎日平均4,000人近くの死者が出ているため、全ての死人が転生できるわけではなく、国ごとに転生できる確率が定められている。
日本は4,000分の1に設定されているため、フィオラムのもとには1日に1人来るか来ないかといったところだ。
では、空いている時間は何をするか。
それは自分の管轄下の異世界の管理だ。
管理とはその世界の安寧を保つことだけでは無い。滅ぼす必要があれば滅ぼすことも厭わない。
そのため転生管理人には管轄下の世界を滅亡させる権限が与えられている。
滅亡させる方法としては主に2つ。
1つ目は「天誅」による直接手を下す方法。天誅は転生管理人に与えられた力の1つで、管轄下の世界に落雷や地震などといった災害を発生させるといったものだ。
2つ目はイレギュラーの介入による方法。前提として転生管理人は転生者の種族やステータスなどを自由に決定できる。そこでステータスが異常に高い———いわゆる「ぶっ壊れ」に設定して転生させるといったものだ。
だが、滅亡は必要がなければ普通は行わない。
管轄下の世界をいかに安寧に保つかが転生管理人の腕の見せ所であるからだ。そしてそれが役職の昇格に繋がる。
だがフィオラムはそのような事を一切気にしていなかった。彼女にとっての滅亡させる基準は「まだその世界に興味はあるか」だった。勿論興味がなくなれば近いうちにその世界は滅ぼす。
では世界を滅ぼした後はどうするのかだが、転生管理人には「新たな世界の創造」といった権限もある。
異世界といっても1つ1つは違う次元に存在する。
だから新しい次元に作ってやればいいだけのことだ。
フィオラムはこれまでに20個以上の世界を滅亡させてきた。
そのため上位神からはフィオラムは問題児扱いされているが、フィオラムはそのようなことは一切気にしていなかった……。
花鏡の中では村に穏やかな時間が流れている。村人達がみんな笑顔で活気に溢れている。
近々祭りがあるらしく屋台の準備をしたり、神輿の用意をしたりとしていて村中からエネルギーのようなものを感じる。
そんな彼等と対照的にフィオラムの感情は冷めていた。よくもまぁこんな重労働を笑顔でできるものだ、と。
すると何処からかカラン、と鐘の音がした。これは死人がフィオラムのもとに来たことを知らせるものだ。この鐘が鳴ると死人がワープによってフィオラムのもとに転送される。
間も無く、若い男が転送されて来た。清潔感があり顔も整っている青年だった。年齢は20歳ほどか。
「……なんだ……ここ?」と青年が声を漏らす。
「君は死んだんだよ」とフィオラムが唐突に声をかけた。何の情も込めていない冷めた声で。
そしてフィオラムは机の引き出しを開け一冊のノートを取り出した。
このノートは「転生管理記」と呼ばれるノートで、転送されてきた者の名前や死因、経歴などの情報が事細かに記されている。そしてここに新しい転生先を書き込むのだ。
フィオラムは転生管理記から目の前の青年のページを開き、名前と死因を見た。
“江坂 智弘 19歳
死因:交通事故(飛び出してトラックに撥ねられる)”
「飛び出し……か。バカだね」とフィオラムは目の前の青年——智弘を鼻で笑った。
「飛び出し!?んなわけないだろ!この俺が!」と智弘は語気を強め、フィオラムを睨みつけた。頬を紅潮させている、怒っているようだ。
その態度にフィオラムは怒りを覚えた。生意気な。私はお前に2度目の人生をやろうとしてやっているのに。
「じゃあ思い出させてやるよ」とフィオラムは指を鳴らした。
部屋がみるみる内に住宅街の道路に変わった。
「今からお前が死んだ時の映像を流してやる」と冷たく言い放った。
すると歩道の上に智弘(映像)が現れた。歩きながらスマホを弄っている。後ろからはトラックが走って来ている。その事に気づいていないようだ。
次の瞬間、手が滑ったのかスマホを落とした。そのスマホは運悪く、車道の方へ転がっていく。
彼はそのスマホを拾おうと車道に飛び出した。
その瞬間、トラックが彼を跳ね飛ばした。
彼は血飛沫を巻きながら空中を舞い、地面に叩きつけれた。夥しい量の血が流れ、地面に大きな血溜まりを作っていた。
驚くほど呆気なく智弘(映像)は絶命した。
呆然と映像を見たまま立ち尽くす智弘を尻目にフィオラムは指を鳴らし、空間を元の部屋に戻した。
「スマホを助けようとして死ぬなんて本当にバカだな」とフィオラムは再び鼻で笑った。
その言葉を聞いた途端智弘は地面にへたり込んだ。
「うぅあぁぁ!!」と智弘が叫びながら地面に拳を何度も叩きつけた。
なんとも無礼な奴だ。そしてうるさい。私が親切に教えてやったというのに。
ひとしきりそうした後、「……じゃあ何で俺はここに居る?まずあんたは誰だ?」と蹲ったままで聞いて来た。
誰が「あんた」だ。つくづく不愉快な奴だ。だが、ここは答えてやる事にした。
「ここは私の部屋。君が居る理由は君が死んだから。そして私は転生管理人のフィオラム」
「転生……管理人?」と智弘が顔をあげ怪訝そうに聞いて来た。
目の周りに涙の跡がこびりついた顔が滑稽で仕方がなかった。
「君たちの世界でも異世界転生とかの物語あるでしょ?それで転生の時に出てくる女神とかのこと」とフィオラムが笑いを堪えながら答えた。
「マジでそんなのあるんだ……」と智弘は声を漏らした。その声はどこか嬉しそうにも響いた。
こいつは低級モンスターでいいか、とフィオラムは自分の中で結論を出した。
こんなバカにわざわざ2回目の人生を与えてやろうとは思えなかった。
コホン、とフィオラムは咳払いをしてから「では転生管理人として今から君を異世界に転生させるとしよう」と智弘に向かって言うのだった。
内心、智弘の事をバカにしながら。
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次話は明日公開します!