EP:1 囚われた脊髄
ある病院のリハビリテーション室に、一人の男性がいた。彼は「動かない人」と呼ばれていた。
事故で脊髄を損傷し、首から下が完全に麻痺していた。医師も「回復の見込みはない」と宣告したが、彼はただ、毎日ベッドに横たわり、天井を見つめ続けていた。
看護師たちは、彼が時々、夜中に意味不明なうめき声を上げることに気づいていた。
「痛い……動かして……」
だが、彼は動けないはずだった。
ある夜、新人看護師の優子が夜勤で廊下を歩いていると、リハビリ室からガタン、ガタンという音が聞こえた。
(あの部屋には「動かない人」しかいないはず……)
恐る恐るドアを開けると、ベッドの上で彼の体が痙攣のように震えていた。そして──
バキッ!
不自然な音と共に、彼の首がゆっくりと傾き、優子の方を向いた。
「……やっと、動ける」
その瞬間、優子は理解した。彼が動かなかった理由を。
彼の中にいたのは、本当の「彼」ではなかった。
ベッドの下からは、黒い影のようなものが這い出し、優子の足首をつかんだ。
翌日、病院は「動かない人」の失踪を確認した。
そして、優子のベッドには、首から下が完全に麻痺した「新しい患者」が横たわっていた。
(……動けないのは、本当に「体」のせいですか?)
今回初のシリーズの怪談を書いてみましたw