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アインシュタインにはなれない

作者: Rj


 ――弱い者は復讐する。強い者は許す。賢い者は無視する。


             アルベルト・アインシュタイン




「はあ? 何これ。アインシュタインってなんかよく分からない難しい法則とか発見したおじさんだよね。


 彼氏に振られてムカついたから復讐してやると考えてる思いっきり平凡な私に歴史に名を残すような天才の考えることなんて理解できるか!」


 自分を振った男に犯罪にならない方法で復讐しようとネット検索をしていた結衣の目に入ったのがアインシュタインの言葉だった。


「弱くて何が悪い。やられたらやり返す! 倍返しをしないと気持ちが晴れない!」


 スマホに向かって結衣は叫んだ。


 ドラマのように顔を整形して別人になり元カレを惚れさせ沼らせ全財産を貢がせたあと捨ててやりたい。


 それか元カレが推しているアイドル似の女性を雇い沼らせ手ひどく捨てさせたい。女に捨てられ泣く姿をビデオにとり一生笑いたい。


 金もなければ暇もない貧乏学生には実現不可能だ。


「悔しい! なんか腹立ってじっとしてられない。わら人形に五寸釘打ち込みたい!」


 一人暮らしの学生の部屋にわら人形も五寸釘もない。


 てるてる坊主で代用しようとティッシュを丸め頭の部分を作ろうとしたころで、


「てるてる坊主を針とか刃物で刺すのはちょっとかわいそうかも。それにてるてる坊主を刺して雨が降らなくなったら日本やばくなるし」


 急に正気にもどった。


 てるてる坊主を刺せないと思った自分を優しいと言いたいが、人を刺すのが犯罪でなければわら人形ではなく元カレに五寸釘を打ち込みたいので優しいとは言えないだろう。


 わら人形やてるてる坊主のことで笑ったあと再び怒りがこみあげた。


 元カレに好きだと告白され断ったが、めげずにアプローチし続けられているうちにほだされた。


 大学のバレーボールサークルが一緒なだけで挨拶ぐらいしかしたことがない好みでもない男の子と付き合うなど考えられなかったが、


「じゃあ、まずはサークル仲間として話したり一緒に出かけたりしようよ。それでダメならあきらめられる」と言われ、それもそうかとサークル仲間として接することにした。


 話してみると元カレは結衣の地元の隣県出身で、結衣と彼の実家は同じ地域の県境にあり「そこってデートの定番だよね」と地元の話でもりあがった。


 サークルの練習で元カレはセッターらしい柔らかい手首の動きでトスをあげる姿が様になっていて「やっぱりトスあげるの上手いよね」と見直した。


 元カレとの時間は結衣が思っていた以上に楽しく再び付き合ってほしいと言われた時にカレカノになった。


 付き合い始めてからすぐに「クリスマスの予定あけておいて」と二か月後にあるクリスマスの予定を押さえられ、クリスマスが近付くと「期待しといて」といわれ結衣の気持ちも盛りあがっていた。


 元カレへのプレゼントをあれこれ悩みながら用意し楽しみにしていたクリスマスだったが、クリスマス前に元カレがインフルエンザにかかり寝こんだ。


 結衣はそれで自分がインフルエンザの予防接種を受け忘れていたことを思い出した。年末年始に祖父母に会うのでインフルエンザをうつすようなことは出来ない。


 あわてて予防接種をうけ元カレに事情を説明し、食事や洗濯など必要な世話だけをして長居をしないよう気をつけた。


 地元に帰る日を変更できないので結衣は帰省する日にレンジで温めれば食べられる物や薬、飲み物の差し入れを元カレにたくさんして実家に帰った。


 元カレは帰省せず年末年始はアルバイトをする予定になっていて、結衣が実家に帰った日にはほぼ回復していたけれども心配だったのでこまめに連絡をしていた。


 元カレからの返信は少なかったが、病み上がりで働いていたので疲れているからだろうと思っていた。


「ごめん。なんか冷めた」


 実家から戻ると元カレからいきなり別れをきりだされた。


 病気になり心細い時に雑な看病をされ冷めたといわれ、結衣は思わずおみやげとして渡したばかりの地元でしか売られていない元カレが好きな菓子と漬物がはいった紙袋をつかみ「最低!」と吐き捨て駅に向かった。


 改札をぬけようとバッグからスマホを取りだそうとし、みやげが入った紙袋を持っていたことに気付いた。


 紙袋を捨てようとゴミ箱をさがしたが目につく所にはない。改札をぬけ駅のホームに向かいながら「物に罪はないし、おいしいんだよね」と思い直し、そのまま自分の部屋に持って帰ってきたが元カレのことを思い起こさせるので食べることにした。


「何なのあの男! そもそもあの男が予防接種うけてたらインフルエンザにかからなかったよね。楽しみにしてたクリスマスを台なしにされたけど快く看病してやったのに。信じられない!」食べながら元カレへの文句が止まらない。


 みやげを食べつくし気持ちを吐き出しようやく落ち着きを取り戻した結衣は、元カレの連絡先をブロックと削除しようとスマホを操作しながら元カレからまったく連絡がきていないことにムカついていた。


 気まずい別れ方をしたのに何のフォローもないのかと腹が立った。


 結衣がこれだけ動揺しているのに元カレは動揺していないどころか何とも思っていないことが分かり無性に悔しかった。


 好きだと告白され断ったのにすがられて付き合い、このような仕打ちをされるとはまったく納得がいかない。


 冷めたとあっさり捨てられたことが信じられなかった。


 それも結衣は病人が必要とする物を用意し、できる限りの世話をしたにもかかわらずだ。


「雑な看病ってなに? おかゆをすくって食べさせるまでして欲しかったってこと?


 こんなことならお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにうつしたくないから嫌だって看病するのを拒否ればよかった。それなら仕方ないって言えたのに。


 考えれば考えるほどムカつく! やり返す! ぜ――ったいやり返す!」


 怒りの勢いで元カレの連絡先をブロック、削除をしたあと復讐方法の検索を再開する。


「元カレが振ったことを後悔するぐらいイイ女になるなんてまどろっこしいこと出来るか!」


「人を呪わば穴二つだから呪うのではなく流せって簡単にいうな!」


 やり返す方法をさがすはずがいつの間にか気にくわない文章に文句をつけるだけになっていた。


「元カレよりもイイ男をつかまえて悔しがらせろって、自分から振ったどうでもいい女が誰と付き合おうと振った男が気にするわけないでしょう!


 ああ、でもあいつがライバル視してるとか、尊敬してる人とくっつけば話は別か」


 結衣は元カレが尊敬しているといっていた先輩のことを思い出そうとして、好きでもない男と付き合うなど結衣にとって罰ゲームじゃないかと冷静になった。


「手軽で簡単に復讐できるなら誰も頭を悩ませないよね……。ネットも匿名性があるようでないからなあ。変に相手をネット上でさらしたり、けなしたりしたら、こっちの方が身バレして私の黒歴史として一生消えない記録になっちゃうし」


 ため息をついたところで「わら人形ってネットで買えるかも」と思いつき検索すると売られているのが分かった。


「うそ――! 本当に売ってるんだ。うける!」


 わら人形に五寸釘、ハンマーがセットとして売られていて、それだけでなくわざわざ日本製と強調されていたりで結衣は思わずふきだしていた。


「やっぱりてるてる坊主じゃなくてわら人形よ」


 ネットショッピングばんざい! と注文しているとアインシュタインが舌をだしている写真を思い出した。


「アインシュタインって結構おもしろい人だったのかも。天才ってなんか独特で変な人が多いっていうし。


 天才といわれる賢い人は復讐なんて考えてる時間がもったいないとか言いそう。復讐してやるってわら人形と五寸釘を買うなんて絶対やらないよね」


 わら人形の注文確認メールを見ながら自分自身のバカさが笑えてきた。


 元カレを許すなど絶対ない。強い人間になるつもりもまったくない。わら人形を手に入れたらしっかり五寸釘を打ち込む。


「そういえばわら人形って丑の刻がどうのといったのがあったはず」


 結衣は丑の刻が何時になるのかを調べながら日本人は日本人らしくわら人形よとつぶやいた。

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