3 北東の森の遭遇
今回からとうとう戦闘が入ってきます。
―チュン…チュンチュン…
「おい、起きろ、おい、まったく、また気絶してんじゃねぇだろうな…」
「ん…あれ、あ、おはようございます…」
「あぁ、やっと起きたか」
…しまった。まさか朝起こされることになるとは。
「なんかほんと…スンマセン」
「あぁいや…全然良いんだがよ、村の宿屋に昨日話した冒険者が泊まってるそうでな。お前さんもせっかくなら合流したほうが楽なんじゃねぇかと思って」
「ああ、なるほど…ありがとうございます、行ってみます!」
「それとだな、俺としてもせっかく拾ったお前さんがすぐやられて死んでましたじゃあ悲しいんでな、
こんな木こりの使う斧だが少しでも足しになるなら持っていってくれ」
そういい、ベット横の机にゴトンと斧を置く。
大きすぎず、だがきちんと刃は研がれていて良さげだった。
「ありがとうございます…けど、切信さんの仕事用のを奪うわけには…」
「いや、良いんだ。斧は何本かある。それに最近、ようやく電化製品もまた出回るようになってきたからな。次に南にある町に行ったらチェーンソーでも買ってこようと思ってんだ。」
「はぁ…それならいいんですが」
「遠慮すんなって、まあなんだ、せっかく友達になってくれたお礼だよ、俺だってこんな若者の友達は大事にしたいんだよ…!」
「じゃあ、ありがたく貰っていきます!
それに色々と昨日から面倒見てくれてありがとうございました、また定期的に寄らせてもらうと思います」
「おう、いつでも歓迎するぜ!」
連我は立ち上がり、ドアを開ける。
外は朝7時過ぎ、まだまだ冷たい風だった。
「あ、そうだ、お前さんともう1人の冒険者さんのための朝飯と昼飯だ、ありがたーく持っていけ!」
そういい、切信が台所から大きな布製の袋を2つ投げる。
―また、1つ恩が増えた。
その宿屋は、家から出て5分も歩かずすぐに着いた。
村自体が小さいからだろうが、今さっきさわやかに別れを告げてこれはなんだか拍子抜けだ。
流石に冒険者とは言え宿屋に斧を持って入るわけにはいかないので、宿屋の裏へ回り込む―あった。
冒険者が増えるとともに各店に武器置き場が増設されている。
斧を置き、周りを見るがその宿屋にいるはずの冒険者の武器はない。
…本当に居るのだろうか。
正面に回り込み、宿屋のドアを開ける。
「すみません、ここに冒険者さんが泊まっているとお聞きしたのですが」
「あぁ、少々お待ち下さいね」
そう言い、数分後案内される。
…案外スムーズにいけるもんだ。
ドアをコンコンとノックする。
「はい…!」
優しそうな少年の声だ。
ガチャリとドアが開かれる―そこには、
水色の髪で黒いマントをつけた連我と同じくらいの年に見える少年がいた。
「…はじめまして、俺は連我、一応冒険者やってて冒険者の人がいるって聞いて来ました」
「あぁ、なるほど。僕は療大。
とりあえず入ってよ」
連我はとりあえず自己紹介、そして切信から聞いた森の化け物の話をする。
それを話し終わると、療大はうんうんと頷いて言った。
「なるほど、それなら話が早い。
話の通り僕も1週間ほど前から森に毎日入って捜索してるんだけど、全然掴めてなくて
けど、森に人の足跡とその後を追う獣の足跡があったから早めに見つけないと誰かが襲われてるかもしれなくてね。
見つけたのが夕方だったから今日はもう出発しようとしてるとこだったんだ」
「うわ…想像以上に凶暴…」
「ま、やれるだけやってみようよ。
最悪今日はその人の安否だけ確認できればおっけーな感じで!」
そういい、療大は立ち上がる。
黒に見えたマントは、体側が黒、外側が青のマントだった。
「そういやこれは僕もだけど、君も防具なし?」
「うん、この村で目がさめたときこの服装だったからね」
「なるほどねー、僕は能力上基本遠距離でチクチクする系だから、戦闘面で前線に出ないなら旅が多い冒険者にとって装備が重いのは致命的だからつけてないだけだけどね、化け物の噂聞いてると大丈夫かなって」
「ま、当たらなければ問題なし、ってことで!」
「ま、まあそうだね…」
とりあえずその後宿屋をチェックアウトした後、
きっちり斧を持って、切信さんに貰った朝ご飯を
2人で食べながら森へ向かった。
「そうだ、僕ら同い年だよね?
もうめんどくさいしタメ口でも大丈夫?」
「あ、そうだね、そうしよっか!」
…なんだか、もっと手柄争いとかするかとヒヤヒヤしてた。
案外ほっこりしてて、なんだか一安心―…
そう思った矢先、鼻をつんざくような獣臭が襲ってくる。
「うわなんだこれ!くっさ!」
「あー、僕はこれ嗅ぐの8日目だから慣れちゃった…
たしかに1日目はまともに探索どころじゃなかったかも…」
「おええーー…」
…なんでさっき朝ご飯食べてきちゃったんだろ。
は、吐きそうだ…
「ごめ、ちょっとこれ無理だ…さっきのパンが出るわ…」
「し、茂みで吐いてきな…」
ヨロヨロと連我が茂みの奥へ行く。
「臭いが…なんだこ
ドサッ
何が起きた。
焦点が合わない。痛い。地面?何か、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――…
『それ』は、思っていた以上に酷かった。
想像では、獰猛な牛に育てられた人間のはず。
だが、そこにいた生き物はたしかに人間の形だ。
形だが…目はかっ開き白目で充血し、口からはよだれと何かの肉が飛び出している。
体にはビリビリの布が巻かれており、その隙間から見える筋肉が化け物感を一層強めている。
そしておまけに―頭に二本の鋭利な角が生えていた。
恐らく、たった今俺はこいつにふっ飛ばされた。
…駄目だ、これ、死ぬ―…
ふとその怪物の右を見る。
音を聞きつけてきた療大が、茂みにしがみつくように倒れ、涙目になっている。
―恐らく、腰を抜かしている。
「…あれ…」
その療大が、震える手で左を指さす。
そこには、洞窟とその入り口に十字架が2つ。
片方は虚ろな目をした女の子―…連我たちより2歳ほど年下だろうか。
そしてもう片方は、服装からして男の子、
だろう。いや、だったものだ。
右肩、頭が完全に食いちぎられなくなっておる。
まて、こいつ、人食って…
このまま放置すればあの女の子もいずれ食われる。
いや、それより先に俺らが先か―…
連我は意を決する。
冒険者とは新たな土地を切り開く職業だ。
冒険者とは、人々に対し脅威になりうるものに勇敢に立ち向かい、安全な土地を提供する職業だ。
連我は、震え乾ききった口で言う。
「療大…あの子を守ろう…俺ら自身の命を守ろう…!」
いきなり人食いの微グロですけども…
次回、連我たちが持つものは斧1本そして能力のみ!
一発くらえば重症確定のこの状況、2人はどう切り抜けるのか?