2 森の化け物
意気揚々と出発した連我だったが、すぐに思いつきは良くなかったと思い知らされた。
手持ちに合ったのはポケットに入っていた金貨5枚のみ。
食料どころか寝る場所もないじゃないか。
…迷った末、もう一度あの助けてくれた人の元へ戻る。
村を見て回ったこともあり、夕方になっていた。
「おうどうした、何かあったか?」
「あ、いやその…実は手持ちがこんだけしかなくて…
食い物に寝床、その他諸々確保したいからなんかいい手段が欲しいなって思いまして…」
「…あそれに、せっかく助けてもらったのに名前も聞かず飛び出してしまって…いつかお礼もしたいので名前くらいはお聞きしたいな、と…」
「なるほどな…まず一つ、俺はお礼なんかいらねぇ。
助ける義務もない中、勝手に拾ったのは俺だ。
その代わり―…まあ色々と仲良くしてくれ。
冒険者ってのはあちこち行ったり来たりするらしいからお前さんが旅する以上ずっと顔合わすのは無理だけどよ、俺は仲間は多ければ多いほうがいいって思ってるからよ、村に寄ったら俺と仲良くしてくれると嬉しい」
「は、はぁ…俺も話し相手?情報源?は欲しかったんでそりゃいいっすけど…」
「おう、あんがとよ!
そうそう、俺の名前は切信、よろしくな!
それで金の稼ぎ方の話なんだがな?冒険者ってあれだろ?一応戦闘もするんだろ?」
「まぁ…俺らの仕事は基本的に未開拓の地を冒険して地図に記録、その地図を売って村どうしの行き来や発展を安全にするってものなんで、場合に応じては変な動物なんかは狩ったりしますけど…」
「なら、この村を出てすぐんとこの森に1頭やべぇ奴がいてな。噂じゃ昔捨てられた赤子が獰猛な牛に育てられたって話なんだがその…人間の化け物?がいてな
そいつを森から追い出してくれりゃ好きなだけ衣食住させてくれらぁ」
「え、好きなだけ、って…なんで…そこまで…」
「あいつのせいでこの村は西と南方向にしか出ていけないんだ。北から東へ連なる森のどっかにあの化け物がいるからな。
単純にこの村は半分の物資や繋がりしか持てていない。だから追い出してくれた奴には精一杯の優遇をさせて欲しいわけだ。」
「なるほどね…」
「つい1週間ほど前、1人の冒険者が森へ入ったが、現状まだ追い出せていないどころか遭遇していないらしい。もし会えたなら2人でやっつけてきたらどうだ。
これは提案でもあり頼みでもある。俺の仕事は木こりなんでね、あの森へ近寄れないのは俺もまいってるんだよ」
「…わかりました、やってみます」
「…!!ありがとう!お前さんの健闘を祈るよ…!
それと今夜は当てがないならうちに泊めてやる。」
「ええ、そんな悪いですよ…」
「いいってことよ、どうせ朝方拾われて1回うちのベットに寝てんだから、1回も2回も変わんねぇよ」
「え、えぇ…」
―こうして俺は、一瞬のつもりが一晩のお世話になるのだった…―
「あいよ、おまちどうさん!」
「うおお!美味しそうなシチューだ!」
「俺も独り身なもんでなー…ずっと1人で料理もやるから悲しいことにどんどん慣れていっちまってよ」
「あぁ…そんな悲しい理由なんすね…」
「そういやお前さん、記憶喪失って言ってたけど案外普通に話せるもんなんだな、さっきも冒険者が戦闘するとか覚えてたっぽいし」
「あぁ…俺も日中町中見た時に果物の名前とか覚えてて。色々見た結果俺の過去の経験的な記憶?例えば家族とどっかに出かけたとか、家族の名前とか、そんなんだけポッカリ忘れてんすよ…」
「おいそんなことって…それじゃまるで…」
「「誰かに消された」みたいですよね…」
「あぁ、やっぱ思うことは同じか。
なにせ皆1人1つ能力がある世界だ。何があろうがおかしくはねぇ。」
「ま、地道に家族探しして家族から俺の話聞いて思い出してくしかないっすよ…」
「だが、唯一の頼りのお前さんの記憶がそれじゃあ探しようがなあ…一応俺も捜索願いとか調べてはみるよ」
「え…ほんと何から何まで、ありがとうございます!」
―夜。
「…ベットまで奪っちゃった…」
俺はなんかあった時用の敷き布団があるからと、
ベットまで譲ってくれたのだ。
「何から何まで…ほんと、切信さんにはいつかお礼をしないとな…とりあえずは明日、森へ入ってみるか」
連我はそう考えながらスッと眠りに落ちる。
同時刻、村のはずれの宿屋。
水色の髪の連我と同じくらいの年の少年が眠っていた。
ドアには木の札がぶら下げられている。
そこにはこう書いてあった。
【冒険者 宝之 療大 殿】
今回の話、会話ばっかりになっちゃった…
次回からは戦闘なんです、許してクダサイ