表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第三話 この世界の名前は!?

オットー公は、部屋に入るなり笑顔をひっこめて俺を杖で殴った。


「ぎゃっ」

「何ということをしてくれたのだこの馬鹿が!」


殴られた勢いで俺はよろけて床に膝をついた。こんなのDVじゃないか。

しかし抗議の声を上げようとした俺は、オットー公のすさまじい憤怒の表情に何も言えなくなってしまった。

うーん、俺、かなりまずいことをしてしまったのか……?


「よりによって諸侯が揃っている中で婚約破棄など、一体何を考えておるのだ!」


悪役令嬢ものだとそれが定番らしいれけど、ゲームによって違うもんなのかな。つーかこの世界が何の乙女ゲームの世界なのかもわからんし……いや、わかったところで攻略法も何も知らんけど……。

とりあえず、この場は何か言わなくては。


「申し訳ありません父上。しかしネズミを捕まえる勝負でわざと負けて、私がディートリヒ殿とアーデルハイト様に誠心誠意謝罪すればきっと許して下さるでしょう」

「馬鹿かお前は! あんな話にディートリヒ殿が本気で乗ったと思っているのか!?」


え、あれって表向きだったのか。


「しかし父上、私はゲルトルートとの真の愛に目覚めたのです。自分を偽ることはできません」

「はぁ!? あの娘に入れあげているのは知っていたが、まさか妻にするとでも言うのか?」

「はい、そのつもりです。私はゲルトルートと結婚します」

「阿呆めが! 男爵の娘など我がマルデブルク家の妃にできるわけがなかろう! 適当な騎士と結婚させて側に置いておくことは、お前も納得済みだったではないか!」


それって公認の愛人ってこと? 普通に妾にするという発想はないのか。というかその「適当な騎士」はそれを了解しているのだろうか。このゲーム、えらくドロドロしてるな。

その時、黒い修道士服を着た男が部屋に入ってきた。手に革の鞄のようなものを持っている。


「おお、来たか」


父は修道士を手招きした。


「ルドルフは正気を失っているようだ。戻してやってくれ」

「はっ」


修道士は鞄から盥を取り出して床に置き、さらにメスを取り出した。

嫌な予感がする。


「ちょ、何をするんだ?」

「瀉血でございます、殿下」

「待て待て待て、瀉血ってあれだろ、血を出すんだろ!? それ意味ないから!」

「? 何をおっしゃっているのですか?」


修道士は眉間にシワを寄せ、俺の服の腕をまくり上げた。


「やめろって、そのメス消毒してねーだろ!?」


俺は手をふりほどいて叫んだ。


「ふむ、確かに正気を失っておられるご様子ですな。どなたか、お手伝いをお願いします」


修道士がそう言うと、近侍がささっと寄ってきて、一人が俺を後ろから羽交い絞めにし、もう一人が腕を押さえた。

修道士は再び俺の服の腕をまくり上げると、二の腕を紐で縛り、浮き上がった血管にメスを当てた。


「ギャー!」


抵抗も空しく、俺の腕にメスが当てられ、血が噴き出した。


*


目を覚ますと、見慣れない石の天井が目に入った。

情けない話だが、血を見て気を失ってしまったようだ。

左腕の、メスで刺されたところがちくりと痛む。変な菌が入ってないといいんだがなぁ。この世界に抗生物質なんて無さそうだし。


この腕の痛みではっきりわかった。どうやら本当に異世界転生だか転移だか知らないが、そういうことになってしまったらしい。

とりあえず婚約破棄は失敗だった。

どーすりゃいいんだよ……何もわかんねーよ……。


よく知らないけど、異世界転生って転生する時に神様が説明してくれて、スキルとかチート能力とかもらったりするもんじゃねーのかよ!?

いや、待てよ。説明がなかったとしても、ゲームみたいなことができるようになってるんじゃないか?


俺は起き上がると、ベッドから降りた。

さっと右腕を天に向けて突き出し、叫ぶ。


「ステータスオープン!」


……しーん……


何も起こらなかった……。

じゃあ、こっちはどうだ。

左手をやや下に突き出し


「アイテムボックス!」


……しーん……


ふと人の気配を感じて振り返ると、さっきの小人がぽかんとした表情で入り口に立っていた。

しばし気まずい沈黙が漂う。


「……お目覚めになられましたか?」


明らかに笑いをこらえながら小人が言う。

俺は咳ばらいをしながらベッドに腰を下ろした。


「全く、とんでもないことをなさったものですなぁ……」

「だってさぁ……普通あの場面は婚約破棄だと思うだろ……」

「あの場面?」


小人は首をかしげた。こいつの名前は何だっけ。

記憶によれば、宮廷道化師のピエトロだ。

ピエトロは傍らの椅子によじ登ると、俺に向かって言った。


「ルドルフ様は何のお芝居をなさったのですかな? このピエトロ、とんと見当がつきませぬ」

「俺だってつかねーよ。なあ、教えてほしいんだけど、この世界は何て言う名前だ?」

「この世界? はて、ここはお父上の領地のマルデブルク公国でございますが」

「それは知ってるよ。俺が知りたいのは、『世界の名前』だ」

「世界の名前というと……『中つ国』『キンメリア』といったことでしょうか」

「そう! それだよ!」


ピエトロの表情が変わった。

それまでお面のようなくっきりした笑みを浮かべていたのが、何と言うか、仮面を外したかのような、顔は同じなのに別人になったかのようだ。

がらりと口調を変えて、ピエトロが言った。


「君、現代人だな?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ