異世界に転生したら、義妹が乙女ゲーの悪役令嬢だったので、とりあえずお義兄ちゃんをしたいと思います。
突然だが、俺の義妹はめちゃくちゃに可愛い。
金色に輝く髪に、金木犀を埋め込んだ様な輝く瞳。
そんな世界遺産級の俺の義妹、セシリア・フィンセントだが、何と彼女は、前世で流行りすぎて社会現象にまでなった乙女ゲーム「世界が君を拒んでも」略して「セカコバ」に悪役令嬢(全ルートバッドエンド)として登場する。
義理の妹がゲームの悪役令嬢だということは、当然、俺自身もセガコバの登場キャラである。
全ルートバッドエンド悪役令嬢の義兄という事で、転生した訳ですが。
いや、別にいーんですよ?
異世界転生なんて夢のまた夢だったし。
でも、セシリアがバッドエンドルートに入ったら、セシリアの一家全員、何らかの形で没落しちゃうとかいう豪華特典だけは許容できない。
まぁ、そんな不遇な運命を辿る俺の義妹をハッピーエンドに導きつつ、フィンセント一家全員を救うのが、今世の俺の目標だ。
可愛い義妹のために、俺...頑張っちゃいます!
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
ゲームで、セシリア『悪役令嬢』はアリシア『主人公』に対して、陰湿ないじめを行う。
いじめの内容は忘れたが、いじめに至った経緯は、確か攻略対象者を攻略された事による嫉妬から来るものだったはずだ。
そして、その愚行を見兼ねた攻略対象者から、婚約破棄&国外追放or死刑etc...などなど様々なバッドエンドルートを突き付けられ、セシリアは物語から退場する形になる。
ちなみに、セシリアがバッドエンドになった時点でフィンセント公爵一家没落するので、フィンセント公爵家はどのルートに入っても、必然的にバッドエンドを迎えることになる。
うん。
この家族、完全に呪われてる。
いや、セシリアが呪われているだけなのだろうか?
いや、クソゲーなだけか。
と、噂をすれば、、、。
ドンドンドンッッ
「お兄様?なんなのですか!!あのドレスは!!」
歩く世界遺産、張本人のご登場だ。
「おいおい、お兄様に向かっての第一声がそれか?まずは、おはようございます。だろ?セシリー。」
「おはようございます...。お兄様。」
ここで、ちゃんと訂正できる可愛い子なんですが、何であんなにグレちゃうんですかね?
「あぁ、おはよう。で、あの可愛いドレスの事だろ?何がいけないんだ?」
「いけないも何も、なんですか、あの幼稚なドレスは?!」
「可愛いだろ?」
「全然可愛くなんかありません!!」
「え?俺のお気に入りなんだが、それに、あのデザイン...セシリーに似合うと思うぞ?」
まぁ、少しだけ過剰に花びらを付けたのは遊び心が過ぎたとは思うが。
「似合わないし!!知らない。お兄様なんて知らないんだから!」
「おーい。素が出てるぞ~。」
「うるさいっ!」
ドンッ!!
13歳の女の子だし、反抗の1つや2つしたくなるお年頃なんだろう。
ていうか、いっつも素で話してくれたら良いんだけどな。
やはり、このフィンセント「公爵家」という看板が彼女を本来の彼女から遠ざけているのではないだろか。
まぁ、それにこの歳になるまでにも色々とあったしな...。
今日は少し意地悪が過ぎた。
明日は、蜂型の着ぐるみでも送ろうか
---------
どうもロベルト・フィンセントです。
今日は、父、俺、義妹の3人で、フィンセント公爵家領地の視察を終え、帰るところでした。
途中までは平和だったのですが、何故か現在...何らかの集団、数十名に囲まれています。
ゲームでもなかったイベントで、全く意味がわからないです。
「フィンセント閣下、ご家族とともにお逃げください。ここは我々が引き受けます。」
「ッ!駄目だ。...ここに其方らを置いて逃げたのならフィンセント公爵家一生の恥となる!!」
フィンセント公爵家。
この家系の先代や先先代は、いずれも戦場で命果てる事を選んだ真っ当な騎士の家系。
戦場で果てた後、その名誉が讃えられ、2代という短い年月でこの公爵家という地位にまで上り詰めてきた敏腕当主と世間では謳われているが、言い換えれば只の死に急ぎ野郎である。
そして、父もまたその家系の当主。
戦場で散る事に何の躊躇いすらも感じていない。
「ですが!!このままでは...!!」
「フィンセント公爵だな...?」
護衛の声を遮り、集団の中から出てきた長身の男がまるで感情の籠もっていない虚な声で疑問の言葉を投げかける。
「貴様ら、何者だ!!」
「フンッ。」
「ッ!!ふざけるな!!誰の命令で動いてる?!」
「それを言って何になるって言うんだ?無駄だという事が分からんのか?」
「な、何だと?!」
「お前らは詰んでいるんだよ。」
「何?!」
「周りを見ろ。それで察せないのなら、その程度よ。」
あの男、異様に冷静すぎる。
数で、圧倒的有利に立っているのは分かるが、自信のありようが異常だ。
まるで相手の力量を知っている、という程に。
「聞け、お前達。私はここに残り、我が兵とともにお前らの逃げる隙を作る。お前達は必ず生き残りなさい...。」
「父さん。」
絶妙なタイミングでの敵の奇襲に、周りの護衛達も父さんも冷静な判断ができていない。
「お父様...お別れなんて、言わないで。」
「大丈夫だ、セシリア。私は必ず生きて戻る。ロベルト、後の事はお前に託したぞ。」
ゲーム開始時の時系列はここから約2年後。
その事とストーリーを知っている故の甘さが出てしまった。
普通に考えて、俺というイレギュラー的存在がいる時点で、シナリオ通りに物語が進むなんていう考えは既に捨てておくべきだった。
「...。」
クソッ。
完全に、甘えていた分のツケが回ってきた。
打開策を考えている時間も余裕もない。
「いや、俺が囮になるよ。」
この状況で導き出した最良の策はこれだけだった。
「なっ...。ロベルトッ!何を言っている!この大馬鹿者がッ!」
「大丈夫。」
「兄さ...!」
パチンッ。
半径0.5キロメートル以内の物体、物質を範囲5キロメートル以内の場所にテレポートさせる。
これが俺がこの世界に来て、極めに極め抜いた魔法だ。
本来は、怠惰な日々を過ごす為の雑魚魔法だったのだが、こういう時に役に立つとは思っても見なかった。
魔力量の消費が少なければもっと良いんだが、後2回か3回使えれば及第点という所だろう。
「何だ?!馬車ごと消えたぞ?!」
「どういう事だ?!」
敵が動揺している隙に、直ぐに次の手に移る。
魔法の根源はイメージだ。
それ故に、魔法使いは発想力を培う為に本を読む。
そして、そのイメージを魔力を使い具現化し使用する。
ーーそれが魔法。
ならば地面を抉り取る事だってできるのではないだろうか?
スケールのデカさから、魔力は相当削られるだろうが、起死回生の一手だ。
それ位のハンデは負おう。
パチンッ
一瞬の沈黙と共に、あったはずの地面が一気に消え去る。
敵も自分さえも巻き込んだ無差別攻撃。
「ア"アッ?!」
「ウァァァ!」
敵は目の前の状況が掴みきれず、一直線に暗闇へと落ちていく。
大体8mから9m位を目安に抉った為、頭から落ちない限りは死なない筈だ。
骨折くらいはするかも知れないが。
パチンッ
俺は残された魔力で、自分を上へテレポートさせる。
「貴様、何者だ。」
「なっ?!」
その声を聞いた瞬間、一気に細胞が跳ね上がるのが分かる。
フードを被っていて顔は良く見えないが、男の発す無機質な声が無性に俺の耳には残っていた。
あの長身の男だ。
「はっ?何でいんだよ?!」
動揺からか、つい心の内が口から漏れる。
「フンッ、戦いにおいて高所を取るのは基本であろう。」
「はっ??」
男が何を言っているのか、俺には全くといって分からなかった。
「高所なんて、どこにも...」
「探せば幾らでも有ろうに。まぁそんな事はどうでも良い。貴様、何者だ。」
こっちからしたら、どうでも良くないんだが。
「お前が何者だよ。」
「フンッ、まぁ良い。殺してから聞くとしよう。」
聞けないでしょ?
そうツッコミたくなる気持ちを抑えて、俺は護身用に備えていた愛用の剣を鞘から抜く。
魔力は残っていない。
あまり剣に自信はないが、やるしかない。
「ほう、剣も使えるのか。」
そう男が言い放った瞬間、一気に空気が変わる。
剣を持つのが怖い、とそう認識させる程に男の放つ気配は鋭い。
「ッ!」
ほんの一瞬。
目の前に居たはずの男の姿は瞬きした後には消えて、剣だけが俺の首筋近くまで迫っていた。
「グアッ」
ガキンッ
後、数秒遅れていたら死んでいた。
反射だけで防げたのは奇跡としか言いようがない。
「ほう、防ぐか。」
その言葉と共に視界がいきなり一回転する。
意味がわからない。
何が起こっている。
そんな言葉が頭を駆け巡る。
遅れて、突然腹部にとてつもない痛みが走った。
「アア"ッ?!」
痛い。
思考がその単語に染まる。
激痛が、血の味が、意識を朦朧とさせる。
「フンッ、貴様...ハッハッハ!アヤツめ。面白い事を考える。余り良い気分ではないがな。」
死をも彷彿とさせる痛みに耐えられずに、体が限界を迎える。
男の言葉など理解すら出来ずに俺はただ蹲るしかできない。
「まだ生かしておいてやる。強くなれ、小僧...。貴様が...ならばな。」
ーー死にたくない。
視界が暗闇に染まる前に考えたのは、ただそれだけだった。
「ァ...!!」
視界が揺れて、身体の重さが寝ているだけでも分かる。
だが、自分が生きている、という事実だけは認識できた。
ん?寝ている?
「...!お兄様!!」
セシリアの声で脳が覚醒する。
見慣れた天井、愛用のベッド。
自室だ。
「...。」
「良かった!!本当に...!」
そこまで心配することだろうか、と思ったが、悪い気はしない。
逆に、嬉しいまである。
「おいおい、泣くなって。ちょっと眠ってただけなんだから。」
「ちょっと?」
「え?」
なんだその反応は。
まるで俺が俺、仮死状態か何がだったみたいな。
「4日ですよ!4日も眠られて...。もう起きないかもって。」
「えっ?!」
体感では、さっき気絶したような感覚だったんだが。
そんなにも寝ていたのか。
「おいおい。泣くなよ、セシリア。」
「だってぇ...」
セシリアの瞳から流れる涙に、俺は動揺を隠しきれない。
「大丈夫だって。ほら、身体ももう大丈夫だ。」
とてつもない筋肉痛の様な痛みが体中に走るが、お兄ちゃんパワーで強がってみせる。
「本当に?」
「あ、あぁ。」
「良かったぁ...!」
何でまた泣くんだ...。
やはり年頃の女の子は分からん。
「ほら、見てみろ。セシリー!」
俺は手のひらの上に、擬似花火の様なものを魔法で作り出しセシリアに見せる。
「わぁ...!」
良かった。
少しは落ち着いてくれた様子だ。
だが、俺の為にこんなに泣いてくれるなんて、今までのセシリアの態度からは想像がつかない。
もしかしてセシリアって、ツンデレってやつなのか?
「どうだ?綺麗だろ?」
「はい!とっても...!」
まぁ、可愛いのでなんでも良い。
「フッ。あぁ、そうだ。みんなは無事か?」
「...はい!お義兄様のお陰で。」
「そうか、良かった。」
セシリアの言葉を聞いた時、俺の感情は何ともいえないもので埋まっていた。
皆が助かったのは良かった、が。
負けた。
完膚なきまでに。
どれだけ力量に差があるのか分からない。
それだけの高みにアイツはいる。
「お兄様、、、あの」
「ん?どうした?」
「その...!!」
「ん?」
どうしたんだろうか?
いつにもなくセシリアの顔が暗い。
「セシリア...?」
「お兄様...。私!今まで、お兄様に嫌われていると思っていたんです。」
「へ?どういう事だ?」
いきなりの事につい腑抜けた声が出る。
俺がセシリアを嫌うなんて無いに等しいというのに。
「私が、お兄様とも、お父様とも、血が繋がっていないという事は知っています。皆さんは私に本当に優しく接してくださっていますが、本心では、私の事が邪魔なのではないかと...そう思っていたんです。」
「...。」
セシリアの言葉を脳が上手く処理しきれていない。
何故、セシリアがそのことを知っているのか。
「なので...どうせ嫌われるのなら、初めから嫌われてやろうと。物心ついた頃から、お兄様には様々な心労をおかけ致しました。今更、許されようとは思っていません...。それ程、私はお兄様が不快な思いをされる様な言動や行動を取ってきたと思います。ですが、そんな私をお兄様は助けてくださいました。その...私、嬉しかったんです。」
「ま、まてセシリア?何を...。」
「上手く言葉にはできません。ですが...その今まで申し訳ありませんでした。そして...私を救っていただき本当にありがとうございました!」
セシリアの目には涙が潤んでいた。
自分から人に嫌われるように接するなんて、相当追い詰められていたのかもしれない。
確かにセシリアは、8年前。
俺が5歳の頃に公爵家の門の前に放置されていた捨て子だ。
当時のセシリアは今では比べられない程に痩せ細っていて、門番が見つけなければ死んでいただろう程に憔悴しきっていた。
そんなセシリアを不憫に思った父さんの計らいによって、セシリアは公爵家の養子となった。
なるべくセシリアには気付かれない様、父さんも俺も十分注意してきた。
何処でバレたのか。
いやそんな事は後回しでいい。
「セシリア...お前は俺の家族だ。」
「お兄様...」
「血なんて関係ない。一緒に過ごして、話して、見て、笑って...喧嘩もした。一時期話さない時だってあったよな?でも、家族なんだしそれくらいはするさ。ていうか、セシリアは優しいからさ...自分は悪く見せてる様でも、俺からしたら可愛いもんだったよ?嫌いになる事なんて無かった。てかならない!」
「...!」
「それにさ、俺は嬉しかったんだよ。セシリアが俺に我儘言ってくれる時とかさ?」
「な...なぜで..すか。」
「んー、上手く言葉にはできないけど...嬉しかったんだ。」
「なんですか、それは。」
「フッ。まあ気にすんなってこと、血なんて関係なく俺達には家族として一緒に生きてきた時間がある。それだけで良いんじゃないか。」
「は...い...。」
「それにもっと俺を頼れ、相談しろ、一人で悩むな。セシリアには俺も、父さんだっているんだ。沢山味方がいるんだよ。一人で悩む事なんてない。だろ?」
「はぃ...」
「よし、じゃあ。今度一緒に買い物にでも行くか。」
「えっ?」
「俺の奢りで、な。」
「そんな...私は...」
「強制だぞ。」
「グスンッ。じゃあついて行ってあげます。」
「ふっ。決まりだ。ああ、それと敬語はやめろ。」
「えっ?」
「俺に対して敬語なんか使わなくて良いよ。」
「じゃあ、どうすれば...」
「普通で良いんだ。」
「普通...」
「あぁ、ゆっくりでいいけどな。」
「は、い。分かりまし...分かった?」
「ふっ。良し!じゃあ、寝るか~。」
「また寝る...の?」
「あぁ。セシリアももう部屋に戻って良いぞ。」
「う、ん。」
セシリアはベッドの傍に置いてあった椅子から立ち上がる。
「おやすみなさい。兄さん。」
「ああ、おやすみ。」
ガチャン、という音と共にセシリアの姿が暗闇に消える。
どこでセシリアが出生については聞けなかったが、この公爵家にセシリアの事を悪く思っている人間はいないはずだ。
ならば、外部からの情報か、どこかで小耳に挟んだのかはわからないが、少し調べてみる必要がある。
そんな事を考えながら眠りにつく。
最後に浮かんだのは、セシリアの笑った顔だった。
---------
今日は快晴で、空気も美味い。
それに体調も大分回復した。
ということで俺は現在、フィンセント公爵領から片道約30分。
王都までの道のりを馬車に揺らされながら移動している。
セシリアと一緒に。
「なぁ、セシリア?そういえば護衛はどうしたんだ?見当たらないんだが...。」
「えぇ。護衛達は、お父様に兄さんがいるから大丈夫って言っておいたの。」
「そ、そうだったのか...。」
俺たちは一応、公爵家の人間なんですが。
大丈夫なんでしょうか?
まぁ、非公式だから大丈夫な事は大丈夫なんだけども。
それにしても、あれだけ貴族の尊厳に厳しい父さんがセシリアのお願いだとしても、護衛なして王都に行かせるとはね。
俺なんて、あの事件の次の日「何故あんな無謀なことをした」って一日中怒られたんだよ?
まあ、あれは言葉の足りない俺も悪かったが。
「兄さん、外を見てください!」
セシリアに言われて外を見てみると、そこには黄色が目立つ広大な花畑があった。
ヒマワリに似た花が何処か前世を思いださせる。
この世界に来て早13年。
長くも短くもあった。
「おお!綺麗だな?」
「はい!」
真正面に座っているセシリアは余りお目にかかれない絶景に、いつにもなく上機嫌だが、俺の心中はそれどころではなかった。
何故か。
それは、この馬車、とてつもなく乗り心地が悪いのだ。
「そういえば兄さん。」
「ん?」
「さっきから、顔色が優れないけど、大丈夫?」
「あぁ...大丈夫だ。」
全然大丈夫ではないが、ここは強がっておく。
後、数十分の辛抱だ。
「そういえば、兄さんって魔法が使えたんですね。」
「まあ、一応な。」
「私にも教えて?」
「えっ?」
「ダメ?」
セシリアさん?貴方どこでそんな上目遣いという高等技術を習ってきたのかしら。
「あぁ。分かった。」
「やった。」
セシリアの満円な笑みとは反対に、俺のお尻は馬車が揺れるたびに悲鳴を上げ続ける。
とりあえず、速く着いてくれ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お~い。着いたぞーセシリア」
「ハッ?!お、はよう?」
「おーい、よだれ垂れてるぞ~。」
「へっ?」
こんなセシリアを見る機会はそうそうない。
今のうちに脳内に保存しておこう。
「ご、ごめんなさい。」
「ふっ。大丈夫だ。」
ちゃんと脳内に記憶したから。
「よし、行くか。」
「う、ん。」
俺は馬車から降りて手を差し出す。
セシリアはまだ脳の活動が停止しているのか、半目で揺れながらも俺の手を取る。
「おーい。起きてるかー。」
「起きてる...!」
意外と寝起きの悪いセシリアについ母性のようなものを感じてしまう。
なんだ、この生物は。
「お、あそこのベンチでちょっと休むか。」
「うん。」
強引に連れて行くのは可哀想なので、目が覚めるまで少し休ませることにした。
俺は、なんて良い兄なのだろうか。
ーーーーーーーーー
「よーし、行くぞー。」
「ねぇ、兄さん。」
「よーし、いくぞー。」
「兄さん!!」
「ん?どうした?」
「私、よだれ垂らしてませんでした?」
「大丈夫だ、大丈夫。」
「なんですか、その反応...」
ベンチに座ってから10分ほどで、セシリアの脳は覚醒を果たしたようで、さっきからずっと無表情で同じ質問をしてくる。
何か新しい扉が開きそうなので、辞めてもらいたいところだ。
「それにしても、見ろよ、あれ!」
「もうっ!」
こういう時は強引に話の矛先を変えてしまえばいいのだ。
俺は丁度いいところで開かれたショーを指さして歩き出す。
「行くぞ。セシリア。」
「...。」
歩きながらも、ぷく顔で背中をツツいてくるセシリアを気にも留めないふりをして、俺は一直線に街中に入っていく。
それにしても、王都というだけあって大分賑わっている。
前世でいうUS○を街に投影したかのような背景に、街道は道の奥まで続く出店やちょっとした魔法ショーらしきものを行っていた。
そんな光景を目にして、舞い上がる俺とツンツン攻撃を辞め、ソワソワしているセシリア。
「何から回る?」
「兄さんに任せるっ!」
どうやら機嫌を直してくれたらしいセシリアと共に、前世では見られない、魔法を使ったショーや魔法具店。
それに雑貨屋やアクセサリー店など、時間が許されるまで回った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「楽しかったか?セシリア?」
「は...うん!楽しかった!このネックレス...。ありがとう。」
途中の意外にもセシリアのセンスは大人びていた。
いや、魔加ルビー
「あぁ。喜んでもらえて嬉しいよ。」
「俺も買いたい物が買えたし、そろそろ帰るか?」
魔道具店で、今後の魔法改良に関わる魔道具が買えた。
それだけで、この王都に来た意味は果たせただろう。
「すいません、お兄様。少し我儘を言ってもよろしいでしょうか?」
「おぅ?いいぞ?」
「あの、イルミネーションという物を一緒に見ていただけませんか?」
「イルミネーション...。」
イルミネーションといえば、前世の記憶が蘇る。
イルミネーションの輝く中、突然の告白。
驚く彼女、笑う俺。
まぁ、テレビの外から笑ってたんだけど。
「どうかしましたか?お兄様?もしも見たくないのであれば...」
「いや、見よう。イルミネーション!」
「お兄様!ありがとうございます。」
まさかイルミネーションをセシリーと見ることになるとはね…。
「お兄様...!!イルミネーション、綺麗ですね!!」
「あぁ、そうだな...。」
「お兄様...?何かありましたか?」
「いいや?何でもない..。イルミネーション...綺麗だな!」
「はい!お兄様...ご一緒してくださりありがとうございます」
感謝するのは俺の方だろう。
前世でしか見れないと思っていたものをもう一度みれた。
それだけで何か救われた様な気がしたのだから。
「お兄様...!」
「ん?どうした。」
セシリアから呼ばれてイルミネーションからセシリアの方へと視線を移したとき。
セシリアの瞳はイルミネーションではなく、違うものを映していた。
「あの子...。」
セシリアが指を指した方向には、貴族風の身形をした小太りの男と、ボロボロの服を着た奴隷の少女がいた。
「先ほどからあの子の様子がおかしいんです。」
確かに、傍目から見てもこの男女の様子はおかしい。
少女は足が動いておらず、宙に浮いている状態だ。
一方ら貴族風の男は、首輪を引き付って連れて行こうとしている様だが、筋力がないのか、その場から動こうとしない。
こんな行為、前世では到底許されないことだ。
だが、この世界では、貴族や裕福層の人間が力のない人間を奴隷として扱い従わせる事のできる「奴隷制」というものが存在する。
「確かに...?!って、おい。まて!!セシリー!」
俺がセシリアに何と返答しようと考えている隙に、セシリアが飛び出して行ってしまった。
その小さな背中を追いかけて、俺は数歩遅れて地面を蹴る。
「あぁ。クソッ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おい!このクソ奴隷が!!この俺様が、お前みたいなゴミの世話をしてやっているんだ!!もっと早く歩けよ、このウスノロ!!」
「ご、ごめんなさい。」
「チッ!ごめんなさいごめんさい、うるせえぇなぁ!」
男が奴隷の少女を罵倒し殴る。
少女は痛がることもせず、ただごめんなさい。と小さく呟くだけだった。
「ごめんなさい。」
「ッ!ぶつぶつ薄気味悪い奴だな?このゴミ!!」
男が拳を少女へと振り下ろそうとした時、まるで柔らかさの上に怒りを含んだ様なそんな凛とした声が男の動きを静止させる。
「その手を下ろしなさい!」
「はぁ?!誰だよ?お前?」
金髪の少女は整った顔を憤怒に染め、男へ怒りの表情を向ける。
「その前にその手を下ろしなさい!!」
「フハハハハ。見たところ、ちょっとした裕福層の人間だろう?俺は貴族だぞ?貴族!!カーズ男爵家、次期当主。サリフル・カール様だぞ??お前のような一般の民が貴族の問題に口を出していいとでも思っているのか?!」
男は、奴隷の少女へと向けた拳を引き込め、金髪の少女へと平手を振りかざす。
「この愚か者めが!!」
「きゃっ!!」
パチンッ
男が金髪の少女へと向けた平手は、意図せぬ方向からの妨害によって威力を失う。
男はその自分の平手を受け止めた黒髪の少年に驚きが隠せない。
「おい、何をやっている。このクソ豚。」
またしても、自分の...貴族の威厳を妨害する者が現れたのだ。
「ッ?あぁ?俺はカール男爵家....え?」
許せない。男は憤怒の表情をその膨れ気味の顔に乗せるが、その顔は少年の身形を見て青に色を変える
「カーズ男爵家?それがどうした、続きを言ってみろ?」
「い、いえ...。貴方は...。」
「貴様に語る名など、存在しない。それよりも、今...私の妹に...何をしようとした?」
何故なら、その黒髪の少年が着ていたローブに、公爵家の家紋が入っていたからだ。
---------
貴族にとって家紋というものは色々なところで役に立つ。
特に揉め事や権力関係の事になると、その効力を発揮する
◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆
俺が、セシリアの元へ駆けつけた時、男はセシリアへと手を上げようとしていた。
俺はその手から守る様に、セシリアの前に立ち、男の手を払う。
「セシリア、大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます...!」
「彼女を頼む。セシリア。」
「分かりました...。」
見た感じセシリアには怪我はないが、奴隷の子は大分消耗していた。
薄汚れた服には血が滲んでいる。
男は一度、何かを言いかけたが、俺のローブの元に視線を向けると直ぐに顔を下げた。
「おい、何故ずっと下を向いている?」
「っ!!申し訳、ありません!」
「謝る事しかできないのか...お前。」
「っ!申し訳...ありません!」
公爵家だと気づいた途端、下手に出てきた男に俺は不快感を露わにする。
「...。お前を騎士の元へ連れて行く。」
「な?!なぜですかッ?!私の奴隷ですよ?!それにあの女は貴方に何の関係もないはず!!」
男は騎士団と聞いた瞬間、膝を折り地面に手をついたまま抗議する。
が、この男は頭が残念なのだろう。
この状況を考えれば分かりそうだが。
「彼女は俺の妹だ。」
「は...い?」
「俺の義妹だと言っているんだ。」
「彼女がですか?」
「何度言わせれば分かる?そうだと言っているだろう。」
「私の義妹に暴力行為を働こうとした上に、彼女への見るに堪えない過度な暴行...受けるべき罰を受けてもらう。」
「あ、ぁぁぁあああ!!そんな。気が付くわけないだろ!!あの女が公女なんて..!!くそ」
公女に向けて自分が手を出そうとしたとなれば、ただでは済まない。
それを悟ったのか、いきなり奇声を発しだした男は、下を向きながら体を小刻みに震えさせる。
「セシリア、俺はこの人を騎士団に連れて行く。その間、この子を近くの病院に連れて行ってやってくれ。」
「はい。」
セシリアも大分疲弊しているようだ。
「あ、あの。助けてくださってありがとうございました...。」
「あぁ。助けるのが遅くなって済まない。大丈夫か?」
「はい。お姉ちゃんもお兄ちゃんも...ありがとう.......ございます。」
この子は、こんな状況になってもお礼を言うのか...。
理不尽に攻撃されて、罵倒されたというのに。
少女を見てみると、その眼には涙が潤んでいた。
やはりこの世界の奴隷制は間違っている。
彼女に対する敬意と共に、何もできない自分に怒りを覚えた。
「良いのよ。貴方に何もなくてよかったわ。」
「お姉ちゃん...。ありがとう...。私、怖かった...。怖かったよぉ。」
「よく耐えたわね...。もう大丈夫よ。後の事は、このお兄さんに任せなさい。さぁ...早く病院へ。」
「ありがとぉ...!!ありがとぅ...!!」
少女を見つめるセシリアの顔は慈愛に満ちていた。
セシリアは変わった。
あの日、俺に悩みを打ち明けてくれた日から。
「...とりあえずは、コイツをどうにかしないとな。」
俺は男の方へ視線を移す。
ずっと下を向き続け、ブツブツと何かを言っている男は、俺が近づいても変わらず動かない。
「おい、早く立て。お前を近くの騎士団に連行させて貰う。」
「アアァァふざけるなァァあ!!俺は貴族だぞっ!!」
男は、騎士団に連行されるという恐怖からか、顔を上げ俺を睨みつける。
その態度に、俺の中で何ともいえない怒りが沸き立つ。
「お前、醜いな。」
「うるさいうるさい...!公爵家がどうした、地位がどうした。そんなの関係あるか!俺が...俺が一番なんだよ!俺がぁぁぁ!俺があぁぁ!」
この男、明らかに様子がおかしい。
目の焦点も合っていないし、汗の量が異常だ。
恐怖で頭がおかしくなったのだろうか。
「ハハァ。知らねぇ...地位なんてしらねぇよっ!!」
気の狂ったように頭を掻きむしる男の姿は、まるで何かに憑かれているのではないかと思わせるほどのものだった。
「アッ」
気が済んだのか、男の動きが止まる。
何だったのだろうか?
「おい、行くぞ。」
そう言い、男の手を取ろうとした時、男は俺の手を払い一気に立ち上がる。
「死ねッ!!死んじまえ!」
男は何かを振り回しながら叫びだす。
それと同時に、俺は手に妙な違和感を感じる。
ーー熱い。
男から自分の手に目を移した時、何も感じなかった手から赤い何かが溢れ出していた。
血だ。
そう認識した瞬間、とてつもない痛みが俺に襲い掛かる。
「アア”ッ!!」
溢れ出す血の中に白い何かが見えた。
骨までいかれたのだろう。
想像を絶する痛みに目の前が歪んで見える。
「ッ!!!」
血が止まらない。
手首を抑えても、血が溢れる。
「兄さん!!」
「来るな”ァ”」
ここにセシリアを来らせてはダメだ。
それだけは考えられた。
俺の呼びかけに、セシリアは動きを止める。
「クッソ!!!」
「ハァ...死ねっ、死ねっ!!」
どうする。
どうする。
考えようとしても、痛みが思考を塗りつぶす。
死ぬ。
必死に考えて、でてきたのはこれだけだった。
視線を目の前に戻すと、男はまだ鈍器を振り回している。
今しかない。
こちらに気が向いてない内に、止血を済ませなければ。
「ッ!!」
足元の地面が赤に染まる程に血を流した。
このままでは出血多量で死ぬだろう。
どうせ死ぬなら、一か八かに賭けるしかない。
俺は頭の中で、火をイメージする。
ある程度の火力で人が燃え死なない程度の炎を。
ある意味、死ぬよりも痛みを伴うかも知れない。
そんな恐怖に喉が鳴るのが分かる。
「クソが...!」
やるしかない。
人間というものは死というものを悟れば何でもできるというが、それは本当の事だったらしい。
俺は、左手で作った火属性の魔法を、負傷した右手に向かって放出する。
「アァァ”!!クソッ...!!クソッ!」
痛い、なんて言葉じゃ表せない。
胃から食べた物が逆流して、胃液と混ざりあい、体中が燃え上がるような熱さに襲われ、目の前が朦朧として異常な吐き気に襲われる。
すべて吐き出してしまいたいが、ここで吐いたら意識が飛ぶだろう。
必死に我慢するが、痛みがそれを邪魔する。
「ウ”ェ...。」
吐く寸前で抑えたが、口の中が血と胃液で気分が悪い。
吐き気が収まったと思えば、次は手から、まるで意識を刈り取られるような、そんな痛みに襲われる。
心臓の鼓動と同じ等間隔で、痛みが走り、涙が止まらない。
「ッァ....!!」
なんで俺ばかり。
そんな、感情で頭が一杯だ。
肉が焼けた匂いにまた吐き気を催す。
自分の肉が焼けているのだ。
その現実に、痛みよりも先に怒りが先立つ。
コイツのせいで。
目の前の男を見る。
男は、俺が視線を前へと向けると、それに合わせて俺の方にナイフを向けて突撃してくる。
「アァ”?!」
まるで時を見計らったかのようなタイミング。
段々と近づいてくる男の足音。
俺は痛みで、一歩も動けないでいた。
そんな時、俺の後ろ側から何かの足音がした。
軽い音だ。
「兄さんッ!!」
その声と共に、目の前に最愛の義妹が突然現れる。
俺は一瞬何が起きているのか理解できなかった。
一瞬時が止まる。
それと同時に、セシリアが俺に向かって倒れこむ。
「は...?」
セシリアを抱きかかえるように支える。
「おい...!セシリアッ!!」
手のひらに嫌な感覚を覚える。
ドロッとしたその感触に焦りと恐怖で一杯になる。
自分の左手に目線を移すと、俺の手は血で赤く染まっていた。
「おい...!おいッ!!」
セシリアに呼びかけるが反応がない。
血の滲んだ左手付近に目を移すと、セシリアの下腹部には血が滲んでいた。
「は...?はぁ?!」
意味が分からない。
何だこれは。
現実なのか。
もう嫌だ...。
...俺を、庇ったのか?
「ハ....ハハハハハッ!!俺の勝ちだァ!!」
男の言葉が脳に響く。
ああ、ダメだ。
コイツはダメだ。
怒り、という感情が体中に蔓延する。
それは目の前の男に対する怒りか、自分の無力さに対する怒りか。
「殺す...!」
「ァ?」
そう決意した瞬間、目の前が白色に染まる。
白の...甲冑?
「遅れて申し訳ありません。」
甲冑を着た、男の声は酷く焦っていた。
「ルードフィ騎士団です。」
隣から違う男の声が聞こえる。
「ッ!彼女をこちらに!」
男が後ろの方へセシリアを連れて行く。
「速く...回復魔法をッ!」
何が起きているのか。
「貴方も怪我を...いる。」
邪魔するな。
「早くこちらへ!」
男の差し出した手を払う。
「何を...!」
アイツを..殺す。
「邪魔だ!!」
立ち上がった瞬間、一気に視界が歪む。
「アッ?!」
守れなかった。
たった一人の義妹さえ。
「ク...ソ...。」
俺は、ただの一度も抵抗できずに死ぬのだろうか。
稚拙で無力、守るべきはずの相手に守られて。
最後は何もできずに死ぬ。
醜すぎる。
自分がとことん嫌いになる。
あの日、この世界に来て変わろうと誓ったのに。
俺はまだ変われてすらいない。
守られてばかりだ...。
---------
「セシリアッ!」
手を伸ばした先には何もなかった。
いつもそうだ。
今回もそうなのか。
木目の綺麗な天井を見ながら、落胆する。
自分が嫌で嫌でしょうがない。
「フフッ。妹さんはご無事ですよ。」
「えっ?!」
突然、視界の外から出てきた声に驚く。
「お怪我の方は?」
「えーと、大丈夫です。」
優しい声と共に視界に映ったのは看護服を着たお姉さんだった。
流石、乙女ゲー世界というべきか。
かなり顔が整っていた。
「あのッ!セシリアは...!!」
「妹さんは、あちらで寝ていますよ。歩けますか?」
「は、はい。」
「それでは、お手を。」
看護師に連れられるがまま、木造の施設の中を歩く。
前世の医療施設には劣ってしまうが、この異世界には回復魔法が存在する。
それだけで、この世界の人間の死亡率は前世とは段違いだ。
俺も回復魔法を使えれば良いのだが、この魔法に関しては他の魔法と違い、才能がものをいう。
「こちらです。」
案内されたのは、集中治療室と書かれた個室だった。
それだけで、セシリアの傷が回復魔法でも治せない程のものだった事が分かる。
「セシリアさ~ん。」
看護師がノックをして、セシリアの名前を呼ぶ。
「はい。」
中から聞こえたのは、凛とした鈴の音色の様な声。
今まで何度も聞いてきた、義妹の声だ。
その事に、とてつもない嬉しさを感じたと共に、俺の中で様々な不安が頭をよぎる。
俺みたいな奴が会ってもいいのだろうか、と。
情けない兄に落胆しているのではないか。
弱い俺を許してくれるだろうか。
それに、傷跡や後遺症は。
様々な感情や不安要素が頭の中を埋め尽くす。
「セシリアさん、入りますよー。」
「はい。」
セシリアの返事と共に、看護師は取手を引き中へ入る。
俺は、入るか入らないか、少し悩みながらも部屋に入る事を選んだ。
ここで逃げたら、何か後悔する気がしたのだ。
「セシリアさん、お兄さんがいらっしゃってますよ。」
「へっ?!に、兄さん?!」
そんな声が中から聞こえたが、俺は構わず取手を引き、中へ入る。
「セシリア...。」
俺は下を向きながら、セシリアが寝ているベッドの近くに寄る。
どんな顔をすれば良いか分からない。
「ちょっと、兄さん!」
というか、俺は今どんな顔をしているのだろう。
セシリアを不安にさせてはいないだろうか。
「絶対に前を向かないでね!」
何から謝ろうか、どう謝ろうか、それで頭が一杯だった。
とりあえず、笑おう。
セシリアだって不安の筈だ。
そんな半笑いの様な、引き攣った表情のまま、セシリアの方へと顔を上げる。
「キャアッ!!」
その瞬間、セシリアから悲鳴の声が上がる。
俺は目を大きく見開き、何かあったのではないかと、即座にセシリアに視線を移す。
「見ないでって言ってるでしょッ!!」
最後に見えたのは、豊満な身体に赤色の下着を着た最愛の義妹の姿だった。
「グウェッ!」
やってしまった...。
だが、この痛みが現実だという事を教えてくれる。
それが何よりも嬉しかった。
少し長い物語になってしまいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。
好評でしたら、続編も書かせていただこうと思います。