死なないで
まじですいません。
「勝ち確の流れを持ってこいストローム!」
そう女が叫んだ瞬間,女は血反吐を吐いて倒れ代わりに黒い女が現れた。凡そ人間ではない力に当てられ, 己●●麻知●売●に体を明け渡した少女は目を醒ます。少女は神に禊を捧げる生贄として生を受けた。物心着く前から生贄として育った少女に名は無く,ただ巫女と呼ばれた。少女の村では言霊により加護を齎す神を祀っていた。しかし時が経つに連れ神の声が聞こえなくなり,焦った村の衆は神に贄を捧げ再び加護を得ようとした。だが贄と引き換えに加護を得るなど村にとって若干の不利益が大きい。そこで神を人の身に宿し,加護を与え続けるだけの舞台装置にしようと画策したのが今回の原因だ。神を身に宿した少女は身体の主導権を奪われ,村を,そこに住まう人を,女子供問わず皆殺しにした。村を守る為に生きてそれを疑わなかった少女には些か酷な事であり,少女は心を閉ざしてしまった。
久々に現世に降り立った神は興奮していた。目的がいくら邪悪でも現世に自分を降ろせる人間がまだ居た事に酷く感動していたからだ。昨今の人間は信仰心が足りず,全て科学なる人造の奇跡に耽っている。しかして現世に降臨した自分を観測できる者は限られている。ある程度神に近しい存在,日頃から神だの敬われ,力を持った現人神などほとんど...と考えて居る時。出会ってしまったのだ。トップアイドルとして活動し,神だの推しだの敬われ,魔法少女として力を持ってしまった少女と。その興奮は威圧として目の前の少女に降りかかる。少女は姿を変え殺気を飛ばす。神は反射的に「去ね」と言ってしまった。せっかく出会えた貴重な人間を己の短絡的な行いで殺してしまったと。しかし少女は立ち上がる。あまつさえ星の力を携えて。興奮は最高潮に達した。自分に力及ばぬ,現人神とまで行かぬ,一介の人間が我が権能を無効化したと。神は遊ぶ。決して殺さぬように,されど生かさぬように弄ぶ。少女は何やら呪文を唱える。血反吐を吐き倒れた少女を庇う黒い少女。倒れた少女から今も尚力を吸い取りながら現世に降臨したそれは現人神とも言える力を持つもの。神が踏み出した時身体の主導権が持ち主へと帰る。
「死なないで!」
それは先程のように無理やり紡いだ言葉ではなく,目醒めた少女の心からの言葉。何時しか黒い少女は消えており,血にまみれた最初の姿を変える前の少女。正直神に体を明け渡した後の記憶もあり,血濡れた手で抱き抱えるのは気が引けたが今は気にしちゃいられない。
「死なないで...」
少女は一つ勘違いをしていた。自分に勝つために抱き抱えた少女は自分を贄にあの黒い少女を召喚したのだと。同じような境遇の少女に死んで欲しくなかった。ただそれだけの理由で神から身体の主導権を奪い返した少女は確かに巫女であった。
(まさか我の支配を抜け出すとは。)
頭の中で嫌な声が響く。それは確かに自分の身体を使い,殺戮の限りを尽くした神の声だ。
(そう警戒するなみこよ。我と貴様は一心同体,これからよろしく頼むぞ?)
少女...みこの血の気が引いていく。自分を苦しめた神に名を授かったのを本能で感じ,これから離れられないことを悟ってしまったからだ。せめて腕の中の少女に被害が及ばぬ事をひた願う。