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勝てば良いだろ?

「コイツで終わりだ!」

相手の攻撃を盾で受け、そこから一歩踏み込み、相手の腹部を剣で突き刺す。同時に相手の眼から光が消え去る。そのまま相手を押し倒して剣を抜き取り、勝利宣言とばかりに剣を頭上に掲げる。

「テメェ!ふざけんな」「金返せ!」「早すぎだろ!この早×」「下手クソ」

周囲からは一切歓声は聞こえず、罵声を浴びせられながら剣を戻し退場して行く俺。

ゆっくりと戻る最中、回収班とすれ違う。その中の1人、回収班のヒゲのリーダーから毎回言われる。

「本当に下手くそだな」

「仕方ないでしょ?そっちは楽なんだから良いじゃん」

これだけのやり取り。回収班的には、散けたものの回収より、纏まってた方が楽だろうし、直しやすいと思うんだがな。

ゆっくりと戻りながら、ハゲがまた煩いんだろうと考える。

ドックに着き、機体から降りて整備班に起動キーを預け、確認事項のやり取りをし、ドックから出る。

「今日のは、良い機体だったな」

機体とはいっても、個人所有のモノでも商会の所有物でもない、競技の度に貸し出されるレンタル品だ。

先程までと異なり、足取り重く商会の事務所に向かう。


「どういうつもりだ!?」

ドアを開け、ただいまをいう前に、ハゲが怒鳴りつけてきた。流石にドア開けた瞬間に怒鳴りつけてくるとは思わず、耳が痛い。

「まぁまぁ、社長、とりあえず座りましょう」

教官のニコライさんが、社長を宥め、事務所のソファに促す。

社長(ハゲ)は顔の右上から左下にかけて傷のある、真っ当には見えない風貌をしている。ハゲなのは、顔の傷の治療ミスからくるモノだそうだ。

「ニコライ!お前たちの教育が悪いから、コイツはあんな剣闘しかせんのだぞ?」

ソファに座り、俺を指差し、ニコライさんに言う。

「いや、勝ったでしょ?」

空かさず言い返すのが、ほぼ日課だ。

「このアホウが!勝ち方に問題があると、何度言わせる気だ!」

「ええ?10体を相手に15分ですよ?流石にこれ以上早くは……」

言い終わる前に、頭に衝撃を受けた。つーか、痛え。

「長くしろって言ってんだろうが?お前はバカなのか、俺をバカにしてんのか、どっちだ!」

立ち上がったハゲがタコになりかけている。

「いや、レンタル品のFM(ファイターマシン)何ですよ?性能的にも、速戦即決しかないですよ」

「それをどうにかするのが、剣闘士のお前の仕事だろうが!」

ソファに座り直し、再び俺を指差し言う。

「いや、レンタル品壊したら借金増えるでしょう?社長、修理費用、出してくれるんですか?」

「お前、それは剣闘士持ちだろうが?奴隷の身分で、衣食住+給料、借金返済もしてやってんだぞ?オレの取り分、幾らだと思ってやがる!」

「いやいや、そもそも、奴隷じゃないでしょ?」

お互い立ち上がりかけ、中腰でテーブルを挟んでにらみ合う。社長は三度座り直し、ニコライさんを見ながら呆れたように言う。

「なら、さっさと借金返済してくれんとな?ニコライ、幾らだったかな?」

急に話を振られたニコライさんは、びっくりしながら答える。

「1億G飛んで5Bでしたが、今日の競技の分の返済で、残り9990G飛んで5Bですね」

「おお、10Gも稼げました?やっぱり、5競技出ただけはあるなぁ」

「5競技に出て10Gとか、アホウが」

腕を組みながら、心底呆れたように言う。

「何なんですか?10G何て、かなり返せましたよね!」

「普通、お前くらいの腕で5競技も出てたら、500以上は返せてんだよ」

「あれ、ぼったくり?」

「違います。ランクが低く人気がない上、賭け金が少ないからです。競技である以上は、観客を惹きつけ喜ばせないといけないと、何度も何度も私達も教えましたよね?」

ニコライさんが珍しく怒ってる?

「あ~でも、このままいけば、無事に返済は終わるでしょう?」

「客を呼べない剣闘士に価値があるならなぁ?今のままじゃ、出場枠を無くすぞ?どうすんの?出場出来なくなったら?」

急に子供に言い聞かせるように社長が言う。

「え?それは……」

「それなんですよ。貴方の戦い方に不満を持つ方が多いのです。また、競技ランクは最下級でありながら、負け知らずで、実際の強さは中級レベルはあるだろうと思われてますから、初心者狩りとも思われてます」

「ニコライさん、俺、そんなに強くないし、むしろ初心者側だよね?」

両手を前に出し、首を横に振る。

「でも、貴方の実際の戦績は無敗何ですよ?しかも早い決着」

「無敗のクセに客を惹きつけないって、本当にお前はダメだな」

「あ、え?」

「レンタル品に頼っているのも、問題何ですよ?個人所有のマシンがあれば、客にアピールも出来ますからね」

「マシン、買うか?」

ハゲがこちらを見ながら簡単に言う。

「初心者側だって、知ってるでしょ?簡単に買えるなら、社長が買って下さいよ」

「バカ言うな。初心者のお前に買ってやったら、全員分買わないと不味いだろ」

「ニコライさん、商会用の機体とか、無理ですか?」

「いやぁ、社長がもう少し、商会の儲けを多くしてくれないとねぇ」

困ったように言う。

「社長、見た目と言動、職業以外、善人ですからね」

俺も思わず社長を見て言う。

そう、この社長、奴隷剣闘士を多数抱えながらも、自身の取り分を少なくして、俺らに多くを寄越して借金返済に充てる変わったハゲなのだ。

まぁ、奴隷と剣闘士を取り扱っている以上、真っ当な人間とは言い難いが、元々が剣闘士出身なので、俺らは、社長をまだまだマシな人間だと理解してる。

「お前、見た目が何だって?」

「ああ、タコさんみたいだなと」

「ほほぅ?吸い付いて欲しいのか?」

テーブル跳び越えてハゲが抱きついてくる。

「ちょ、おま、や、止めろぉ」

俺自身、機体操作は兎も角、肉体的にはハゲに負ける。

「どうした?そんな事でオレ様を止めると?ほぉーら、キスするぞう?」

顔が近い、顔が近すぎる!このクソオヤジ!嫌がると分かって全力で嫌がらせをしやがる。

「テ、テメェ!俺の手が何処に有るか分かってんだろうな?タマ握るぞ?」

「ほ、ほほぉぅ。舌入れるぞ?良いんだな?」

「おま、い、今なら引き分けでも良いんだぜ?」

「オレ様のタマの強さを甘くみんじゃねーぞ、小僧?だが、引き分けでも許してやっても良いだろう」

「ああ、引き際が肝心だものな?」

ハゲが座り直す。

「なぁ、何で隣なんだよ?落ち着かねーよ」

ハゲが何故か隣に座る。

「あ?緊張してんのか?お子ちゃまねぇ」

片手を口に当て、もう片方を振る。その笑顔をぶん殴りたい。

「くっ!」

立ち上がろうとして、ニコライさんに止められる。いや、あんたも何で笑顔なんだよ。

「じゃれ合いはここまでにして、話し合いを続けましょう」

平然と言うニコライさん、この人だけは、真面だと思ってたんだがな。

「マシンなんて、買えないでしょ?幾らするんですか」

「買うなら10億は超える。本体のみな」

「自分の自由な金すら無いのに、どうやったら買えるんだよ?10億有るなら、自由を買って剣闘士なんて辞めてるよ」

「まぁ、そうでしょうね。社長?」

「説明は任せる」

「では、ある程度、無料で手に入れる方法を紹介しましょうか」

「は?そんなの有るの?ニコライさん、正気?」

「正気ですよ?まぁ、ある程度ですからね?全部無料ではありませんよ」

「無料とか、胡散臭すぎだなぁ。そもそも社長がその方法で、機体を入手してないですよね」

「オレは剣闘士じゃないからな」

「まぁ、とにかく聞きなさい。このエリアについて、知っていることは?」

「聞きなさいって言って、質問か?剣闘士が闘うためのコロッセオが中心にあり、周囲に剣闘士を抱える事務所が複数ある。コロッセオ自体は国で管理していて、病院、マシンのドック、レンタル品も国の管理くらいかな」

「近場には、マシンの製造工場跡もあります。来るとき見たでしょうが、コロッセオの周辺は居住地で商業地区、工業地区、居住地区、行政地区等、色々あります」

「それで?」

「コロッセオから、マシンの製造工場跡に行けます」

「跡地から持ってくるとか言わないよな、ニコライさん?」

「似たようなモノですよ」

「おいおい、跡地って言ったって、残り物なんか有るわけじゃないだろ?仮に有ったとしても、古い機体だったら話にもならねぇ。そもそも、仮にも奴隷扱いの俺が、近場とはいえ、外出なんて出来ねーだろ?」

「コロッセオの地下から行けるぞ」

ハゲがぶっきらぼうに言う。

「え?いや、そうだとしても、コロッセオ、ドック、病院、事務所くらいしか移動出来ねーだろ?」

「練習扱いで行けるぞ」

「そう、ランクアップが条件の一つですがね」

「ランクアップだぁ?」

「今の貴方のランクは最下級で2級、1つ上がってますね。これを、10級までは上げないといけません」

「いやいや、出場枠が無くなりそうな人間がランクアップなんて出来ねーだろ?」

「大丈夫です。ちょっと無理して貰うだけなので」

「いや、ランクアップしないと、行けないんだろ?無理って、何するんだ?」

「格上とバトルするんですよ」

「格上?」

「昇級審査試験とも言いますが、一月に10戦くらいします。相手に依りますが、10級以上の剣闘士と闘って勝だけの簡単ランクアップ術です」

「うわー、お手軽ですねぇ……って、言うか!10級以上って、マシン持ちとかだろう?レンタ君で勝てる相手かよ」

「ですから、昇級審査試験に応募して、OKなら跡地に行けるんですよ」

「え?マジ」

「昇級審査試験に合格出来れば、マシン持ちに成れます。失敗すれば、没収されます」

「ああ、成る程?で、出掛けるマシンが無いんだが?どうしたら、跡地に行けるの?」

「足が有るだろう?跡地には、何故かマシンがある。その中から1つ、自分のマシンとして入手する。武器を探す、跡地の地下に潜る、謎のマシンと闘う、勝、パーツをゲットして、ドックで付け替える。どうだ?簡単だろう」

「いや社長、謎のマシンと闘うってなに?パーツゲットしてドックで付け替えるとか」

「剣闘士の醍醐味よ!謎のマシンは謎のマシンでな?自律型戦闘マシンで、跡地によく出るんだ。勝てば、残ったパーツを丸ごとくれるんだ」

「おい、本体に何だよソイツは」

「私も現役時代、大変世話になったものですよ」

「中級レベル以上は、皆やってるぞ?地下何階層かは知らんが、下に行くほど良いパーツをゲット出来るし、要らないパーツは売っても良い。但し、売ったパーツを別の奴が買って、結果強くなる奴もいたがな」

「成る程ね。でも、何で今何だよ?もっと早く教えてくれてもさ?」

「中級レベル以上は潜れるんだが、10級以上の腕とマシン性能は伊達じゃ無いぞ?剣闘士の才能があれば、こんな危ないことは、中級レベルになってから、やらせたいだろ?」

「いや、マシン有るんだろ?なら、どうにかなるだろ」

「跡地のマシンは、殺す気満々ですから、下級ランカーだと、死にます」

「は?そんな物騒なのか?」

「マシンも奪われる側だからな、そりゃあ、殺ル気十分だろう。お前なら、ま、大丈夫だろうよ!」

「そうですね。欲しい部分を残して、相手を仕留める。技術力も上がりますよ」

マジか此奴ら……

「そういや、パーツゲットって、普通に持ち帰るのか?2体くらいが限界か?」

「ああ、回収班が居るから、其奴らに任せる。報酬は、余剰パーツを売って作れよ?最低10Gは要るからな。パーツ量が多いと、報酬も多いし、奥に潜るほど、当然報酬も跳ね上がる」

「最低で10G?あれ、マシンのメンテナンスとかは?」

「自分持ちだと言っとるだろう?大丈夫だ、パーツ売れば余裕よ」

「社長、何で貧乏商会やってんの?」

「ん?お前、本業は順調だぞ?剣闘士の興行は趣味だ。商会って言ってるんだから、分かってんだろうなと思ってたんだがな」

「あ、そう?なら、程々に頑張るわ」

「死ぬ気で頑張りましょうか?剣闘士デビューして2ヶ月、技術力は兎も角、危なっかしさが抜けてませんから」

ニコライさんが真顔で言う。

「分かりましたよ」

俺は立ち上がり、宿舎に戻った。


「しかし社長、シオンにはちょっと厳しいですね」

「あいつには、簡単だろうよ」

「ああ、いえ、態度が、ですよ」

「そんな事はあるまい。多少、人は見てるがな」

ニコライは、やれやれとばかりに首を振る。

「さて、手続きしますか」

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