8.勃発
ライトノベルを書いてみようと書きました。
8.勃発
みさとの部屋でエミリーが本を読んでいた。テーブルにはお茶の支度が為されている。
「男の人は云いました。『歌うように笑うと、右端が見える。女の人は眼を見張りました。』」
そこへポールがやって来た。
「やあ、ポール。」
みさとが微笑む。
「こんにちは、お二人さん。お邪魔だったかな?」
ポールが云う。
「いいえ、ポール様。」
エミリーが朗らかに笑う。
「本を読んでいたの?」
ポールが訊く。エミリーは、微笑んで頷く。
「ええ、詩集ですわ。」
「凄いな、エミリー。もう字が読めるようになったんだ。」
ポールが云う。
「そうなんだ。エミリー、凄いんだ。」
みさとが美しく微笑む。
「みさと様のお蔭ですわ。」
エミリーが云う。
「いえいえ、僕は何も。エミリーが、頑張ったからだよ。」
みさとがそう云い、ティーカップを口に運んだ。
「それでも、みさと様のお蔭ですわ。」
エミリーが今度は、ポールに向かって云った。
「今は、みさと様に、テキストを作って頂いて、字を書く練習をしていますの。」
エミリーがポールの分のお茶の支度を始めた。ポールはそれを待ちながら、ボソリと呟いた。
「美しき師弟愛。なんか、妬けるな。」
声に幾分本気が混じっている気がして、みさとはどきりとしたが、エミリーはきょとんとしている。全くこんなとこだけ鈍いんだから、とみさとは思い、でもそれがエミリーの良さだとも思った。
「一寸質問があるんだけど、」
気まずさを打ち消すようにポールが云い、エミリーが首を傾げる。
「何ですか?」
「トゥルプティーの空はシールドで覆われているんだろ? 何で雨が降るんだ?」
「そのシールドは、水分を通すんですわ。」
エミリーの答えはシンプルだった。
やがてポールが口を開いた。
「悠弥さんのことを話して呉れないか。」
ポールは、一言一言区切るようにゆっくりと云った。みさとは躊躇った。
「名前は吹雪悠弥。雅エンタープライズの新入社員で、僕の部下だった。だけど、僕があんまり悠弥に懐いたから、俊叔父さんが悠弥を首にしたんだ。」
みさとは、そこまで云って起き上がった。
「お仕舞い。」
歌うように節を付けて、みさとは云った。
ランの部屋に、冬也が入って来た。
「呼び出したりしてなんなんだ?」
冬也がランに云った。
「冬也、貴方、昨日、リオに逢った?」
ランが緑色の眸を光らせながら、訊いた。
「逢ったよ。」
冬也が、答えた。
「何時に?」
「四時過ぎ。」
冬也が答えると、ランは奇妙に訳知り顔で頷いた。
「その時間、雅みさとは居なかった。」
冷たい声でランが云った。
「どう云う意味?」
冬也が訊く。
「リオは、雅みさとだって云ってるの。」
「馬鹿らしい。」
ランの言葉に冬也は、吐き捨てるように云う。ランは言葉を重ねた。
「一昨日の二時は? その前の十一時半は?」
「どうしてそれを?」
冬也の顔色が蒼白になった。
「これは、雅みさとが姿を消した時間のリストよ。」
ランは云って、三枚の紙を冬也に差し出した。
「これを見てもう一度、貴方のリオの正体が何者なのか、よく考えてみることね。」
冬也は、リストを受けとった。
宮殿の廊下で、冬也はリオを見つけた。
「みさとくん、これは君が姿を消した時間のリストだ。」
冬也は、固い表情のまま、日本語で云った。
「何云ってるの?」
リオがトゥルプティー語で云う。
「そんな、やめて呉れよ、みさとくん。僕は、確かに、君に惹かれていたよ。」
冬也が手をひらひらさせた。
「トーヤ。」
リオが云った。冬也は、突然、猛り狂った。
「そんな風に呼ぶな!」
冬也はリオを押し倒して、その首筋に顔を埋めた。
「冬也!」
リオは叫ぶ。冬也は、ハッとして動きを止めた。
まだまだつづきます。