5.小休止
ライトノベルを書いてみようと書きました。
5.小休止
朝食の席で、ポールが口を開いた。朝食のテーブルの上には所狭しと料理が並んでいる。
「みさとの熱はどうなんだ?」
「まだ下がらないのよ。」
ランが答える。冬也が軽い調子で訊く。
「みさとくんの微熱、まだ下がらないの?」
「違うのよ、今40度以上もの高熱を出して寝込んでいるの。」
ランが頭を振った。
「昨日の夕方、大雨が降っただろ? みさとが帰って来ないので、俺とエミリーで心配してあちこち捜したんだ。」
ポールが続けて説明した。
「昨日の夕方?」
冬也は、吃驚して大声を出した。
「そう。中庭の温室の脇で倒れてたんだ。何だって、あんな雨の中、表になんか出たんだか。」
ポールが云う。
「僕のせいだ。」
冬也が頭を抱えた。
「冬也、貴方、昨日、みさとくんと会ったの?」
ランが驚く。
「うん。」
冬也が頷く。
「それでみさとに何を云ったんだよ?」
ポールが声を荒げた。
「ちょっとポール、そんな云い方、辞めなさいよ。」
ランが割って入る。
「ごめん。」
冬也が頭を下げた。
「だってみさとは、まだ意識戻ってないんだぞ。」
ポールが云う。
「まあ、今日、意識が戻らなかったら、クリスタルに入れるわ。」
ランが云った。
翌々日、みさとの意識が戻ったと聞いた冬也は、みさとの部屋に来た。みさとの部屋の前には、ランが居た。
「みさとくんの意識が戻ったんだって。」
冬也が訊いた。ランは頷いた。
「そうなの。先刻やっとね。」
「みさとくんに会える?」
冬也が訊く。
「ええ、でも、ポールが居るわよ。」
ランが云う。
「うん。」
冬也は頷いて、みさとの部屋に入った。
みさとの部屋の中央には、ベッドがあり、みさとが横になっていた。その横に座っていたポールが、冬也の姿を見て、立ち上がった。
「みさとくん、調子はどうだい?」
冬也が云う。
「何しに来たんだよ。」
ポールが冷たい声を出す。
「ポール、いいんだ。」
みさとが制する。
「やあ、冬也くん。お見舞いに来て呉れたの?」
みさとが微笑んだ。その微笑みは儚げでより一層華奢になったようだ。
「うん、大丈夫? まだ熱があるの?」
冬也はぎこちない微笑みを浮かべた。
「もう平気だよ。熱も大分下がったし。」
みさとが笑う。
「何が平気だよ、先刻まで意識が戻らなかったくせに。俺もエミリーも凄く心配したんだぜ。熱だってまだ9度以上あるんだろ?」
ポールが横槍を入れる。
「昔から体が弱かったから、熱には、慣れっこなんだ。」
みさとが云った。
「この間はごめんね。」
冬也が云う。
「いいんだ。」
みさとが云う。ポールが訊く。
「それで冬也、みさとに何云ったんだよ。」
「媚びたような仕草が大厭いなんだって。」
みさとは笑う。
「へえ。」
ポールが眉をつり上げる。
「云わないで呉れよ、みさとくん。本当に悪かったと思っているよ。」
冬也が云う。
「それで雨の中、外に飛び出したってわけか。」
ポールは云う。
「それもあるけど、薔薇が咲いた気がしたんだ。」
みさとがはにかむ。
「薔薇?」
ポールが訊き返す。
「前に温室に黄色い薔薇の蕾があっただろ? あの花が咲いた気がしたんだ。」
みさとが長い睫毛を伏せた。
みさとの枕元にエミリーが薔薇の花と花瓶を持って来た。
「エミリー、それ、この前の薔薇だろ?」
幾分気怠気な声でみさとが云う。
「ええ。ポール様が咲いていたら、摘んで来るようにって。」
エミリーが薔薇を活けながら、云う。
「本当に綺麗だね。」
みさとが、エミリーが活けた薔薇の花を見ながら、ほーっと大きな溜め息を吐く。
温室の薔薇は、美しく咲き誇っていた。大きな黄色の花弁は天鵞絨のようで、そこに露が玉のように煌いている。
「綺麗ですよね。」
エミリーが微笑んだ。
「みさと様、アイスノンが温くなって来ましたね。交換して参りましょう。」
エミリーが云う。
エミリーが出て行くと同時にポールが入って来た。
「やあ、咲いたねえ。」
ポールが云う。
「うん、綺麗だね。」
みさとが相槌を打つ。
「ポール、ありがとう。」
みさとの言葉にポールは首を傾げる。
「何が?」
「薔薇。」
みさとが微笑む。
そこにエミリーが帰って来た。
「ああ、ポール様。」
「エミリー、ありがとう。」
ポールが云う。エミリーが首を傾げる。
「何がですか?」
「薔薇。」
ポールが云い、みさとがくっくっと笑う。
「どうしたんですか?」
エミリーが訊く。
「いや、先刻同じようなやり取りがあってね。」
みさとが笑った。
「みさと様、アイスノン、替えましょうね。」
エミリーがアイスノンを替える。
「ごめんね、エミリー。こんなことばっかりさせて。」
みさとが云う。エミリーが微笑む。
「いいんです。わたしは看護の仕事をするのが夢なんです。」
「へえ。」
みさとが微笑む。
「なあなあ、トゥルプティーのナースってやっぱり魔法の力で患者を癒すのか?」
ポールが身を乗り出す。
「人によって違いますけど、大抵ヒーリングの力を訓練しますわ。」
エミリーが云う。
「そうだ、エミリー、僕に手を翳してみて。」
みさとが云い出す。嬉しそうだ。
「こうですか?」
エミリーがみさとに手を翳した。
「うん。楽にしててね。」
みさとがエミリーの手に、手を翳す。やがて、エミリーの手にピンクの光が集まった。
「みさと様、これは!」
エミリーが驚いた声を出す。みさとは微笑んだ。
「君の中に眠っていた魔法の力だよ。今度はそれを僕の体に流し込むようにしてご覧。」
エミリーが、力をみさとに流し込んだ。
「そう、良い感じ。」
みさとが云う。
「すげえな、みさと。何をやったんだよ?」
ポールが大声を出す。
「エミリーが持っている力を引き出したんだ。」
みさとが答える。
「ありがとうございます、みさと様。」
エミリーが頭を下げる。
「いいんだ。エミリーには、随分とお世話になってるからね。」
みさとは微笑んだ。
「さあ、今度はエミリーが自分のちからで頑張る番だよ。掌にエネルギーを集めるんだ。先刻僕がやったときの感覚を思い起こしてね。」
まだまだつづきます。