2.囚われ
ライトノベルを書いてみようと書きました。
2.囚われ
目を開けたみさとは辺りを見回した。金髪の女性が覗き込んで来た。
「気が付いた?」
トゥルプティーのユキコ王妃だ。
「此処は?」
ユキコ王妃は白い歯を見せた。
「トゥルプティーのクリスタルよ。あと2、3日で出られるわ。」
クリスタルとは、トゥルプティーの医療器具で魔法の力を貯め込んだ水晶のカプセルだ。
3日後、クリスタルから出られたみさとは、改めてユキコ王妃と接見した。
「今回のことは、本当に悪かったと思ってるわ。ラベンダー叔母様の遺産についてはトゥルプティーは今後一切関知しません。娘を助けて呉れて、本当にありがとう。」
「いいえ。」
ユキコ王妃は窓に近付いて、北の塔の残骸を見下ろした。
「あの爆発では、貴方が抱き締めて呉れなかったら、ランは助かってなかったと思うわ。」
「それなら、日本に帰して下さい。」
みさとは懇願した。だが、ユキコ王妃は首を横に振った。
「それは出来ないわ。貴方には、完全に回復するまでトゥルプティーで療養して貰うわ。」
ユキコ王妃との接見が終わったみさとは、トゥルプティーのプティー王との接見に臨んだ。プティー王とは名前ではなく、魔法の王様と云う意味の呼称だ。
「みさとくん、大きくなったねえ。」
王はみさとを抱き締めた。
「五歳の時、トゥルプティーを訪れた時も、貴方は僕を抱き締めて呉れましたね。」
みさとは云う。プティー王は涙を浮かべた。
「あの時、君は凄く小さくて華奢で、この子は長生きしないだろうと思われた。よく無事に大きくなって呉れたね。」
「ありがとうございます。」
「私は元々、トゥルプティーの人間ではないからね、ラベンダー様との過去の経緯も余り知らないんだ。だけど、妻と娘は生粋のトゥルプティー人だから、随分と強引なこともしてしまったみたいだ。赦して呉れ給え。」
みさとは、プティー王の優しい物言いに涙を流した。
みさとにはトゥルプティー宮の客間の一室があてがわれた。
金のウェーブの髪の少女がおじぎをした。
「エミリーと申します。普段は、ラン様の側付きの女中ですが、この度、みさと様の身の回りのお世話をすることになりました。」
みさとも微笑んで頭を下げた。
「よろしく。」
「だけど、ほんとにお綺麗ですわ。」
「ランちゃんだって、綺麗でしょう?」
「そうだけど、みさと様も凄くお綺麗ですわ。魔法も使えるし。」
みさとは笑った。
「あれは只のESPだよ。」
「それでも凄いですわ。わたしは魔法が使えないから、羨ましいくらいです。」
みさとは改めてエミリーを見た。
「トゥルプティー人はみんな魔法が使えるんぢゃないの。」
「トゥルプティー人も学校で魔法を習得するんです。大抵のトゥルプティー人は、一生掛けて一つの魔法を習得します。そして、その職業に就きます。ラン様のように魔法を自在に使える方は、稀ですわ。わたしは幼い頃から、宮仕えをしていたので、学校には行けてないんです。」
「そうなんだ。」
みさとは優しい眸でエミリーを見つめた。
「お召し物はどうしましょう? 何を用意すればいいですか?」
エミリーが聞いた。みさとはちょっと考える。
「羅衣ってあるぢゃない? あれがいいな。」
「羅衣って、トゥルプティーのあの、伝統的な羅衣ですか?」
「そう。一度着てみたかったんだ。」
みさとは微笑んだ。
みさとの部屋にランが訪ねて来た。
「みさとくん、調子はどう? まだ熱があるって聞いたけど。」
「ランちゃん。」
みさとは、白いワンピースのようなものを着ている。トゥルプティーの羅衣だ。麻で、ほんとはズボンなのだが、裾が広がっているので、ロングスカートのように見える。
「まあ、羅衣なんて着ているの?」
「エミリーが用意して呉れたんだ。」
ランはみさとを見つめた。みさとは元々華奢なのだが、更に細くなったように見える。小作りな顔がより小さくなったようだ。
「みさとくん、今回のことは、本当に悪かったわ。そして助けて呉れてありがとう。」
「僕の方こそ、北の塔を滅茶苦茶にしてしまって、ごめんなさい。」
みさとは細い声を出した。
「それよりも、悠弥さんのこと、ごめんなさい。」
ランは謝ったが、みさとは表情を変えなかった。その様子は、ランの目にも、横で見ていたエミリーの目にも、無理をしているように映った。
「それも僕が悪かったんだ。」
みさとは、また細い声で応えた。
「どうしてよ。悠弥さんに魔法を掛けたのは、わたしだわ。」
「でも、それでも、」
みさとは吐き出すように云った。
「僕は気付かなければいけなかったんだ。あんなに大切な人だったのに。」
まだまだつづきます。