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純情と妖艶  作者: カゲリ
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1.闘い

ライトノベルを書いてみようと書きました。

1.闘い


 いかがわしい夜の街を少女が足早に急ぐ。

 男同士が愛を交わすこの街は本当は女性は安全な街なのだけど、今の少女にそんなことを気にする余裕はない。

 怪しげな雑居ビルに入ると、少女は大きく息を吐いて、帽子を取った。紫の髪が零れる。紫色の髪に緑の眸の、目映いばかりの美少女だ。少女の名は、ディオール・オーラ・ラン、日本名で藤野ラン。空に浮かぶ魔法の王国、トゥルプティーの王位継承者だ。

 トゥルプティーは世界を影から支配する大国だ。魔法を使うことができる人々が暮らしていた。しかし、世界には公表されていない。一部の特権階級の人――大物政治家や大企業――たちだけの秘密だ

 トゥルプティーの古い予言では、ランは世界の危機を救う奇蹟の子とされている。ランの即位を待って、世界に公表されることになっている。

 ランは細い通路を抜けて、一軒の店に入った。此処は男娼の居る店だと、ランは聞いていた。店の中には少年達がいた。店の奥に少年達の固まりがあった。その中心に一際美しい少年いた。

「みさとくん!」

 ランは少年に駈け寄った。この美しさは見間違えようもなかった。雅エンタープライズの御曹子、雅みさとだ。二年前から行方不明の雅みさと。

 ランが、トゥルプティーがいくら調べても判らなかった、雅みさとの痕跡。こんな所でみつかるなんて。

「ランちゃん。」

 みさとと呼ばれた少年が顔を上げた。黒い真っ直ぐな髪は背中まで波打ち、白い肌に真っ赤な唇、漆黒の眸、睫毛が驚く程長い。

「藤野ランだ。」

 周りの少年達が口々にそう云って、騒ぎ出した。

「え、どうしてみんな、ランちゃんを知ってるの?」

 みさとは目を丸くする。ランは少し前から芸能活動をしている。

「みさと、藤野ランと云えば、今を時めく、アイドルだぜ。」

 みさとの隣りの少年が云ったのを反対側の少年が訂正する。

「女優だよ。」

「ランちゃん、女優なんて、やってたの?」

 みさとの言葉に、ランは軽く微笑んだ。藤野ランを今の日本で知らないなんて、ランは内心舌を巻いた。

「まあね。」

「何で? 広報活動?」

 トゥルプティーが世界に公表されるのに備えているのか、と云う意味だろう。確かにそう云う意味もランの芸能活動があった。

 でも、今はそんな話をしに来たわけぢやない。

「わたし、君に話があって、来たんだけど。」

「みさと、藤野ランと知り合いか?」

 少年達がざわつく。今度はみさとが微笑む番だった。

「まあね。」


 みさととランは屋上に出て来た。

「随分捜したのよ。まさか雅エンタープライズの御曹子がこんなとこに居るなんて。」

 ランは口を開いた。雅エンタープライズとは、世界的な大企業だ。

「この二年間、トゥルプティーも随分捜したのよ。だけど、行方は判らなかった。」

 みさとは二年前に家を出た。それから行方が判らなくなっていたのだ。

「だけどよく判ったね、僕があれだけ痕跡を消したのに。」

 みさとは笑う。

「それが全くの偶然なのよ。うちのブロダクションのデスクに、君の写真と資料が置いてあったのよ。雅みさと。十七歳。男娼。過去の経歴、一切白紙。」

みさとは吃驚した顔をした。

「プロダクションのスカウト? それは盲点だったな。企業とか国とかは考えてたけど。」

 ランは笑った。

「うちのプロダクション、君を謎の少年として売り出す積もりだったみたいよ。」

「謎の少年?」

「そ。幾ら調べても過去の経歴が一切判らないのが、かえって好都合なんだって。わたしみたいに汚れ役も出来ない清純派より君みたいな方がいいんだって、」

「まさか、」

 ランの言葉をみさとが遮った。

「まさか、懐かしくて、会いに来て呉れたわけぢゃないんでしょ?」

「そんなに、警戒しなくてもいいぢゃない。話って云うのはね、ラベンダー大叔母様の遺産を返して貰えないかなと思って。」

 ランは固い表情をしているみさとに笑い掛けた。

「ラベンダーの遺産?」

 笑っていたランの顔が引き締まった。

「ラベンダー大叔母様が亡くなったのは、君が家を出る直前のことだった。その時、ラベンダー大叔母様が所有していた筈の財産はみつからなかった。トゥルプティーはその後も調査を続けたわ。その結果、問題の遺産はその三年も前に、雅みさと名義に書き換えられていることが判ったの。」

 みさとは不敵に微笑んだ。

「それがどうかしたの?」

「やっぱり君が持ってるの? あれはトゥルプティーの財産よ。」

 声を荒げたランに対し、みさとは冷静に頭を振った。

「違うよ。あれはラベンダーから僕への個人的な贈答だ。」

 ランは鋭い声を保ったまま云う。

「トゥルプティーの財産が雅エンタープライズに流れるなんて、到底容認出来ないわ。」

「雅エンタープライズには、一銭も入ってないよ。あの財産はラベンダーからの個人的な贈り物だ。だからあの財産は僕が全て管理している。」

「みさとくんが持ってるなら、雅エンタープライズに流れたのと同じことだわ。トゥルプティーの国家予算の何十倍にも相当する額なのよ。大体、君とラベンダー大叔母様の間にどういう関係があるって云うの?」

「友情だよ。」

 みさとは真顔で答えた。

「ラベンダーは僕のおばあちゃんと云ってもいいくらいなんだ。五歳の時にトゥルプティーを訪れて、ラベンダーに会った。それから、僕の部屋にはラベンダーとの専用回線が引かれたんだ。」

「知らなかったわ。わたしもラベンダー大叔母様とは二、三回しか、お目に掛かったことがないのよ。」

 みさとは顔を顰めた。

「ラベンダーはトゥルプティーには親近感を持てないって云ってた。」

 ランも顔を顰めた。

「謀反があったのよ。」

「違うね。先王の姉だったラベンダーは、権力争いに敗れただけだ。そしてあの塔に幽閉されていた。」

 みさとの言葉にランは眉根を寄せた。

「歴史認識の違いだわ。」

 ランは溜め息を吐いた。

「そうかなあ。」

「そんなことより、遺産を返して貰えないかしら。」

 みさとは首を振った。

「厭だ。ラベンダーはトゥルプティーには遺したくなかったんだ。僕はラベンダーの意思を尊重したい。」

 みさとは黒い眸を煌かせた。

「ぢゃ、厭だって云うのね。」

 ランの顔が険しくなる。

「そうだよ。どうするの?」

 挑発するようにみさとが云う。

「仕方ないわ。力尽くで取り戻すのみよ。」

「最初からその積もりだったんでしょ?」

 紅い唇が笑う。ランは応えず、間合いを取った。

 

 突然の攻撃だった。ランが赤いエネルギー体をみさとに向かって放ったのだ。そのエネルギー体はみさとに当たるかと思われた。だがその直前、みさとは青いバリアを出して、それを防いだ。

「使えるのね。」

「魔法はトゥルプティーの専売特許ぢゃないんだよ。」

 みさとが笑う。

「雅家の英才教育はそこまでやるのね。」

 ランは驚いた。

「予想外だわ。一発で仕留める積もりだったのに。場所を変えましょう。」

「場所?」

「トゥルプティー宮の北の塔は如何?」

「ラベンダーの塔だね。」


 ランの力でトゥルプティーに瞬間移動して来たみさとは、ランの部下と闘っていた。同じ頃、トゥルプティー宮の大広間ではランが一人の青年と会っていた。

「はじめまして。ディオール・オーラ・ランです。」

「吹雪悠弥です。」

 悠弥はかつて、みさとの腹心の部下だった男だ。

「貴方のことは、雅みさとが唯一心を許している人間だと聞いているわ。それで貴方にお願いがあるんだけど、みさとくんを説得して欲しいの。」

 端正な顔立ちの青年が眸を伏せた。

「私はみさとぼっちゃんのご意志に従うまでのことです。」

 ランは眉をつり上げる。

「ぢゃ、断るって云うのね。」

「はい。」

「どっちみち、貴方にはみさとくんに会って貰うわ。」

 ランは、悠弥に右手を翳した。


 みさとが闘っている北の塔に、悠弥がやってきた。だけど、みさとには悠弥の姿がランの部下に見える。悠弥には、ランの魔法が掛かっているのだ。

「みさとぼっちゃん。」

 悠弥がみさとに近付いて来る。

「厭、来ないで。」

 みさとが悠弥を攻撃する。悠弥はひるまない。

「みさとぼっちゃん、私を見て下さい。」

 また一発。悠弥は倒れた。更に一発。

 その時、幻が晴れた。

「悠弥!」

 みさとが悠弥に駆け寄った。だが悠弥は既に、事切れていた。

「みさとくん。」

 ランが出て来た。

「悠弥!」

 みさとは泣き叫びながら、悠弥を揺さぶっている。だが、何の反応もない。

「いやーっ!」

 みさとの全身にエネルギーが充満した。ランは咄嗟にバリアを張ろうとしたが、弾かれてしまった。瞬間、全てが消し飛んだ。爆発の直前、みさとはランを抱き締めた。


まだまだつづきます。


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