9.調停
ライトノベルを書いてみようと書きました。
最終回です。
9.調停
ランは薄暗い廊下で、蹲っている冬也を見つけた。
「どうしたの、冬也? こんな所で、電気も点けないで?」
ランが訊く。冬也が振り返った。
「やあ、ラン。」
冬也は、弱々しく云った。
「どうしたの?」
ランは訊いた。
「リオをレイプしようとしたんだ。」
冬也は云った。ランは言葉を失った。
「でも、リオはみさとくんだったんでしょ?」
やっと言葉を探して、ランが云った。冬也は、頭を振る。
「それは、関係ないよ。僕は、自分で尊いと思ったものを、自分で壊そうとしたんだ。」
掛けるべき言葉をランは、持たなかった。
その翌日の朝、トゥルプティー宮殿の大広間。
テーブルの上には、所狭しと料理が並び、ランと冬也が、ポールを待っていた。其処に白い羅衣姿の雅みさとが現れた。
「朝食をご一緒させて貰ってもよろしいでしょうか?」
流暢なトゥルプティー語で、みさとは云う。
バサリ。大きな音がして、ランが振り返ったら、冬也が読んでいた文庫本を取り落とした所だった。
そうか、これはリオなのか、ランは思った。冬也が敬愛するリオ。壊してしまったと思っているリオ。ランはみさとをしげしげと見つめた。黒い髪に、長い睫毛に縁取られた黒い大きな眸。肌は抜けるように白く、赤すぎる唇が引き立っている。この少年――冬也にとっては少女――は、とにかく美しい。
「ええ、勿論よ。」
ランは、みさとに云い、傍付きの女中を振り返った。
「朝食をもう一膳用意して頂戴。」
「畏まりました。」
アーモンド形の目をした少女がそう答えた時、ランはそれまで、抱いていた違和感が氷解した気がした。みさとが使ったトゥルプティー語は、臣下の者が使う謙った表現だったのだ。
「トーヤ、わたしは大丈夫よ。貴方がわたしは穢れてないと云ったでしょう? わたしは大丈夫よ。」
みさとが流暢なトゥルプティー語で云った。
「リオ。」
冬也がみさとを見た。
「僕を赦して呉れるのかい?」
冬也が、片言のトゥルプティー語で云う。
「ええ。わたしは穢れていないでしょう?」
みさとは微笑んで見せた。
「ああ、君は綺麗だ。」
云いながら、冬也は、みさとに吸い込まれるような心持ちがした。
「なら、わたしは大丈夫。」
みさとはもう一度莞爾とした。
「ありがとう。」
冬也は、涙を浮かべた。
「ありがとう、みさとくん。わたしの友人を助けて呉れて。君のトゥルプティーでの療養は、終了とします。君を日本に帰すわ。」
きっぱりとランが云う。
「それなら、俺が証人になろう。」
入り口で声がした。
「ポール!」
ランはそこにポールの姿を認めて、愕いた声を出した。
ポールは――実はみさとと一緒に来ていたのだが、今迄、誰も気づかなかったのだ――微笑んだ。
「トゥルプティーもまさか、アメリカを敵に回すような真似はすまい。」
「ええ、勿論よ。」
ランが云った。
みさとの部屋で、エミリーがお茶の支度をしている。
「こうやってお茶をお入れするのも、今日で最後ですね。」
エミリーが涙ぐむ。テーブルの上には、スコーンがある。みさとは、それを一つ、口に放り込んだ。
「いろいろとお世話になったね、エミリー。」
みさとが穏やかに優しく微笑んだ。
「それは、わたしの方こそですわ。わたし、みさと様にお会いして、人生が変わりましたわ。」
真面目な顔をして、エミリーが云う。みさとは笑った。
「そんな、大仰な、」
「ほんとですわ。字も読めるようになったし、魔法も使えるようになったし。」
みさとの言葉を遮って、エミリーがムキになった。
「魔法は、どの位使えるようになった?」
みさとが訊き、エミリーがすーっと息を吐いた。掌に濃いピンク色の光が集まった。
「エミリー、凄い!」
みさとは悦んだ。
「みさと様のお蔭ですわ。」
エミリーが微笑んだ。
みさとの部屋のテラスで、みさととポールが抱き合っている。みさとが前に立ち、ポールが後ろからそれを包み込んでいる。
「俺達、これで、お仕舞いなのか?」
ポールはポツリと呟くように云った。
「さあね。」
みさとが首を傾げる。
「冷たい奴だな。」
ポールは不貞腐れ、みさとは笑った。
「でも、一旦此処でお別れしようよ。」
みさとが云う。
「僕は悠弥が居なくなった穴を埋める為に、君と居たんだ。だから、一旦此処でお別れしようよ。」
みさとは、綺麗に微笑んだ。そして、ひらりと身を翻し、ポールに向き直った。
「ぢゃ、これで終わりなのか?」
ポールが殆ど泣きそうになりながら、やっとそれだけ云った。みさとは、それを聞いて、微笑む。
「僕は、これから日本に帰って、気持ちの整理をする。それまで待ってて呉れる?」
穏やかな声色でみさとは云い、ポールは頷いた。
「ああ、待つよ。」
「ありがとう。僕は気持ちの整理が付いたら、必ず君の元に、歩いて行くよ。それまで待ってて。」
みさとはそう云って、右手を差し出した。ポールがその手をとった。ポールとみさとは、固い握手を交わした。
ライトノベルを書いてみようと書きました。
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