表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純情と妖艶  作者: カゲリ
10/10

9.調停

ライトノベルを書いてみようと書きました。

最終回です。

9.調停


 ランは薄暗い廊下で、蹲っている冬也を見つけた。

「どうしたの、冬也? こんな所で、電気も点けないで?」

 ランが訊く。冬也が振り返った。

「やあ、ラン。」

 冬也は、弱々しく云った。

「どうしたの?」

 ランは訊いた。

「リオをレイプしようとしたんだ。」

 冬也は云った。ランは言葉を失った。

「でも、リオはみさとくんだったんでしょ?」

 やっと言葉を探して、ランが云った。冬也は、頭を振る。

「それは、関係ないよ。僕は、自分で尊いと思ったものを、自分で壊そうとしたんだ。」

 掛けるべき言葉をランは、持たなかった。


 その翌日の朝、トゥルプティー宮殿の大広間。

 テーブルの上には、所狭しと料理が並び、ランと冬也が、ポールを待っていた。其処に白い羅衣姿の雅みさとが現れた。

「朝食をご一緒させて貰ってもよろしいでしょうか?」

 流暢なトゥルプティー語で、みさとは云う。

 バサリ。大きな音がして、ランが振り返ったら、冬也が読んでいた文庫本を取り落とした所だった。

 そうか、これはリオなのか、ランは思った。冬也が敬愛するリオ。壊してしまったと思っているリオ。ランはみさとをしげしげと見つめた。黒い髪に、長い睫毛に縁取られた黒い大きな眸。肌は抜けるように白く、赤すぎる唇が引き立っている。この少年――冬也にとっては少女――は、とにかく美しい。

「ええ、勿論よ。」

 ランは、みさとに云い、傍付きの女中を振り返った。

「朝食をもう一膳用意して頂戴。」

「畏まりました。」

 アーモンド形の目をした少女がそう答えた時、ランはそれまで、抱いていた違和感が氷解した気がした。みさとが使ったトゥルプティー語は、臣下の者が使う謙った表現だったのだ。

「トーヤ、わたしは大丈夫よ。貴方がわたしは穢れてないと云ったでしょう? わたしは大丈夫よ。」

 みさとが流暢なトゥルプティー語で云った。

「リオ。」

 冬也がみさとを見た。

「僕を赦して呉れるのかい?」

 冬也が、片言のトゥルプティー語で云う。

「ええ。わたしは穢れていないでしょう?」

 みさとは微笑んで見せた。

「ああ、君は綺麗だ。」

 云いながら、冬也は、みさとに吸い込まれるような心持ちがした。

「なら、わたしは大丈夫。」

 みさとはもう一度莞爾とした。

「ありがとう。」

 冬也は、涙を浮かべた。

「ありがとう、みさとくん。わたしの友人を助けて呉れて。君のトゥルプティーでの療養は、終了とします。君を日本に帰すわ。」

 きっぱりとランが云う。

「それなら、俺が証人になろう。」

 入り口で声がした。

「ポール!」

 ランはそこにポールの姿を認めて、愕いた声を出した。

 ポールは――実はみさとと一緒に来ていたのだが、今迄、誰も気づかなかったのだ――微笑んだ。

「トゥルプティーもまさか、アメリカを敵に回すような真似はすまい。」

「ええ、勿論よ。」

 ランが云った。


 みさとの部屋で、エミリーがお茶の支度をしている。

「こうやってお茶をお入れするのも、今日で最後ですね。」

 エミリーが涙ぐむ。テーブルの上には、スコーンがある。みさとは、それを一つ、口に放り込んだ。

「いろいろとお世話になったね、エミリー。」

 みさとが穏やかに優しく微笑んだ。

「それは、わたしの方こそですわ。わたし、みさと様にお会いして、人生が変わりましたわ。」

 真面目な顔をして、エミリーが云う。みさとは笑った。

「そんな、大仰な、」

「ほんとですわ。字も読めるようになったし、魔法も使えるようになったし。」

 みさとの言葉を遮って、エミリーがムキになった。

「魔法は、どの位使えるようになった?」

 みさとが訊き、エミリーがすーっと息を吐いた。掌に濃いピンク色の光が集まった。

「エミリー、凄い!」

 みさとは悦んだ。

「みさと様のお蔭ですわ。」

 エミリーが微笑んだ。


 みさとの部屋のテラスで、みさととポールが抱き合っている。みさとが前に立ち、ポールが後ろからそれを包み込んでいる。

「俺達、これで、お仕舞いなのか?」

 ポールはポツリと呟くように云った。

「さあね。」

 みさとが首を傾げる。

「冷たい奴だな。」

 ポールは不貞腐れ、みさとは笑った。

「でも、一旦此処でお別れしようよ。」

 みさとが云う。

「僕は悠弥が居なくなった穴を埋める為に、君と居たんだ。だから、一旦此処でお別れしようよ。」

 みさとは、綺麗に微笑んだ。そして、ひらりと身を翻し、ポールに向き直った。

「ぢゃ、これで終わりなのか?」

 ポールが殆ど泣きそうになりながら、やっとそれだけ云った。みさとは、それを聞いて、微笑む。

「僕は、これから日本に帰って、気持ちの整理をする。それまで待ってて呉れる?」

 穏やかな声色でみさとは云い、ポールは頷いた。

「ああ、待つよ。」

「ありがとう。僕は気持ちの整理が付いたら、必ず君の元に、歩いて行くよ。それまで待ってて。」

 みさとはそう云って、右手を差し出した。ポールがその手をとった。ポールとみさとは、固い握手を交わした。


ライトノベルを書いてみようと書きました。

読んでくださって、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ