0.プロローグ
ライトノベルを書いてみようと書きました。
0.プロローグ
僕の名前は雅みさと。僕には、父親がいる。
僕の家、雅家は、世界的な大企業雅エンタープライズを所有している。雅エンタープライズはあらゆる業種に手を広げている大企業だ。僕は、雅エンタープライズの御曹子と云う訳だ。
二、三日前、うちに僕の姉だと云うひとが来た。25,6歳か。確かに僕の姉だと云うだけのことはあり、面立ちが何となく僕に似ている。だが、どこか不自然だ。
それで、僕は今、隣町への電車に乗っている。隣町には、由紀ばあが住んでいる。由紀ばあと云うのは、僕のばあやだった人だ。僕が4歳まで傍にいてくれた人だ。僕が懐き過ぎるのを心配した、父さんや俊叔父さんが僕らを引き離した。彼らはよくこう云うことをする。それから、何人ものお手伝いさんが来たが、どの人も極短期間だった。僕は由紀ばあとの別れの時しか泣かなかった。僕が本気で泣いたのは、その時が最後だ。今は、雅家にお手伝いさんはいない。
由紀はあは、記憶にある姿より、若かった。玄関扉を開けて、僕を迎 え入れると、
「みさとぼっちゃん…。」
と呟いてそのまま、立ち尽くした。
「よく判ったね。十年ぶりなのに。」
僕はぎこちなく微笑んだ。
「それはそうですわ。相変わらず、お美しくて。」
僕はぼーっとした頭を抱え、ベッドに身を投げ出していた。由紀ばあの家からどうやって帰ってきたのか殆ど覚えていない。自動人形のように電車に乗って、自動人形のように雅家に辿り着いた。それから、ベッドに倒れ込んだ。
傍らには、僕の部下の青年吹雪悠弥が控えている。悠弥は僕の話を一通り聞き終わると、軽い溜め息を吐いた。
「では、郷美さんは、みさとぼっちゃんのお姉さんではなく、お母様だったわけですね。」
悠弥が云う。
「うん、そうなんだ。父さんは、姉さん、いや、母さんをレイプしたんただ。」
僕は低い声で、同意した。
「雅家の夫人はジャーナリストで、留守がちだった。母さんは子供のいない雅家の養女になったんだ。父と養女はふたりきりの夜を送ることになった。そして、悲劇が起こった。雅家の宗敎上の理由から中絶はできなかった。」
僕は溜め息を吐いた。
「しかし、まいったな。僕は今まで、雅家の正式な子供だと思っていた。」
僕は、思わず眸を閉じた。その瞼を悠弥の長い指が優しく撫でてくれた。
「それが不義の子たったなんて。」
僕は、呻いた。
「みさとぼっちゃん、」
悠弥の静かな声が降ってくる。
「悠弥がみさとぼつちゃんにお仕えしてるのは、みさとぼっちゃんが雅家の嫡子だからぢゃありませんよ。みさととぼっちゃんがみさとぼっちゃんだからですよ。」
「うん。」
僕はそっと云った。胸の中に暖かいものが広がる。
「みさとぼっちゃんはみさとぼっちゃんだから、尊いんですよ。」
瞼を撫でる悠弥のひんやりした指が心地よくて、僕は吸い込まれるように眠りに落ちて行った。
「みさと。」
姉さんの、いや、母さんの声で、起こされた。
「夕食が出来たんだけど、眠ってた?」
明るく云う母さんに、僕は堪らなくなった。
「母さん!」
思わず、呼びかけると、母さんはビクリとして、絶句した。そうして、長い間の後、ボソリと呟いた。
「聞いたのね。」
そしてまた、長い間。
「うん。」
僕は、頷いた。
母さんは、その場にぺたんとへたり込み、わっと泣き出した。ひどく無防備な泣き方だった。狼狽えた僕は、母さんの傍に寄ると彼女の細い肩を抱いた。
「みさと、ごめんね。」
母さんが泣きじゃくりながら云う。僕は、母さんを抱き寄せた。
「僕の方こそごめんね。それに悪いのは、父さんだ。」
早口で、一気にそう云うと、悪戯っぽく微笑んだ。ひとに艶やかとよく云われる微笑み。僕は確信犯だ。
「しかもね、不謹慎かも知れないけど嬉しいんだ。僕の母親はとっくに死んでると思っていたから。」
「ありがとう。」
母さんは涙でぐちゃぐちゃの顔で微笑んだ。僕は、その笑顔を美しいと思った。
俊叔父さんが僕の部屋にやってきた。雅俊也と云う名前だが、僕は幼いころから愛情を込めて、俊叔父さんと呼んでいる。
叔父さんはもともと雅家に頻繁に出入りしているが、母さんがやって来て以来、週に三日は雅家にやってきている。母さんのことを心配しているのだ。
「みさと、俺からの愛のプレゼント!」
それは、ビリジアンの上品なセーターだった。
「着てみて。」
「どうせ脱がすくせに、」
睨みつけると、叔父さんは、ニヤリとする。
「まあな。」
僕は溜め息をつき、セーターに着替えた。隣の俊叔父さんが歓声を上げた。
「思った通りだ。白い肌には緑が映えるな。」
「エロオヤジ。」
僕の呟きを無視し、叔父さんは僕を押し倒した。首筋に唇を這わせてくる。唇が這っていく道筋がある感覚を呼び覚ます。
「あっ、叔父さんっ、」
ここで、叔父さんと喘ぐのがポイントだ。ただ喘いだり、俊と名前を呼ぶのでは雰囲気が出ない。
叔父さんと喘いでこそ、禁断っぽいムードが出て、いやらしくて善いと思うのだ。
「母さんが、叔父さんに庇って貰ったって云ってたよ。」
僕は、叔父さんの裸の胸に頬を乗せて、囁いた。
「まあな。俺には郷美ちゃんが可愛くてならないんだ。大事に見守っていこうと思っていたのに、守り抜けなかった。だからさ。」
「母さんにも手を出す心算だったの?」
からかうように云うと、叔父さんは即座に否定した。
「まさか。」
「当時、雅家の大勢は、母さんを追い出す方向で動いてたんでしょ?」
「ああ。そこで、俺が粘って、この前死んだ雅家の遠縁のばあさんに、預けることになった。」
叔父さんはそう云った。
叔父さんが母さんを庇ったのは、明らかだ。叔父さんは、母さんを頻りと検診に連れて行ったり、トラウマを背負っただろう母さんにカウンセリングを受けさせたり、まだ十三歳だった母さんの躰の調子を心配して小間使いを幾人も雇い入れたりしたそうだ。
「その後も学資面とかいろいろと援助したって聞いてる。」
僕が云うと、叔父さんが肩を竦める気配がした。
「まあな。郷美ちゃんは、俺の恩人だからな。」
叔父さんが苦笑する気配がする。
「恩人?」
不思議そうに問い返すと、不意に抱きしめられた。
「こんな宝物を俺に与えてくれた存在だからな。」
叔父さんが笑った。
「郷美ちゃんが可愛いのは、勿論だけど、みさとは別格なんだ。郷美ちゃんが来たときは、子供の前で煙草はいけないとその時だけ禁煙してたんだけど、みさとに出逢った瞬間全に煙草はきっぱり辞めたよ。」
不意に暖かいものがひろがった。
学校から帰ると、悠弥が厳しい顔をして待っていた。
「みさとぼっちゃん、男の子と付き合ってるってほんとですか?」
「うん、そうだよ。しかも、二人とね。」
悪戯っぽく微笑むと、悠弥は顔を顰めた。
「その微笑みには騙されませんから。それぢゃほんとなんですね。」
「ああ、ほんとだよ。僕は男を愛することに決めたんだ。」
悠弥が絶句した。
「どう云うことでしょう。」
「男は女のひとを傷付けるでしょ? だから、ね。」
「男は傷付けても良いんですか?」
悠弥の声に動揺が滲む。それが可笑しくて僕は莞爾とした。悠弥は困惑して黙り込んだ。
僕は、ふらつく躰を抱えて、宴を抜け出し、脇の小部屋に逃げ込んだ。そこで動けなくなった。
しゃがみ込んでいると、不意に扉が開いた。僕はビクリとしたが、入って来たのは悠弥だった。
「みさとぼっちゃん、こんなところに、いらっしゃったんですか?」
悠弥の声に安堵が見える。
「どうしたんですか?」
「動けない…んだ。薬…だと思う。…大叔母様に無理矢理…飲ま…されたドリンクが…あったから。」
悠弥は、あからさまに顔を顰めた。
雅家主宰のパーティの場合、主賓は僕・雅みさとを抱くことができる。雅エンタープライズは今や押しも押されぬ大企業だ。僕を提供する必要はない。しかし、僕の祖父の代にのし上がった企業だ。それで、今も成り上がり根性が抜けないと云うのが大方の見方だ。
僕が大きくなってきてからは、一筋縄ぢゃいかなくなったために今日のように薬を使われることが多い。しびれ薬、催淫剤。
「そうですか、判りました。」
悠弥がこちらに歩み寄ろうとした時、また扉が開いた。広渡氏だ。彼は最初、悠弥に気付いていないようで、まっすぐ僕に近付いて来た。広渡氏は今勢力を強めている政治家だ。
「やあ、みさとくん。」
今日のお客は、広渡氏と云うわけだ。広渡氏は、動けないでいる僕を抱き上げようとした。すかさず悠弥が声を上げる。
「お待ちください!」
「何だね? 君は、」
広渡氏は、驚きよりも寧ろ不快感を露わにした。
「雅みさと様の部下です。」
「ここは君なんかがいていい場所ではない。出て行きたまえ。」
「そうは、参りません。みさと様はご病気です。」
「雅家とは、話はついてるんだ。出て行くのが厭だと云うのなら、そこで見ていたまえ。」
広渡氏は僕を軽々と抱き上げると、この部屋で唯一の家具であるベッドに投げ下ろした。唇を塞がれる。舌を差し入れられる。逃げたい。
「俊也様の意向は如何ですか?」
広渡氏は止まった。
「確かに今の雅家では俊也様の力はまだ絶対的なものではありません。ですが、五年後、いえ二年後、雅家は俊也様のものです。情勢分析は広渡様の得意分野だと存じますが。」
悠弥が続けた。広渡氏はゆっくり息を吐き、立ち上がった。
「確かに。君の云う通りかも知れん。連れて帰りなさい。」
悠弥は僕を抱き上げると、広渡氏の傍らを通り抜ける時に一礼した。
「ありがとうございます。」
悠弥がまさに扉を開けた時、後ろから声が飛んで来た。
「俊也氏は、みさとくんに無体な真似はしないのかね?」
立ち止まった悠弥が、眉をひそめるのが判った。
「君は俊也氏には嫉妬しないのかね?」
「失礼します。」
僕達はその小部屋を後にした。
ライトノベルになっているでしょうか?