63. そして思い出す
「……という感じでございます」
開けた公園。ベンチに座ったワタクシと真希様――に転生したムリナ様は、裕二様と梨花様に事情を説明しました。都心部にしては大きめの公園のせいか、夕方になると子どもたちが駆け回っております。ワタクシ達には特に目も向けません。そう教わっているのでしょうか。良い事です。
「……死ぬとそうなるのか。死んでもよかったかもしれないな」
裕二様はぼんやりと空を見ながら言いました。
「コラ」
真希様がそれを咎めます。
「今回は上手くいっただけだから、裕二さんの場合はどうなるかわかりませんよン」
「まぁ、なぁ」
「あのバカ共も消えたし。良い方向に進みますって」
梨花様が慰めます。
「アタクシは面倒くさい試験とかすっ飛ばしてプロジェクトマネージャーになりましたからねン。裕二さん達はアタクシの方で良い方向に処理しますって」
真希様がエヘンと胸を張りました。
「生きていればいい事もあります。ダメなら乗り越えれば良いのです」
ワタクシが偉そうに言いました。言いたかったのです。
ワタクシは色々と状況がつかめないまま、滅亡と再生を繰り返し、しかしとにかく何とかすべく藻掻きました。結果として、こうして新たな生を得て、元の世界に戻る事が出来ました。全てワタクシのお陰と言うつもりは全くありませんが、しかしワタクシが何処かで諦めていたら、こうはならなかったのではないでしょうか。
「ああ。君のお陰で、私も生き残る事が出来た」
そう言って公園に入ってきたのは、スーツ姿の公務員らしき男性。
「ニーチェ様!!」
こちらの世界に新たな形で生を受けたニーチェ様でした。凛々しく端正な顔つきで、梨花様が何やら目をハートにしております。
「今は神代理都と言う。理都でいい」
ニーチェ様、いえ、理都様はウインクして言いました。
「魂になった時はどうなるかと思ったが、まさか助けられるとは。ありがとう、クレア。いや、今は……なんと呼べばいいかな?」
「ああそうだ、他の人の対応ばっかりでワタクシの身分を確認しておりませんでした」
ワタクシは懐を探りました。何か身分証を持っていないかと。転生後即裕二様と合流したせいで、自分の顔すら見れていないのです。写真付きが一番良いのですが。
と、何やら硬いカードを見つけたので取り出します。
運転免許証でした。
写真つきだしいいですね、とそれを見た時。
「…………あ、れ、……んんんんんん?」
何処か見覚えがある顔でした。
「……何時だろう、この顔、何処かで……」
ムリナ様、いや真希様?どっちで呼べばいいのかわかりませんが、彼女も頭を抱え始めました。
ワタクシと、ムリナ様。その接点と思しきものは一つしか心当たりがございません。ええ、少なくとも、便宜上現実世界としますが、こちらの世界では一つしか。
「…………あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ワタクシの脳裏に一つの記憶がフラッシュバックしました。
ニャーン。
猫が道路を横切っていきます。かわいいものです。
ちょうどそこに大型のトラックが走ってきました。
運転座席を見ると、女性が眠っておられました。居眠り運転です。
ワタクシは猫に向けて駆け寄ります。
もう一人、それを助けに入ってきました。ムリナ様でした。
ですが、二人共猫の目の前で転び、バタリと倒れました。
猫はそれに驚いて走り去っていきました。
良かったと安堵するワタクシ達でしたが、トラックはワタクシ達のすぐ近くに迫っていて、そして避ける余裕もありませんでした。
グシャッ。
「わわわわわわわわわ、ワタクシを轢き殺した運転手じゃありませんかぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ワタクシは『虎山烈火』と書かれ、ワタクシが確かに死ぬ前に見た運転席の女性の顔の写真が貼られた運転免許証を見ながら、思わず絶叫してしまいました。




