60. ざまあ
「面倒な事に」
社長と呼ばれた男は彼の言葉を無視して続けた。
「彼女がこれを副社長に流した事だ。ヤツは別派閥なのは知っているだろう。ここで私が手を下さねば、隙を見たと踏んで私を攻め立てるだろう。従って、私は君達を庇う事は出来ない」
淡々と、厳かに、そして怒りを込めて。その怒りはプロデューサー達に向けられていた。
「それに、君達が今までやってきた全てを知ってしまった。『グッド・プリンセス・フォーエヴァー』。君達が抱えていたもう一つのプロジェクト。その破綻の内容の一部始終を彼女が語ってくれた。そして証拠も含めて一通り用意してくれた。
――まさか折角私が命名したプロジェクトをあそこまで雑に扱うとはね」
社長の目は潤み、どこか悲しんでいるように見えた。このタイトルは実際社長が命名し、中々良い名前だと気に入っていた。経営に関してはともかく、ネーミングセンスは彼には無かった。
「そもそもの話しをすれば……以前から君達は私の派閥だからといって無茶をしすぎている。ウチは一応上場企業でな、昔ながらの上司絶対主義というのは流石に時代錯誤だと思うわけだ。加えて君達が売ろうとしているサーバは我が社の資産。君達が売買出来るわけがないし、彼女に自費で買わせる権利なんてあろうはずがない。いや、あったとしても今後許される事は無い」
社長はそこまで言って、ふぅ、と深く溜息を吐いた。
「君達は速やかに退職の準備をしたまえ。勿論自主退職で頼むよ」
その言葉は、プロデューサーとディレクターの二人に向けられていた。
「え?いや、はは、冗談、ですよね?」
「こ、これだけ尽くしてきた私達を?」
「利益に関しては全く尽くしてくれてないようだな。私も初めて知ったというのには腹立たしい限りだが」
二人のプロジェクトは大体が失敗、良くて多少の黒字という惨状であったが、書面上の誤魔化しを続けていた。
「心から謝罪するのであれば撤回を考えたかもしれんが、しかし君達は誤魔化しの方向へと進んだ。ならば君達に掛けるべき言葉は唯一つとなる。――出て行きたまえ」
社長はそう言って、彼らに背中を向けた。
これ以上の言葉は通らないと悟り、プロデューサーとディレクターはすごすごと出ていった。
「哀れなもんだな」
出た直後に声が掛かった。
「ああ!?」
だがそこには誰も居ない。
「……気の所為、ですかね」
「知らん。もういい、帰る!!」
プロデューサーが帰路に就くと、ディレクターは慌ててそれに続く。
「はぁ。……ダメでございますよ、嫌味なんて言っては」
「殺さなかっただけマシだ」
そう答えたのは三島裕二で、そして、最初に咎めたのは――




