58. やるべきか、やらざるべきか
殺してやる。
殺意がメラメラと湧き上がるのを、三島裕二は感じていた。
自分の人生が、知り合いの人生もだが、盛大にダメにされた。その元凶を今こそ絶たねばならない。そんな義務感すら抱いていた。
元々、あのプロデューサーは好きではなかった。嫌いだったと言っていい。アレのやった事を全て列挙してパワハラとして訴える準備さえしていた。だが今は、そのような方法で潰すつもりにもなれない。何としても、如何なる方法を取ってでも、今すぐ、即時、あの人間の成れの果て、瘴気を振りまくゴミクズ、肉塊の方がまだ人類の為になるであろう物質を、地の底へと追いやらねばならない。
クレアも、ムリナも、ニーチェも、それ以外の命に成りかけていた者達も、全てあの人間により可能性を絶たれた。真希も死んだ。自ら命を絶つという選択に至るまで、どのような葛藤をしたのか計り知る事は出来ないが、しかし苦しまずに死んだ事を祈るしか無い。
そして自分も。「あの開発中止ゲームに関わった」となればロクな仕事が回ってくる事はないだろう。勿論それは梨花も同様だ。
そうやってあのプロデューサー――名前を言う事も憚られる汚物は、どれだけの人間に穢れを振りまいて来たのだろうか。考えたくもない。
いい加減終わらせねばならない。負の系譜を。これ以上の犠牲者を出さないようにせねばならない。そのためには、ヤツを殺さねばならない。
誰が?
自分がやるべきだ――どうせ未来は無い。こういうのは先の無い人間がやればいい。そして死を以って償う。それしか無い。
「それだけはいけません」
誰かが話しかけてきた。梨花なら無視したところだったが、しかし。声色は違えど、しかし、芯の通ったその喋り方には、どこか覚えがあるような気がした。
振り向くとそこには、一人の女性が立っていた。美しい見た目だが、目には隈が出来ている。
「もっと良い方法がございます、裕二様」
見知らぬ人間に、自分の名を呼ばれるという違和感。だが、不思議とその違和感は徐々に少なくなっていった。それは、別の考えが頭を擡げたからである。
「……まさか」
「誰かの命を奪って良い未来が得られる事はございません。勿論、自ら命を絶ったとしても同様です。未来は自らの手で掴み取るべきもの。……説教臭くなりましたが、ワタクシは裕二様であればそれが出来ると信じております。ワタクシの話を聞いて頂けませんか?貴方の、破滅を防ぐために」
裕二は口をあんぐりと開けて、しばし呆然とした後、静かに、ほんの少しだけ、頭を縦に振った。




