56. 滅亡を防ぐために
「…………人の世というのは全く混沌と殺意とに塗れていますね」
クレア様がふぅと息を吐きながら言いました。
「これを踏まえてどうされるおつもりです?」
クレア様が尋ねられましたが、ワタクシは即答しました。
「元の世界に転生させてください。今すぐ」
「裕二さんを止めるんですかねン?」
ムリナ様が、迷いを秘めた目で見つめられました。
「はい」
ワタクシは出来る限り迷いのない目で答えました。
「……そのために自分の人生を棒に振るようなものですよねン?そこまでして良いのですかン?」
「ワタクシは目の前で困っている方を助けたいだけです。それに、ニーチェ様を救うだけではやはり足りません。ワタクシを出来る限り導いて下さったあの方々にも出来る限りのご恩を返したいのです」
「…………ふぅ」
ムリナ様は息を吐いて、自らの頬を叩――こうとしてスカッと空を切りました。実体がないせいでしょう。
「締まりませんでしたがァ……アタシも覚悟を決めるとしましょうかねン」
「いいんですか?二人共」
「ええ」
「こうなれば見過ごす事も出来ません、二人共ねン。……で、アタシは一つ作戦を思いつきましたよン。提供されている特典をですねン――」
そう言って、ムリナ様は最後の作戦を提示されました。
今度こそ、失敗は許されない、一発勝負のループ無し、そんな背水の陣の作戦を。




