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55. 現実は世知辛くて

『――――なぁ』

 スクリーンの中の裕二様が、玲奈様に向けて話しかけました。

『俺たち何をしてたんだろうな』

『…………さぁ』

 玲奈様もどこか虚ろな目で受け答えされています。

『もう何でも良くなっちゃいましたねえ』

『……そうだななぁ』

 はぁぁぁぁぁ、と深く深く溜息を吐きました。


 お二人はビルを出て何処かへ歩いている途中でした。

 珍しいというか、ワタクシ見たこと無い姿です。

『あのクソ野郎ハゲ野郎カス野郎』

 怨嗟の念をつぶやき続けている裕二様を避けるように周りの人々が歩いていきます。

『あのカスのせいで……どれだけの命が……』

『落ち着いて下さい気持ちは分かりますけど。見られてますよジロジロと』

 梨花様が裕二様の耳元でささやきますが、しかし裕二様はまるで上の空、無視しているのか届いていないのか、呟きを続けます。

『……復讐せねば……これまでの事もある……失われた命もある……オレの人生……キャリア……台無し……』

 ブツブツと言いながら、何やら暗く、そして憎しみの籠もった顔です。

『落ち着いて。その、うん、えーと……』

 梨花様は何やら言葉に詰まっているようです。多分慰めたいのでしょうが、ワタクシ達の事が頭をよぎっているのでしょう。

『あの人達の事は残念でしたけれど、でもですよ、我々はその、先があるじゃないですか。ね、前向きに行きましょ、前向きに。新しいプロジェクトがあるとか言ってたじゃないですか』

『…………』

 梨花様の説得に、全く耳を貸しません。ジッと何かを睨みつけているようです。空か、ビルか、或いはこの世界全てなのか。それはよくわかりません。

 トゥルルルル。

『電話……』

 梨花様が指摘をされています。鳴っているのは裕二様のもののようです。

 裕二様は静かに、嫌そうに、自らのスマホを取り出しました。

『もしもし。……あ?は?』

 全く理解が出来ないといった表情で、裕二様は受け答えされております。

『ふざけやがって!!』

 そう言って乱暴にスマホを捨てると、彼は何処かへ早足で歩き出しました。

『ちょちょちょ、どうしたんです!!』

『同僚から連絡があった。あのバカが、サーバ売りつけるって言ってたアホがもう一つプロジェクト抱えてて!!それはオレの同僚がマネージャーやってたんだけどよ!!』

 目には薄く涙が溢れています。

『そいつが自殺したとさ!!サーバ買う金も無い極貧プロジェクトなのに無理矢理自費で捻出させられて!!』

 それを聞いて梨花様は足を止めました。

『…………』

『悉く!!つくづく!!オレたち末端をゴミだと思っていやがる!!』

 裕二様の声がどんどん荒く、激しくなっていきます。周りの人々は一歩引いています。

『思い知らせてやる……!!』

 裕二様はそう言いながら、駅のホームへと入っていきました。

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