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54. 転生の算段、ところで

 ワタクシがそういうと、クレア様もムリナ様もギョッとした目でワタクシを見ました。

「……正気ですか。いくらしょっぱい特典とはいえ貴方への特典ですよ」

「そこはもう少し考えた方がいいんじゃないン……?」

「――結局、ワタクシはあの世界を救う事は出来ませんでした。幾ら作られた世界だからといって、しかしワタクシが一時過ごした世界が消え去る事は、辛いものです。特に、最後にわかり合う事が出来たニーチェ様を、結局失うしか出来ないのは、……イヤです。だからこそ、出来る事はしたいのです」

「…………わかりました。出来る事は致します」

 クレア様は頭を抱えながら、ですがしかとワタクシの顔を見て、手元の古びたキーボードらしきものをカタカタと叩き始めました。

「まず転生先を決めましょう。元の世界の方がよろしいですか?」

「出来れば」

「そうしてほしいですねン」

 ワタクシとムリナ様は目を見合わせて言いました。

「……ちょうどいいのが一つ。あ、後一つ、今ちょうど生まれました」

 その言い草が少し気になりました。

「生まれた?」

「赤ん坊に転生ですかン?」

「いえ、ちょうど今しがた死んだ方がいらっしゃいますので、そこに転生という形で」

 軽くクレア様は仰っしゃられました。随分と適当と申しますか、極めて軽い口調すぎて、一瞬リアクションに困ってしまいました。

 ……いいのでしょうか。

「一人はこの間から眠っていて、今晴れて魂が離れた肉体。これなら今から復活するという形で転生出来ます。もう一人はビルの屋上から飛び降りた方。肉体の再生と記憶処理くらいは簡単ですから。一旦時間を止めますのでご検討下さい」

 そう言うとクレア様はキーボード横の四角ボタンを押しました。すると、天の上のこの場の雲の動きや風の凪が止まっていきます。

「別の世界への転生も勿論受け付けますし、赤ん坊からやり直すというのも可能です」

「……それを判断するに当って気になる事があるのですけれどもン」

 ムリナ様は恐る恐る手を上げてクレア様に尋ねました。

「地上の……裕二さんと玲奈さんって今どうなってますかねン」

「ああ、お二人と会話していた?」

 そう言いながらクレア様は再びキーボードを操作し始めます。

「……今回は特別です、少々お待ちを……」

 そういうと何やらディスプレイ――いや、スクリーンですね――が現れて、そこに代わる代わる何かが表示されます。海の中、宇宙、胃の中、星空、犬の視点、色々です。

 やがて、画面の切り替えが止まると、そこはビルの一室でした。PCが幾つも並んでいる部屋で、その中に二人、裕二様と梨花様がぽかんと口を開けて天井をポケーッと見つめていました。

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