53. ニーチェは死んだ
「こちらからお好きな特典を付けた上で、お好きな所に転生させてあげる事が出来ます。是非お選びを」
カタログにはこのようなものが書いてありました。
・時価百万の現金
・好きなキャラクターを具現化する権利(要相談)
・まあまあいい家に転生する権利
・そこそこ良いスキルを持って転生する権利
・それ以外の出来る限りの願いを叶える権利(上に上げたもの以下のものに限る)
「…………百万貰ってもあんまりオイシイとは」
「思えないよねン」
ワタクシはヒソヒソとムリナ様とお話しながら見ていきます。
「まあまあいい家ってどれくらいです」
「中流貴族くらいですかね」
「転生前の方が立場的には良かった気がするんですけれども」
「中流以上確定と思って下さい」
はぁ、と相槌を打って引き続き見て参りますが、なんというか、こういう事を思うのは不適切だろうとは思うのですが、お詫びにしては少々……。
「物足りないというか……」
ムリナ様がワタクシの言いたい事を代弁して下さいました。
「世界のバランスを取りながらとなると難しいのです。ご理解下さい」
うーん。迷います。
「……そういえば」
最後の願いを見ながら、ふと思い出した事がありました。
「ワタクシ達二人しかおりませんが、他の方々は?」
「他の方々?」
「ゲーム内で意志を持ってしまった方です。ニーチェ様とか」
「貴方の父母に該当する方々は、AIの域を出ませんので、データのまま消滅しました」
冷徹な言葉に聞こえますが、致し方ない事なのでしょう。勿論気にはなっていますし、同情も致します。ですが一番気になるのは――
「ニーチェは……う……うーん……」
そう、彼です。彼は一体どうなるというのでしょうか。クレア様は何やら言い淀んでおりますが。
「あのー、その。本来魂としてカウントされる相手では無いという事で、なんとも、その」
「それって、つまり、死ぬのですか」
ワタクシは言いたくない事を言いました。
「………………出来ればそうしたいなっ「ダメでございます」
ワタクシはクレア様の言葉に割り込みました。
「そんなの許されるわけないではありませんか!!生まれ方はどうであれ同じ生命、差別するのはよくありませんわ!!」
「ま、まぁ、その、うん、気持ちは分かるのですが」
「ならばニーチェ様も蘇らせて下さい!!」
「う、うーん……」
「何か出来ない理由でもあるんですかン?」
ムリナ様がお尋ねになると、少しだけ考え込んだ上で、クレア様は口を開きました。
「もう今さらアレコレ隠しても無駄ですね。……魂の総量というのはある程度固定されています。それで偶然出来てしまった命は、総量の追加になりますので、上司、そうですね、皆様の理解できるように言いますと、部長クラスの承認が必要となります」
何やら世知辛い話が出て参りました。
「それで、ね、分かりますでしょう、部長承認まで得ようとすると報告書の作成とか色々大変なんです。胃が痛むんですよキリキリと。
まぁ部長と言っても魂の管理者にそういう役職はないですし、似たよう立ち位置のヤツのせいでこんな事態になっているのではありますが……」
「それは貴方方のバグのせいではありませんか。やらない理由にはなりませんでしょう」
「……痛い所を突きますね。そう言われると、否定は出来ませんが……」
「さっきのカタログ、あれの権利使っていいです。ニーチェさんを別の器に入れて上げて下さい」




