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47. 修正提案

 俺と梨花はその日一日使って、翌日の朝にあった進捗報告に向けて、とある資料を間に合わせた。

 その間、クレアやムリナ、ニーチェは藻掻いてくれたが、しかしやはり解決はしない。

 根本的な解決方法を考えねばならなかった。

 その翌日の朝。

 そして俺達は、それを自らの手元においている。

「おはよう」

 ディレクターが、暗い顔でやってきた。

「……ふん」

 プロデューサーが、見るからに不機嫌そうな、仏頂面で現れた。

 それ以外のメンバーは皆出社していない。PMはなにやら入院しているとか何とか。他のメンバーに関しては分からない。

 つまり、恐らくこれで進捗

「まずお二人に進捗開始の前に聞いて頂きたい案がございます」

 そう言って俺は資料を配った。

「なんだ?」

「ゲームの新ルート追加の提案です」

 そう言って俺は説明を開始した。

「クレアという悪役令嬢を操作するルートです。このルートを追加する事で、恋愛シミュレーションでありながらオープンワールドであるというこのゲームの特色が更に色濃くなるものであると考えています」

 俺は続けた。

「現状クレアというキャラクターは序盤に追放されます。その結果としては二通り、そのまま野垂れ死ぬパターンと、後程魔界に到達するパターンの二つがありますが、それらをプレイヤーに選択出来るようにするのです。ゲーム開始直後にプレイヤーは主人公をゼシカとクレアのどちらかから選択し、ゼシカの場合は王道の恋愛シミュレーションを、クレアの場合はこのゲーム最大の独自要素であるオープンワールド恋愛シミュレーションを堪能出来るという方向性にするわけです」

 俺に代わって、梨花が続けて言う。

「クレアの目的として、追放した連中への復讐だけでなく、実は生きていた父母の救出なども盛り込む事で、プレイヤーの自由度が更に高まるものと考えています。既存シナリオへの手入れ等が必要ですが、基本的にはプレイヤーに委ねる形で提供する事で、最低限の変更と、大幅なメインシナリオの追加で済むと考えられます」

 そう、これが俺達の考えた救済策である。

 フラッドとアクティの救出という形で、二人に対しレゾン・デートルを提供する。

 クレアルートを追加する事で、ムリナやニーチェの意志にも答えつつ、クレアというキャラクターが文字通り生きるルートを作り出す。

 全員が良い方向に向かうにはこれしか無いように思えた。

 開発に関しては人が居ない・ムリナが居ないの二重苦ではあるが、しかしある程度、デバッグという名のダベリをやった事で、プログラムの構造は大凡理解出来た。クレアルートを最初から分岐する形で実装すれば、ゼシカの既存メインルートをあまり弄る必要もない。クレアの出番等は何とか修正する事も出来るだろう。

「勿論工数は掛かります、ですが現状バグも完全には取れない状況が続いておりますので、どのみち大幅改修が必要な事は変わりません。発売を延期するとともに大幅なパワーアップを謳うことで、宣伝効果も狙いながら、ユーザーに対し開発期間延長の理解を得られるのではないかと考えます。この場合の必要経費についてですが」

「ストップ、もういい」

 プロデューサーが遮った。

 気に入らなかったのだろうか、随分と苦々しい顔をしている。

「……案自体は面白いと思う」

 彼はそう言った。

「そうですね、案は面白い。でも」

 ディレクターが続けた。

「これはもう意味が無い」

 資料をどさっと床に捨てながら。

「……どういう意味ですか」

 必死にまとめた資料を雑に扱われた事には極めて腹が立つ。しかし俺は、何とか怒りを堪えつつ、尋ねた。

「もうこのプロジェクトはおしまいだからだ」

 プロデューサーが吐き捨てるように言った。

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