44. ただ死ぬためだけにいるNPCの存在意義とは
「それは、そうかもしれない」
そう言って誰かが入ってきて、ニーチェ様の落とした杖を拾いました。
「だが、だからといって。この先に歩みを進めて貰うわけにはいかないのだ」
その声にはしっかりと覚えがありました。
「なっ」
ワタクシは声を上げてしまいました。
――それは、お父様でした。ハイライトが無く、死んだ目というのはまさにこれを指すのでしょう。
「話は聞かせて貰った。ニーチェ様。お気持ちは理解出来なくもありません。ですがご理解頂きたい。私達は、これしか役目が無いのだ」
「どういう、意味だ」
ニーチェ様が立ち上がり尋ねました。
「私達はただこの世界に反逆するためだけに作られた」
その後ろにお母様が、お父様と同様、ハイライトの無い死んだ目で言いました。
「クレアよ。お前は、私達の存在意義を奪うのか?」
「いえ、違いますわ。お父様、お母様にはどうか、もっと良い方法で――」
「お前を追放させる事が、私達が神に与えられた役目なのに、もっと良い方法とは何を指すのだ?」
「――」
言葉を続ける事が出来ませんでした。
それはムリナ様も同様です。
何故なら――それは、純然たる事実だからです。
「私達は――この杖を初めて使った時に調べた。私達の運命を。――何も無かった。ただこの三日間だけがあり、それ以外には何もなかった」
シナリオへアクセスしたのでしょうか。そう。お二人には、……彼らには、「国家に反逆してワタクシの追放理由を作り出す」以上の存在価値はありません。――シナリオ上は。
だから出て来ない。セリフも無い。多分、ゼシカ様が出会う事すら無いのでしょう。
謂わば、『チュートリアルにしか出てこないNPC』というわけです。或いはもっと酷い、『歴史上にはその存在が語られるだけのNPC』かもしれません。
「だからニーチェ様に『目的』を与えられ、『行動』を起こせるとなったとき、嬉しかった。それまでの私達はそれすら無く、ただ生きているだけの人形だったからだ」
重い言葉が私に対し突きつけられていきます。
「それは、その、……言葉もないといいますかァ……」
ムリナ様も言葉に詰まっています。
「その『目的』も『行動』も否定されたら。……私達はどうなるの?明日には捕まり処刑されるだけなのではないの?もしそれが回避されるとしても、私達は何のために、どう生きていけばいいの?何をすればいいの?」
それはAIの問い。作られた自我が使われなくなった時、それはどういう扱いになるのかという問いかけでした。
ワタクシには答えがありません。或いは答えたくないだけかもしれません。
「私達はその答えを持っていない。そして、私達はその答えを知りたくない」
その答え、即ち――存在としての死。
そう言ってお父様は杖を握りしめ、
「だから私達は反逆するのだ。この世界を押し留めるために。これ以上先に進ませないために」
「やめてください、何か、何か方法を――」
ワタクシが手を伸ばしましたが、しかし、その手が、言葉が、届くことはついぞありませんでした。
「繝。繧ソ繝ォ繧ケ繝・ヰ繝サ繝イ繝サ繝溘ち繝サ繝翫き繝ュ繧ェ繝サ繝吶Ο繝帙・繧、繧ォ繧サ繝サ繧イ繧ス繧ス繝ェ繝輔・繝ャ繝輔・繝ィ繝サ繧キ繝」
いつもの呪文と共に、ワタクシの意識は再び最初の一日目に戻っていきます。
圧倒的な絶望感と共に。




