43. ワタクシは前に進みますわ
こっそりと後をつけ、こっそりと話を聞き。
しかしこうなれば黙っているわけにはございません!!
「く、クレアちゃん!?」
「クレア!?」
二人共驚いていらっしゃいます。
『どうすんだ割り込んで!!』
「いいから黙っていて下さいまし!!」
裕二様を黙らせてワタクシはニーチェ様の前へと向かいます。
「何故ワタクシに話してくださらないのです!!」
「い、いや、それを聞かせては君を……悲しみに……」
「ワタクシは絶望など致しません!!」
ワタクシは断言致しました。そうですとも、ワタクシはいつでも前向きなのです。以前のクレアであってもそうだったでしょう。
「ワタクシが死んだのはアナタに託すため。アナタに生きて欲しいため。決してこの世界を滅ぼして欲しい等と願ったりした結果ではございませんわ!!」
「しかし……」
「率直に申し上げて、ワタクシが死ぬのは仕方のない事かもしれません。空っぽな父母を止める事も出来ず、そして追放されて尚復讐に至るこの性格。阻止されれば処刑されるというのも仕方ありません」
ここでニーチェ様に微笑んでみます。
「ワタクシの望みは一つ。こんな愚かなワタクシの命を使って生き残ったのだから、アナタは生きて欲しいのです。こんな形で世界を弄り続ける事を望んでなどいません」
優しく、ニーチェ様の頬に触れました。魔族は冷たく血が通っていない等と言われますが、何を言いますやら、ほのかに暖かく血の通った同じ生物であるのがよく分かります。
「ワタクシはどんな運命でも受け入れる覚悟です。だからアナタも明日に進みましょう。ね?」
「……しかし、でも、私は、君を……」
「ならばその道を探せば良いのです。復讐の道では無く」
ワタクシも最初に目覚めた時は復讐しようとか思っておりましたが、それに関しては置いておく事にします。もうこれだけループしたら、復讐もクソもございません。ただ明日を――いや正確には明々後日を――生きる事が出来ればそれでいいです。ワタクシである必要すら無いかもしれません。ニーチェ様がワタクシの事を覚えていてくれるなら。ワタクシはこのループに一人だけ取り残されても――
「いやダメでございます。それだけはご勘弁下さい!!」
思わず言葉になりました。
「ど、どうしました?」
「き、気になさらないで下さい。……ともかく!!ループは止めましょう!!末にワタクシの死が待ち受けるというのであれば、追放された後にそれに対処する方法を考えれば良いのです!!そのなんとかロッドがあればそれも出来るはず!!」
「ま、まぁ、それは、たしかに」
「ワタクシが追放される事がシグニ王子にとってもゼシカにとっても良い事なのでしょう。であれば!!ワタクシはそれを甘んじて受け入れる事に致します!!その上で、アナタと出会う事になるのであれば、その時はじめて新たなルートを形成するのです!!」
「…………」
ニーチェ様は杖とワタクシの顔を交互に見て、
「そうか。私は……一度目の光景に囚われすぎていたのかもしれない」
そういって、カラン、と杖を落としました。
「私は……君が追放される事が許せなかった。君が追放されれば、当然君は復讐を考える。その考えを私は否定したくなかった。その憤りは当然あるべきものだと思ったからだ。だが、君は……もっと強い心を持っていたようだな」
「無論でございます」
元クレアはどうだかわかりませんが、――いえ、何れ同じ結論に至るよう、AIが成長していったでしょう。
「ワタクシはシャフィーレ家で最も未来を見据えている者ですから」
そう言ってワタクシは胸を張りました。




