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42. バグの根源はだいたいわかりましたよン

 幼少期!!

 その単語を聞いて思い出しました。アタシ達がこのゲームを開発中、デバッグに入る直前まで、幼少期パートというものを用意していた事を。各種ヒーロー達と幼なじみだったという設定を作るために、幼少期ゼシカと各ヒーロー達との出会いを設ける予定でした。しかし、AI実装後、あまりにデバッグ範囲が広くなりすぎるという事で、ゲーム開始はゼシカが学園に入学する直前という事に改められたのです。

 という事は、その開発途中の時点で、数回のテストプレイの段階で、既に彼は自我を得ていたという事なのでしょう。

「私は幼少期に戻っても、その前の記憶を保持していた。これが何という現象なのかは最初分からなかったが、幼少期に起きる出来事の殆どが過去の記憶でもやった事のあるものばかりだった事から、仮に私も『ループ』という名を付けた。ある点に到達すると初期点に戻り、それを繰り返す現象としては丁度良いものだと考えた」

 そして数回のループを繰り返した。私は一回も、クレアを救う事は出来なかった」

 恐らく開発初期のテストプレイでしょう。その時はメインルートばかりやっていました。時間が無いからと別ルートの動作チェックは次工程に回されていたのです。

「私は絶望した。彼女を救う事が出来ないのかと。そして、また数回のループを繰り返し、私は決意した。この世界を壊すと。

 幸い、魔王城には不可思議な書物があった。世界の法則を壊す方法の書かれた書物らしく、それを唱えるとすぐにループが止まり元に戻る事があった」

 デバッグコマンドだ!!アタシは直感しました。そして、そのコマンドにアクセス出来る理由も何となく分かります。アタシの怠慢です。

 まず、魔王城というものはシステム上には存在しますが、出すとしてもニーチェルート最後の方に出てくるオブジェクトです。そんなもん早々呼び出される事は無いので、メモリの配置や呼び出し位置的には最後の方になります。つまり流用したエンジンの中でも、読み込まれ辛い部分の近くに配置されている感じです。即ち、本来使われるはずのないデータに、距離的に近いという事です。……実際には勿論違うのですが、関数だの呼び出しだの色々と細かい事を説明し始めるとキリがありませんので、そういうものだと理解してください。

 さて。

 多分彼の記憶が保持されているのは、未使用メモリ領域にアクセス出来る権限が何らかの理由で付与されてしまったからだと思います。それによりエンジンの中に残してしまったコマンドリストとかを見られるようになってしまったのでしょう。――仮定のミルフィーユみたいな事になっていますが、そう考えれば一応の説明は付きます。

 つまり、このゲームのバグは、大きく二つに分けられるのです。

 1.未使用メモリ領域にアクセス出来る権限がキャラクターに付与されるバグ

  +その領域にアクセスすることで、記憶が保持されてしまうバグ

 2.現世の人間が転生してきてしまい、それによりゲーム外と交流出来てしまうバグ

 こう考えると色々と説明がつきます。

 ニーチェ様の場合は1だけが、クレアちゃんやアタシは1と2の複合です。であれば、ニーチェ様が裕二君や梨花ちゃんと会話出来ない点に説明が出来ます。

「それであの杖を」

 あの杖=エグゼンプションロッドとは、昔のエンジンで作った、ちょっと無茶な処理をするときにメモリやらなにやら禁則処理を超えるアクセス権限を与えるときの武器です。メテオみたいな描画負荷が掛かる処理を起こす時に、この杖を持たせる事で一時的に良しとするのです。知識として得たものを実現するために作り出す事にしたのでしょう。

 こうして考えると、何もかもエンジンを作ったヤツが悪いように思えてきます。

 誰だこんなもん作ったヤツは!!

 私だ。

 ……それは置いておく事にしましょう。

「ああ。深淵の領域の魔法を発動させるために必要と分かったので、学園に入る直前に作成を開始させた。

 クレアの父母に声を掛けたのは、彼ら彼女らが目的の無い抜け殻のような存在として徘徊しているのを見たからだ。あれではクレアが可愛そうだ。何かしら、生きる糧を与えねばならない、そう思った」

 クレアちゃんのお父さんお母さんがそうなっているのは、多分、『国家転覆を行う』という目的だけが設定された状態だったからだと思います。理由もなくとにかくそういう動きをする、悪く言ってしまえば、舞台装置として考えていましたので。まさか自我を持ったり、自発的に別の行動を行うなんて、そんな事予想も出来ませんでしたから。

「なるほど、分かってきましたよン」

 アタシは本心からそう言いました。

「となると……クレアちゃんを救う方法を考えねばならないということですねン」

「ああ、そうだ。私は彼女を助けたい。彼女が助からないならば、私は問答無用でこの世界を終わらせる。その覚悟がある」

「……分かりました」

 流れは理解出来ました。

 ですがこの解決のために出来る事はあるのでしょうか。クレアちゃんはぶっちゃけどのルートでも好い目は見ません。

 勿論、あると信じたいです。

 そのためには時間と、そして裕二君やクレアちゃん達との相談が必要となります。

「……少しだけ、時間を下さい」

「だが遅くとも明日にはシグニが乗り込んで来るのだ。杖は完成させるし、遅くとも明後日には――」

「それは構いませんよン。解決までの道のりが出来るまでは、ループを起こすしかありませんしねン。そして今アタシが考えている解決策を実行するには、時間が必要ですのでェ」

「何を考えているんだ?」

 ニーチェ様の問いに、アタシはどこまで期待を持たせて良いのか分かりませんでした。

「……まだ、確たる事は言えませんねン。どうかご理解頂きたいですよン。ですが――ですが。この世界を作り出した一人として、責任は取ります」

 アタシは自分に言い聞かせるようにそう断言すると、その場を後に――。


「話は聞かせて頂きましたわ!!」


 突然、クレアちゃんの声がしました。

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