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38. あの人は非転生者?

「あれが犯人か?」

 俺は唖然としたまま梨花に聞いた。

「……みたい、ですけど」

 梨花はそのパラメータ表等を見ながらぼんやりと答えた。

「思考AIに、バグというか、ノイズは無いです」

 分かってる。声が通じなかった時点で、多分転生者では無いのだろうとは思っていた。

 では?彼はなんだ?

「ただリセットは効かないです」

「は?」

「リセットしてもまた元に戻るんです。まるでどっかに記録されているのがそのまんま復元されているみたいに」

「それもバグだろ」

「そうなんですけど、二人とは挙動が違うというか」

「挙動が違うというのは、そうなんだろうが、さ。……じゃあ何か、アイツはまた別のバグ的存在だと」

「そう、ですね」

 俺は頭を抱えてガタンと床に倒れ込んだ。

「もうやだぁぁぁぁっ!!」

 バタンバタンと手足を動かして駄々っ子のようにゴネてみた。

「ちょ、恥ずかしいですよ!!」

「誰も見てねえよ忙しくてよお!!」

 俺の言葉通り、朝を迎えて再び出社して来た連中は目が死んでいて俺に目も向けない。当たり前だ、まさしく一騎当千たるムリナが亡くなり、元々足りない人手は更に不足した。にも関わらず、納期は変更無し。朝の進捗で怒鳴られるPMの顔にはもはや生気は無くなっていた。

 何を考えているのか分からないが、むしろ、最近では早められないかという話すら出始めている。決算前に出したいのだとか何とか。

 そんな状況で、未だ原因不明のバグを抱えているわけで、もはやほとんどの人間の脳裏には絶望の二文字だけが浮かんでいた。

 周りの下請けも、逃げ出す算段を考え始めているようで、段々と自社に戻る回数が増え始めている。

 誰もがもはや自分の事しか考える余裕がなくなっているのだ。

「はぁ」

 でも虚しくなった。俺は立ち上がる。

「このキャラ消すか」

「短絡的過ぎません」

『そうですわ』

 声はディスプレイの方からも聞こえてきた。

『ワタクシはそれには賛同出来かねます』

 クレアだ。彼女は再びいつもの部屋に戻り、俺達に向けて話しかけてきた。

「こいつのせいで全てのバグが始まっている可能性がある。まず一度切り離してみるのも手だと思う。いや、そうすべきだ!!それしかあるまい!!」

 俺のテンションは疲れとストレスと疲れとその他諸々で限界を超越していた。

『落ち着いてくださいまし!!』

「はい」

 まさか一番精神的負担が掛かっているだろうループ被害者に諭されるとは思わず、俺は素直にそう答えてしまった。

「しかしだな」

『聞いてください。彼は今やワタクシ共と同様に意志を得ている可能性が高い、そうではありませんか』

『……そう、だねン。彼はどこか、クレアちゃんを哀れみの目で見ていた節がある。普通のNPCであれば、そんな事は……クレアちゃんには悪いけれど、無いと思うんだよねン。まるで、今後のクレアちゃんの辿るルートを知っているようにも見えたんだよねン。直感だけども』

『そうそれ!!それが気になっていたのですわ!!なーんかワタクシに対して優しい目をして下さるので!!』

「……辛い人生だよねぇ」

 梨花が泣き出した。

『ともかく……何か知っているようですし。それを聞き出さねばなりません。それに、彼に自我があるとすれば、彼を削除するというのは、彼を殺すようなものです。それで良いのですか』

 ……どうなんだろう。

 流石にそんな事考えた事無かった。

「……答えが出ない」

『なら保留にすべきだねン』

 ムリナが言う。

『ともかく、この周回では彼の話を聞こう。何とか説得して、だねン』

『しかし先程は問答無用でリセット直行でした。どうすればいいのでしょうか』

『うーむ……。彼はクレアちゃんに対して思う所があるみたいだし……』

 少し考えた後、ムリナは言った。

『ここはアタシに任せてくださいよン!!』

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