36. 強制突入ですわ!!
「誰だお前は!!」
「五月蝿えですわ喰らえですわファイヤー!!」
ワタクシは手に持った杖を握りグッと力を込めました。すると杖の先から強力な炎が飛び出し、ワタクシの歩みを咎めた組織の一員らしき人間の服に火を付けました。
「あっち、あっつ、あちゃーっ!!」
そいつはバタバタとワタクシの横を通って外に出ていきました。ボチャン、という海に落ちる音がしましたので、まぁ大丈夫でしょう。
ワタクシが持っているのは、この世界ではよく使われている、ファイアロッドと呼ばれる魔導杖です。言ってしまえばアサルトライフルのようなものでしょうか。炎の魔法を圧縮し杖の形状にしたもので、魔力を込める事でズンダカドンドンドコドンドン、炎の弾丸を撃ち出す事が出来ます。今はこれでも力は加減していますが、本気で撃ちだしたらまず常人であればその肉体を貫き、傷口から順繰りに焼いていく、なんていう芸当も出来るのです。貴族の家とはいえ、こんなものが普通に家に置いてあったのですから、魔法世界というのは本当に殺伐とした世界でございます。
閑話休題、路線変更。
「お父様の馬鹿は何処ですの!!」
ワタクシは要求を叫びました。
「んひゃあ無茶しますねェ……」
横からムリナ様がハラハラしながら見ております。彼女は魔法を使えない一般市民ですので、ワタクシの後ろに待機して頂いております。
「力ずくで全てを止めようなんて、無茶苦茶ですよン」
「もう自棄ですの」
ワタクシは軽くそう答えました。
そう、数度のループを経てワタクシが到達した最終回答がコレです。力ずくで止める。何としても、いっそあんな杖破壊してしまえば良いのです。そうすれば一旦全てに片がつくというものでございます。
「お父様!!出てきてくださいまし!!」
「な、なんだクレア!?急に、なんでこんなところに、いや、その前に、なんでこんな」
「あーだこーだ問答は無用でございます!!その杖ですね!!」
ワタクシは唖然とするお父様の横に突っ立って呆けている部下の手元を見ました。ループの度に見ていたあの杖でございます。
「破壊する!!」
恐らく血走っているであろう目でワタクシが叫び、自らのファイアロッドをそちらに向けた時、
「ま、待ってくれ!!」
そういって射線上に誰かが飛び出てきました。お父様でも、お母様でもございません。お二人はただただ戸惑うばかりで何の行動も出来ておりません。
「誰です!!お退きください!!」
「そ、それは出来ない、これは君のためのものなんだ!!」
「何を馬鹿げた事を……!!」
これが起こすリセット魔法で何度ループしているとお思いですの。
「……大体貴方は何方ですか」
そういえば眼前に出てきた誰かについてワタクシは何も知らない事に気付きました。男性らしい体つきで、ローブを羽織っておりますが、それ以上の事は……。
「ん?」
いえ、何か覚えがあるようにも思えます。ローブに付随しているフードの下にチラと覗くその顔、黒髪で、青と赤のオッドアイ、そんな特徴を持つ方の話を、かつて、どこかで……。
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『三人目。ニーチュ・R・クーガー。黒髪で赤青オッドアイ、いつもフードを深く被っているミステリアスなキャラクター。』
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「え?ニーチェ?」
ワタクシの口から、素っ頓狂な声が出ました。
「……ああ」
そう言って彼はフードを取りました。
「私はニーチェ・R・フーガー。魔族だ」




