31. 説得に掛かりますわ!!
「……最悪の最悪として、Day1パッチという手もありますが、どちらにせよこれを直すには相当の工数が……」
「掛かるだろうな……」
梨花に言われる前から分かっていた事だ。もう何もかもが足りない、と。
『こうなれば……なんとかしてこちら側で、一日目に、お父様やお母様にテロ的な行為をやめさせるしかありますまい』
クレアが意を決したように、グッと拳に力を込めながら言った。
「無理だろ……。大分しっかりと良くない思想を持ってたぞ」
『何とか説得するのです!!ワタクシの親です、親という設定のAIです、きっと分かって下さるはずですわ!!』
確かにクレアは理解が早い。その血を引いていると考えれば、もしかすると理解はしてくれるかもしれないが、
『……所謂現実世界側でどうにもならない以上、ここはコチラで何とかするしか無い、というクレアちゃんの言い分はごもっともだし、それ以外に手は無い、とも思いますねン。これが解決したところで、果たしてアタクシ達はどうなるのか、バグが全部治るのか、というのは分かりませんけれどもン、とにかく一つずつ潰していくしかないのは間違いないですねン』
ムリナが考え込みながら言った。
『整理しましょうねン。
目標はフラッドとアクティに例の世界滅亡呪文を使わせない事。
そのために出来る事をトライアンドエラーで試していきましょン。
で、直近の問題は二つ。
一つ目は時間が無い事。夕方までに急いで港の倉庫に向かわなければダメですねン。
二つ目はシグニ王子に見つかったらまずアウトですねン。彼らはシグニ王子に対して極めて高い悪感情を抱いていましたしン、合流したらアウトと考える他ないでしょうねン』
『えっ、それだとワタクシはシグニ王子の好感度ガンガン下がる一方なのですけれど』
『クレアちゃん、今回は我慢してくださいねン。目処が立ったらそっちを考えましょうねン』
「立てばいいんだけどなぁ」
俺はボソリと言った。
『そういう諦め的な発言はダメですよ裕二さン。何事も諦めない事が肝要です。根性論みたいなものはアタクシも嫌いですがン、さりとて諦めを口にすると良くない方向に行きやすいというのは真理みたいなところがありますんでねン』
「まぁ、確かに」
要はフラグというやつだ。下手に『こんな事起きたら嫌だな』みたいな事を言うと実際にそういう事が起きる可能性は高くなりやすい。体感だが。それと同じように、出来ない出来ない言ってると本当に出来ないという事もある。……いや、それでも出来ないものは出来ない時だってあるのだが。あるのだが――かつてのデスマーチプロジェクトを思い出したので、俺はそこで思考をシャットアウトした。まぁ、可能性を捨ててはいけない、程度の話と考える事にしよう。
『その意気ですよン。……そりゃ、出来ない時は出来ないっていうのはアタクシも何度も経験しておりますが、しかし!!人間前を向かないと前に歩けないのですよン!!』
ムリナも嫌な記憶を振り切るようにしながら力強く吠えた。アイツでも出来ない事はあったらしい。
『そうと決まれば善は急げというヤツでございます!!いざ行きましょう倉庫へ!!殴り込みですわー!!』
『おー!!』
クレアとムリナはやけくそのように叫びながら走り出した。




