30. ちょっとした絶望感
「…………」
「…………」
「なんだこれは」
「さぁ」
深夜の事務室。もう他の連中は諦めて帰った後。俺と梨花はクレアとムリナと共に、ゲーム中の滅亡原因を探っていたわけだが――まぁ大凡の理由は分かった。だが……これはどうしろっていうんだ?
眼前の画面にはゲームオーバーと表示され真っ黒になっている。再びゲームを開始すると、絶望に暮れたクレアと、その屋敷の外、画面隅の辺りにムリナが居る。あちらは何やら考えているが――ともかく、一度認識を合わせた方がいいだろう。
「整理しよう」
俺が言うと、クレアとムリナがこちらを向いて、クレアは渋々、ムリナは強く首を縦に振った。
「犯人はフラッド・シャフィーレとアクティ・シャフィーレ。あとはそれが率いている組織か何かか?まぁそういう感じの連中である事は確定した。方法は……あれは文字化けだよな?」
『あれで世界……つまりゲームをバグらせているという事……ですかねン……?』
「そんな事ある?」
梨花が率直に言った。
「普通は無いと思う。いや、あってたまるか」
『問題はそんな方法どうやって思いついたかですよねン。あんなテキストは無いわけで、となるとAIが勝手に生成した事になる。今回の文字化けを防いだとしても次回次次回と発生していけばキリが無い。根本的に防ぐ必要があるでしょうねン』
『その点で言えば、お父様とお母様の暴走を止めれば一番楽なのでしょうが……。この三日間の最初の一日目の時点でほぼ準備が整っている所から言って無理なのでしょうね……』
『それに関してはシナリオの根幹みたいな部分だから、そこの変更は難しいと思いますねン……。となると、何とか世界滅亡という方法は取らせないようにしたいのですがン……。そもそも『国家転覆を謀っている』という設定を決めていただけなのに、何故にこのような事にン……』
「それが問題だったのか?」
俺は口を開いた。
「つまり、『国家転覆を謀る』という設定だけを与えられたAIが、どうすれば国家転覆を謀れるかを思考した結果、最適な方法として、この世界=ゲームごとぶち壊すのが正解だと判定した……とか?」
我ながらバカげた考えだ。だが可能性としては捨てきれないし、何なら一番高い可能性のような気もする。
「であればフラッドとアクティの学習内容をリセットして、それでもう少しマシな方法を選ぶように誘導すればイケません?」
そう言いながら梨花がキーボードを叩きAIの学習内容をリセットしようとする。
「……あん?」
梨花は変な声を上げた。
「どした」
「消えません」
「またかよ」
「いやもう、今度は誰のAIもリセット出来ないというか、学習データにバグが入り込んでいるせいで、リセットコマンドで消えない領域が出来てしまっているみたいで」
「そんなこと……なんでこうなるんだァ!?」
『学習内容のリセットをする際、データとして残さなければならない最低限のものがあるので、一応個々の内容を大まかにチェックする機構を付けたんですねン。それが悪い方向に働いているようですねン……』
ムリナが分析する。
「直す事は出来るか?」
梨花に尋ねるが、彼女は首を横に振る。
「この納期じゃ絶対無理です。もうデバッグ期間に入らないといけないタイミングなので、そろそろマスターは弄れなくなります」
「クソプロデューサーがぁっ!!」
誰も居ない事をいいことに、俺は思わず叫んだ。




