28. シグニ王子の本音
「率直に言おう。俺はゼシカに惚れている」
知ってます。が、ワタクシはそれをおくびにも出さないように気をつけながら「えっ」という顔をしました。
「君という婚約者がありながら、失礼な話だとは思っている」
そうですね。
「だが!!俺は彼女に一目見たときから惚れてしまったのだ!!あの情熱的な目!!熱情的な動き!!劣情を催す肉体!!」
「おい」
思わず最後だけはツッコミを入れてしまいました。
「すまん。最後のは冗談が過ぎた。ともかく、俺は一目惚れしてしまった、それだけはわかってほしい」
「それは、その、わかりましたけれど」
「それで、彼女と結婚する事を考えた。だが……俺には君という婚約者が居る。そしてこうした婚約というのは早々簡単に取り消す事は出来ない。既に両家で合意していることだからな」
「それもまぁ、はい」
「そこで俺は考えた。合法的に婚約を取り消す方法が無いかと。そして――結婚相手に問題があれば良いのでは?という結論に至った」
「あんまりにもあんまりな結論では御座いませんか!?」
大声が出ました。ツッコミどころ満載の言い分に加えて、更にそれを本人に言う方がいらっしゃいますの!?本人に話すにしたってここまで赤裸々に言わなくても良いではありませんか!!ワタクシがもし今後の事を知らなければそれはそれは酷く傷ついておりましたよ!!
「悪かった!!それをべらべらと喋る自分が愚かだということも、理解はしているんだ。だが……彼女の魔性の瞳を見るだけで惹かれていく、それもまた理解して欲しい」
「は、はぁ」
もう許して欲しいと本気では思っていない事は明白でした。この隙に何もかもぶち撒けて自分だけ気持ちよくなろう、そういう魂胆が見え見えでございました。もうワタクシとしては、呆れる事しか出来ません。出来ることならもう婚約なんて解消してしまいたいと思う程です。
「……何の話だったか」
シグニ王子はゼシカ様の良いところをべらべらと喋り続けた挙げ句、最後にこう言いました。
「……ワタクシの父と母が国家転覆を狙っていて、それを調べていた理由が、ゼシカ様に惚れてそっちと結婚したいから、ワタクシとの婚約破棄をしたい、その理由を作り出そうとしていたからだ、というところまでは聞かせて頂きました」
「そうか。……まぁ、そういうことだ。で、この倉庫で、何やら儀式のようなものを今日から明日にかけて実行予定だ、という所までは突き止めて、それで此処に来た、というわけだ」
「はぁ」
ワタクシにはもうそんな呆れた声しか出ませんでした。ここまで自己中心的な相手だったら、元クレアであっても百年の恋も冷めるというものでしょう。ワタクシから婚約を破棄したいと思うくらいでございます。
「話は聞かせてもらった」
と、突然倉庫の扉が開きました。
「ならばシグニ王子、貴方と娘の婚約は破棄させてもらう」
唐突に、扉の先からそんな言葉が飛び出て参りました。
「え……お父様?!」
倉庫の暗がりから顔を見せたのは、本日探していたワタクシのお父様とお母様その人で御座いました。




