27. シグニ王子は此処に居る
「ゔぇっ!?ししししシグニ王子!?ご、ご機嫌麗しゅう?!」
ワタクシが社交辞令的挨拶をすると、シグニ王子は嫌そうな顔をしました。その隙にムリナ様は倉庫の裏手に隠れていきました。ワタクシだって離れたい。
「いやそういうのはいい。何故ココに?」
それはこっちが聞きたいところで御座います!!ですが、今のところシグニ王子からの好感度は極めて低い状況に御座います。気丈に「いいから教えて下さいまし」なんて言ったら更に好感度が低下することは避けられません。ココは下手に出るのが良いと咄嗟にワタクシ判断致しました。
「あ、えーとあの、ワタクシの父母が見当たりませんで。それで街中探しておりましたら、どうも港のこの倉庫の方で見かけた方がいらっしゃると聞きまして。それでこの辺りを彷徨いていたというわけでございます」
「そうか。……父母とは連絡は?」
何か、疑うような眼差しを受けて、直感が働きました。シグニ王子は国家転覆の件で調査にいらしているのではないかと。
となれば、いえそうでなくとも、父母と自分は無関係――いや血縁関係にはありますが、計画の上では無関係――ということを示さねばなりません。ここからの一挙手一投足が重要になるぞとワタクシは自分に言い聞かせて、冷静を保つように気を配りながら、まずワタクシは首を横に振りました。ブンブンと振るのではなく、あくまで軽く。
「残念ながらここ数日留守にされておりまして。メイドに聞くと大切な用事があるということなのですが……。ワタクシも知らない内に家を出られるというのは全くもって信じがたいことで、ワタクシ不安になってしまいました。もしや何か、トラブルが起きて捕まっているのでは?とか。そう考えてしまうと、居ても立っても居られなくなりまして」
「そうか。……ふむ、クレアは……君は、父母が何故不在になったかは知らないということでいいんだな?」
「はい、その、自らの父母の行動も知らないというのは、些か親不孝な面も御座いますが、実際その通りで御座います」
「わかった。なら……お前はシロか。少し残念……いやなんでもない」
今面と向かって恐ろしいことを言いませんでしたか?
「すまん、最近のゼシカに対する態度を見て、お前、いや、君のことを少々――悪く見すぎていたようだ」
しかしちょっと好感度は上がったような気配が御座いますね。
『1くらい上昇してるな』
『微々たるもんね』
裕二様と梨花様が冷静にパラメータを見ながら仰っしゃられました。煩いですわ、煩いですわ!!
しかしシグニ王子はお二人の声に全く反応されません。分かっていましたがやはり、ワタクシやムリナ様と他のNPCとされる人々との間には、大きな隔たりがあるようで御座います。不思議なことです。
「父や母に会いたいという気持ちは理解した。が、君は帰った方がいい」
理由は察しておりますが、知らない素振り、知らない素振り。
「それはどうしてですの?こちらに居るならすぐ会えるではありませんか」
「ああ、多分此処に居る。だが……」
そこで言葉に詰まったシグニ王子は考え込みました。
「……君は君の父や母の行動について何も知らない、それで合っているな?」
ワタクシは深く頷きました。
「はい。……何かご存知なのですか?」
「絶対に他言しないと約束出来るか?」
「無論で御座います。ワタクシはシグニ様に背くようなことは致しません」
心の底からそう申し上げました。いえ勿論、背いて助かるなら背くこともありましょう。ですがこの場において裏切るなどという道はございますまい。
「……君の父母は、残念ながら、国家の反逆者だ」
ココ!!ココで御座います!!これを如何に知らない素振りを見せるか!!此処に全てが掛かっていると言わざるを得ますまい!!ここで如何にも「知ってました」という態度を見せてしまうと怪しまれることは必定。何とかごまかさねば!!
「そ、そそそそそそそそそ、そんな!?」
ワタクシは口元に手をあてワナワナワナワナワナと震え上がりました。
『下手くそじゃね?』
『騙されてくれるのか不安』
神の声が煩い。
「そんな、冗談、ですわよね?」
出来る限りか細い声でそう言ってみます。
「……いや、間違いない。城の警備兵が調べて分かった。君達の父母が怪しげな団体に入り、国家転覆を狙っていると」
「……そんな」
ワタクシは膝から崩れ落ち、
「オイオイオイオイ……なんということ……!!ワタクシにも知らせず何ということをしていらっしゃるのですか父上母上……!!」
「落ち着いてくれ。……そうか、君はやはり知らなかったか」
ワタクシの演技には気付いていない様子です。流石ワタクシ。
『AIの教育がもう少し必要なんじゃないか?』
『いやそれのせいで今苦労しているんでしょう』
神の声がもっと煩い。
「すまない」
シグニ王子が深く頭を下げた。
「はい?え?ど、どうなされました?」
「……俺は君を疑っていた。そもそも君の父母を調べるよう指示したのも私だ。君との婚約破棄の理由を探すために」
「………………は?い?」
ワタクシの口から、演技ではなく、本心からの疑問の声が出ました。




