19. 早々に希望は潰えて
ダメだった。全員分のルートを試したけれどダメだった。
結論を先に述べてしまうと、この二十六文字に集約されてしまう。
俺は頭を抱えて、もう半分寝かけている。
しかし、このまま寝てしまえば、全部忘れてしまう恐れがある。もう忘れたいくらいではあるのだが、しかし成果が得られないという成果だけでも残さねばならない。
そこで、我々――特にクレアにより得られた成果を以下に記す。
明日の俺よ、これを見て何と思うだろうか。とりあえず頑張れ明日の俺、明後日の俺。
一人目、ロム・スマニース。緑髪でちょっと大人しめの年下純粋キャラ。シグニ王子の弟で、よく出来た兄を持つ事に対しコンプレックスを持っているキャラクターとして描かれる。彼の攻略のためには、彼のコンプレックスを受け止め、彼自身の良さというものを見つけてあげるのが重要となる。
ルート確定のためには、一日目と二日目でゼシカがロム王子と出会う事、そして彼からの「兄、シグニ王子についてどう思うか」という問いかけに対し、適切に――『良い人間ではある、勿論。ただ、彼が完璧な人間というわけではないし、完璧な人間こそが理想の人間というわけでもない。他の人には他の人なりの良さがある。欠陥というと言葉は悪いが、ちょっとした悪いところがある人間だって、その方が人間らしくて好きだ』という解答を述べられれば、ロム王子のルートが解放され、クレア追放後にイベントが発生する。
問題はロム王子の行動範囲が極めて広い事だ。気合を入れて探さないと、二日間両方とも出会う事は難しい。オープンワールドの悪いところである。
クレアが全力で――幾度もループしながら――ロム王子を探してくれたお陰で、この点についてはうまくいった。クレア追放後、ちゃんとイベントも発生した。しかし直後に落下してきた隕石により、ゼシカとロム王子は光に包まれ消滅し、一日目へと戻った。
ロム王子のAIや好感度変動については仕様通りで問題は無かった。行動範囲については調整が必要であるが、ともかく彼にバグは無いようである。
二人目、マウテア・コーザ。赤髪の情熱的キャラ。シグニ王子を一方的にライバル視しているキャラクターで、シグニ王子ルートで敵対する相手として用意されている。彼の攻略には、一日目と二日目の両方でシグニ王子に対し敵視するような行動を取る事が必要である。そうすると、所謂「おもしれー女」として認められ、クレア追放後に発生するシグニ王子との婚姻イベントで、マウテアによる誘拐イベントが発生する。
厄介なのは、シグニ王子に対し敵視するような行動を取る際、一定の範囲内にマウテアが居ないとならないという点である。これはクレアが無理矢理連れて来る事で何とかなった。これも要調整である。
その後、三日目に誘拐イベントが発生し、用意していた一枚絵――ゼシカのファーストキスをマウテアが奪うシーンも表示された。梨花は大喜びだった。彼女のツボらしい。が、直後に隕石が落ちてきて以下同文。
マウテアに関しても仕様通りばかり。バグらしき挙動は認められなかった。梨花がバグっていたが、もうこれは無視する事にする。
三人目。ニーチュ・R・クーガー。黒髪で赤青オッドアイ、いつもフードを深く被っているミステリアスなキャラクター。中2病モチーフである。他人を寄せ付けず、いつも一人で行動している。正体は悪魔で、魔王の側近であり、今後魔王に敵対する相手を探して抹殺する使命を帯びている。
一人だけ少し役が多いが、これは隠しルートだからである。シグニ王子は勇者としての血筋も引いており、彼はシグニ王子を狙う。その中で禁断の恋に落ちる――というのが彼のルートの内容なのだ。
で、このルートに関しては、シグニ王子に直接的に敵対するクレアに、追放後彼が接触するところから始まる、シグニ王子のルートの途中からの分岐である。一日目と二日目には彼は出て来ない。そのため、データだけを見ることにしたが、異常は無かったし、彼がこの繰り返しの中で出てくる事も無かった。正常な動作である。
以上が現在実装されている各攻略キャラである。
四人しか攻略ルートが無いのは少々物足りないという意見もあるかもしれないが、その分自由な会話、自由な攻略が出来る斬新なゲームになる、とディレクターは言っていた。俺は知らん。言われた通りに作るだけだ。
結論としては先に述べた通り、見た範囲でバグは無かった。
クレアには東奔西走して貰いゼシカ=プレイヤーキャラクターの補佐をしてもらったが、結果としては無駄な努力に終わってしまった。申し訳がない。