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17. 結局わからない事だらけですわ

 一日目に戻り、カエをあしらい、天に向けてワタクシは話しかけます。

「いかがでした?」

 しかし返事はございません。寝ているのでしょうか?

 そういうわけではないと分かったのは、冴えない二人の顔が空に浮かんだからです。

『……わからん』

「あー、……やはりそうですか」

 天から聞こえてくる声がどれも溜息混じりだった事から、そんなところだろうとは半ば諦めておりましたので、精神的なダメージはそれほど大きくはありませんでした。しかし、それでも辛いものはあります。

『苦労してるんだねえ……うっうっ』

 横の梨花様が泣き腫らした顔で言ってきます。同情して下さる事は心の負担軽減にはなりますが、如何せんワタクシの方は段々と慣れて参りましたので、同情して下さるよりは原因の究明の方を求めたいところでございます。

「というかそもそも、この流れにしたのはアナタ方ではございませんか」

『それはグスッ、そうなんだけどグスッ』

 梨花様は何かトラウマでもあるのでしょうか、何か震えながら涙を流しております。

『昔ちょっと……ズビッ』

 深く詮索してはいけないようです。一旦は触れないように致しましょう。

「ここは仮説というものが必要ではないでしょうか」

『仮説、かぁ』

 裕二様が顎に手を当ててフムと考え込みます。

「こんな意味のわからない事態が起きる要因と致しまして、何か思い当たる節などございませんか?ワタクシは当然ございませんが」

『そうだなぁ』

 裕二様はしばし考えた後、口を開きました。

『まず、そもそもこんなイベントもグラフィックも実装されていないんだよな』

 裕二様は驚くべき発言をなさいました。

「グラフィックも、ですか」

『ああ。でも現実には描画されている、その原因としては……ああ、やっぱり』

 カタカタとキーボードを叩く音の後、何やら得心する声が聞こえました。

『昔のゲームのデータが残ってる。名前からして、昔ムリナ――死んだプログラマーが組んだエンジンをそのまんま使ってるな』

「アリなんですの?それ。コンプ……コン……コンパ……」

『コンプライアンス』

「そうそれ」

『勿論当然言うまでもなくダメだ。が、開発も販売も同じ会社だし、納期最優先で何でもやっていいってPMがほざいてたからいいんじゃないか』

 裕二様はぶっきらぼうにおっしゃいました。どうやら腹に据えかねているものがあるようです。

『色々大変なのよウチらも』

『納期の火の車でな……』

『もう三日家に帰ってない……』

『俺は一週間……』

 今度は二人して肩を落としオイオイと泣き始めました。お二人以外の声は聞こえてはきませんが、お二人の周りの空気も何やら重くなっているように感じます。

「皆様苦労されているのは理解致しましたので元に戻しましょう、さっさと帰るためにもそう致しましょうではありませんか」

『そうだな……。うーんと、グラフィックの流用でイベントが生成されているという話はしたな?で、だ。こちら、つまりプログラマーとしてはそんなイベントは生成していないので、考えられる要因としては、このゲームのNPCがAIを搭載している事くらいしか思い当たる節が無い。AIにはかなり大きな権限を割いているので、例えば没グラフィックを読み込むくらいの事は出来てしまうのかもしれない』

『権限の問題なら作り直せばいいんだけどそこまでの時間は無いのよね。それにAIの実装は完全に死んだムリナが作ってたから、手出しが出来ないし』

 なんだか不安になる事ばかりおっしゃいますねこの方々。

「あの、……そんなゲーム、世に出していいんですの?」

 ワタクシは率直に尋ねました。ワタクシの去就は一旦棚上げすると致しまして、そのような『何が起こるか分からない』ゲームを世に出すことの危険性の方が大きいように思えたのです。

『……ははは』

『……ふへへ』

 しかしお二人はから笑いするばかりで、お答えにはなりませんでした。

『一旦……世に出る前提で話を進めよう』

「あっはい」

 ――大人というのは難しいものです。

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