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15. 二日目もロクな事がございませんわ

 二日目。

 朝になり、父母が逮捕されたという一報を携えて兵士達がやって参りました。彼ら彼女らは申し訳なさそうに屋敷からの退去を勧告、宿泊施設としてドセ・ワコレールの寮を指定されました。捜査に関わる物では無いことを確認され、持ち出して良いと言われたものだけを風呂敷に包み込んで背中に背負い、使用人達に平謝りをしながら外へ出ます。人々の奇異の目がワタクシを襲いました。

「反逆者の娘よ」

「バカな奴だ」

「頭かわいそう」

「なんだあの包み」

「何あの柄ダッサ」

 口々に人々の蔑む声が聞こえてまいります。

 ワタクシはその言葉を無視しながらとぼとぼと屋敷を後にしました。


 寮についても寮長の目は厳しく。

「兵に言われたから部屋は貸すけれど、料理とかは自分でやりなさい」

 とにべもなく言われ、ワタクシはただ頷く事しか出来ませんでした。

 寮の中を歩きますと、すれ違う生徒――全員NPCなのは分かっているのですが――全員の冷ややかな視線がワタクシへと突き刺さります。ゲームの中と分かった今でも、ワタクシにとってこの世界は現実なのです。その冷たい、極めて冷たい視線は、幾度目かのループであり既に経験済の今であっても辛いものでありました。

 ボロッボロの部屋に入り、鍵を掛けて、ふぅと荷物を置きます。

 そこは床も腐って今にも壊れそうな、かつては恐らく物置か何かとして使われていた場所。腐った匂いがプーンと漂ってワタクシの鼻を貫きます。

 思わず目が潤いました。

 あまりにあんまりです。

 ワタクシが何をしたというのでしょうか。何もしていません。ただ父母が愚かな事をしていたというだけで、何故ワタクシが此処までの扱いを受けねばならないのでしょうか。

 考えるだけで、辛くなりました。


 シグニ王子に会うことは出来ません。というか、寮から出ることも禁じられました。

 お陰で学習する事も出来ません。

 代わりに兵士達が話し相手として代わる代わるやってきました。優しくワタクシに同情してくれる方から、「お前も共犯じゃないのか!!」と怒鳴りつける方まで様々です。

 結局のところ、元のワタクシも、今のワタクシも、父母が何をしていたのかは全く存じ上げておりません。ですので、最後には兵士達は「まぁ頑張れ」というような態度で外に出ていきます。ですが、寮の人々の視線は代わりません。実家が落ちぶれ兵士が訪れるというだけで蔑む対象としては十分なのでしょう。


*********************************


 デバッグ用のカメラを使って、クレアの様子を見ていく。

 一連の流れを改めて見ると、ただただ可哀想に思う。メインルートの裏ではこんな出来事が起きていたのかと。

 プログラムを組むという俺の仕事の範囲内で、各キャラクターに思いを馳せるという事は基本的に無い。ただデータを仕様通りに組み上げていくだけだ。SEとして設計する時も同じで、個々のキャラクターに憐憫を抱くといった事は全く無い。そんな事をしている余裕が無いからだ。

 だが改めて作り上げたものに向き直ると、何とも酷な事を要求しているものだと考えてしまう。このシナリオを考えたヤツは鬼か何かだろうか。そんな考えも過ったが、悪役令嬢の扱いなんてこんなものなのかもしれない。勿論このゲームだけなのかもしれないが。

 さて肝心のバグについてだが、やはりこの範囲内では確認が出来ない。

 出会う人々の好感度がガンガン下がっていくが、これは仕様の範囲内である。下がるからこそあのような扱いになっていくのだから。

 ゼシカを操作してシグニ王子にも会いに行ったが、大変手厚い歓迎を受けた。と同時に、クレアについてどう思うかという選択肢を選ぶと、彼女についての罵詈雑言を聞かされた。やれクズだの、やれ親の七光りで自分には何の力も無いだの。「父母が逮捕されたからってここまで罵る相手もなかなか最悪ですね」とは梨花の談であるが、正直俺もそう思う。

 それを聞いてもゼシカのパラメータは特に変わらない。むしろシグニに関しては、その罵詈雑言を咎める選択肢を選ぶとゼシカに対する好感度が上がりクレアに対する好感度は下がる。仕様通りなのだが、何とも、裏を知ると飲み込み難いものがある。


 二日目までは特にバグもなく、また、好感度の増減でフラグが立つ/立たないといった事も無い。元よりクレアの追放は確定事項なので仕方ないのだが。こうなってくるとやはり原因が分からない。何処を調べれば良いのだろうか。

 ――今は考えても分からない。まずは情報を集めるしか無い。

 俺はクレアに、迷いながらも、頼み事を告げた。

 三日目に進んでくれ、と。

 「死んでくれ」と同義のその言葉を。

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