12. 状況判断は大切ですわ
「お待たせ致しました。これでも聞こえますか?」
部屋の中でワタクシは天に向けて声を掛けてみます。
『ああ……うん……聞こえている……』
『ちょっと遠い?カメラ位置の問題ですかね?』
天の男と女の声が聞こえてきます。カメラ位置というのはなんでしょうか。
『ちょっと待ってくれ……』
すると男女の顔が部屋の中に入ってきました。
「ギャア!!」
『人の顔見てギャアとか言わないでくれ。これでちゃんと見える』
『声も近くなりましたね。こっちのディスプレイの視点の問題みたいですね』
ディスプレイ、視点、カメラ位置。聞き覚えのある単語が出てまいります。
「もしかしてここってゲームの世界だったりしますの?」
ワタクシがそう言うと、二人の生首――と言っても絵のように平べったいので、そこまでおぞましい光景ではございません。どっちかというとWEB会議みたいな感じですわね。
『なんでわかった?』
男の方が尋ねていらっしゃいます。
そこでワタクシ察しました。この方々、多分あれでしょ、ゲームの開発者とかそういうヤツなのでしょう?
……となるとわけがわからなくなって参りました。
「ワタクシ、いわゆる転生者でして、それで前世でこの手のゲームはやった事がございますので、それで察しがついたのですわ」
なるほど、という目で男女がこちらを見てまいりますが、しかしワタクシの言葉を反芻して、なにかに気付いたようでした。
『……転生?』
男の方が怪訝な目になりました。
「はい、ワタクシの体感では数週前になりますか、トラックに轢かれて死にまして」
『え、トラック?』
また男女が目を見合わせます。
『どう思う』
男の方は女の方にヒソヒソと尋ねております。聞こえていますが。
『どうって』
『これムリナだと思うか』
ムリナ、というのは名前でしょうか?
『そんな事あります?』
『でもさ』
『分かりますけど、偶然にしたってそんな事』
「あのー」
完全に聞こえているので口を挟む事に致しました。
「どうかされました?」
『……君前世は覚えてるのか?』
「前世、うーん」
言われてみると全く覚えていない事に気づきます。トラックに轢かれた事は覚えているのですが。
「申し訳ありませんが覚えておりません。ただ、ムリナ、ですか?先程申されていた名前に心当たりはございませんわ」
『……そうか』
露骨にガッカリされました。恋人か何かなのでしょうか。
『いやすまない、違うんだ、あれが……その、このゲームのバグを直せそうなのが彼女だけで、その彼女がトラックで死んだらしいんだ。……それで、もし生きてたら、転生していたらと、つい、な』
そういって男の方は肩を落としました。
『はぁ、どうすりゃいいんだ』
「……バグと申されました?」
ワタクシ尋ねました。もしやワタクシのこの状況はそれなのかと思ったのです。
「もしや、ワタクシがこの二日をループしているのはバグという事なのでしょうか?」
『ああ、そのはずだ。そういう仕様じゃないからな』
なんという事でしょうか。ワタクシは何故かゲームの世界に転生した挙げ句、そのバグのせいで滅亡確定ループに入り込んでしまったようです。
「きぃぃぃぃぃ!!なんたる事!!というか何故ワタクシはゲームの世界になんて転生してしまったんですの!!ていうかそんな事なんで起きるんですの!?ゲームの世界に転生って、一体どういう理屈で!?商品展開された場合ワタクシの意識はどうなりますの?!」
『スワンプマン問題ね』
女の方が呟かれました。沼男がなんだというのでしょう。ワタクシもそこまでは存じ上げません。
『すまんが我々にはその点については何ともコメント出来ない、というか我々にも分からん。分からなすぎて今俺は吐きそうだ』
男の方はヘトヘトになっております。どうやら俗に言うデスマーチみたいな状況に置かれているようです。
『そうだ。もう……何がなんだかわからん!!』
ドンッと男の方が机を叩きました。「うるせーぞ」「こっちが言いたいわ」といった不平不満の声が向こう側から聞こえてきました。