プロポーズごっこに挑んだ先輩に幼馴染みを取られてしまいました。だけど俺は諦めきれないので、幼馴染みに本気のプロポーズをしたところ、おや、幼馴染みの様子が……?
「里見しゃん、すきです。けっこんしてくだしゃい」
「はい、よろこんで!」
プロポーズごっこ。
幼馴染みと子供の頃、よくそんなやり取りをした。
「けっこんしてください」
「はい、よろこんでー」
どういう話からそんなことになったのか、よく思い出せない。
ただ、いつも俺が求婚し、幼馴染みの里美が答えるのが習慣だった。
そんな俺たちは、くっつきもせず成長し……いつのまにか大学生になっていた。
互いに家が近いため交流はあるものの、友達以上の関係になることもなく、かといってずっと恋人をつくることもなくやってきた。
で、そのプロポーズごっこはどうなったかというと……。
俺は無事卒業したのだが、里美は立派な「プロポーズごっこ魔」へと成長したのだった。
「先輩、好きです。愛しています。結婚して下さい!」
「えっ……えーっと。マジ? 里美ちゃん! ラッキー。こちらこそよろしく」
とある飲み会での席。
そこで、哀れな犠牲者が里美の「ごっこ」に付き合わされていた。
里美の表情を見れば、結果は明らかだ。
「……。うーん、全然ダメ。0点」
「はぁっ?」
プロポーズごっこで告白した、一つ歳上の先輩が目を見開く。
彼はどうやら里美のごっこ遊びを知らなかったようだ。
「じゃあ、さよなら」
「えっ……そ、そんな」
ルックスの良さなら高い評価があるらしい里美にあんなことを言われたらどうなるか?
大抵の男は戸惑いつつも、鼻の下を伸ばしOKする。
その返事に点数を付け、酷評し速攻で振る里美。
知っていれば軽く流すのだが、知らない男も多く、屍の山がうずたかく積まれていた。
「なあ、里美。それやめたほうがいいんじゃないか?」
「何? 心配してくれてるの?」
「いや、心配というか、100点の答えを男が返してきたらどうするんだ?」
「ど、どうって……正解したら……け、結婚するわよ」
ざわっ。なぜか戸惑いながら俺の質問に答えた里美に視線が集まった。
俺と里美の会話を聞いた男たちが酒の勢いもあり盛り上がる。
「正解は一体何だ?」
「ドラマとかでよくあるやつか?」
「なあ、里美ちゃん、俺にプロポーズしてよ」
いつの間にか、里美の前に沢山の男どもが列を作っている。
あーあ。
「分かったわ。でも、一人一回ね」
そうして一次会だけでは終わらず、二次会以降も「プロポーズごっこ」が続き、犠牲者は増えていった。
数日後。
「なあ、聞いたか? 里美ちゃんのプロポーズごっこ、100点取ったやつが現れたらしいぞ?」
そんな噂を聞いた。
どうやら二つ上のスーパーリア充な先輩が、その正解をかっさらったらしい。
「え……マジか?」
「ああ。まあ、いきなり結婚ってワケにはいかないから、付き合うところから始めるらしいが」
それを聞いた途端。
俺は目の前が暗くなった。
いやいやいや。俺……どうしてしまったんだ?
里美のことは幼馴染み以上に見てなかったはずだが……そんなバカな。
がっくりうなだれてしまう。
「ごめん……今日帰るわ」
俺はすごすごと大学を後にする。
そして、ダメ元で思い浮かぶことがある。
もう遅いのかもしれない。でも、もし、俺が100点を取ったら?
里美が考え直してくれる余地はあるんじゃないか?
「な、何……? 急に呼び出して」
「イヤ、里美のプロポーズごっこ、俺もやりたくなって」
「えっ?」
里美はその大きな瞳をまん丸に見開いて聞き返してきた。
「だから、さ。プロポーズを俺にしてくれよ」
「……あー。う、うん、分かった」
俺は改めて、里美と向き合った。
里美は妙に落ち着かず、身体をくねらせていて、妙に頬を染めていた。
そう、まるで好きな男に告白する女の子のように。
でも、里美にとって俺は幼馴染み以上の関係は求めていないのではないか?
今までの経緯を見てもそうとしか思えなかった。
それでも、玉砕覚悟で立ち向かう。今、里美と向き合わなければ後悔すると思ったからだ。
「こほん。好きです……愛して……います。結婚して下さい……!」
今まで他の男にしてきた告白と随分違って、やけに熱がこもっていた。
だったら、俺も本気になろう。深く息を吸い込み心の底から声を絞り出す。
「俺も……同じ気持ちだ。里美、ずっと……子供の頃から愛している」
ああ、これは間違いだ。言ってから気付く。
正解は「はい、喜んで」なのかもしれない。だって、子供の頃はそれが定型句だったからだ。
100点を取った先輩は、きっとその言葉を言ったのだろう。
でも俺は、彼女の言葉をどうしても、定型句で答える気にならなかったのだ。
0点。
そんなことは分かっている。
里美は俺のことを、ただの幼馴染みだと思っている。きっとそうだ。
でも、これできっといい。
俺の気持ちを伝えることができた、それだけで満足だ。
俺は、目を瞑り、0点という言葉を待った。
しかし……。
「ああ……ああ……」
聞こえてくるのは、驚きとも戸惑いとも取れるような声だった。
俺は目を開ける。
そこには、両手のひらを頬に当てて、どうしよう? と困惑している里美がいた。
あれ?
「おい、点数は?」
「そ、そんな……私……」
ふう、ふう、と息を整えてから、里美が言う。
「あのね……変な噂が立ってるけど、先輩とは別に何もないよ。先輩はね、プロポーズごっこに答えなかったの。お前らがもどかしいって」
「えっ?」
「なんか説教されて。何もないんだけど……その、次の日大学に行ったらヘンな噂立ってて」
「ええっ?」
驚きだ。
すっかり噂に流されていた俺が悪いのか?
「でもね……さっきの返事を聞いてね。嬉しかったし、私も……自分の気持ちに気付いたって言うか」
そう言った里美は、口元がふにゃっと緩み締まらない様子だ。
俺も多分同じ口元をしているのだろう。
「で、でさ、俺里美の返事聞いてないんだけど」
そう言うと改めて俺に向きあい、たったひとことだけ里美は告げた——。
「はいっ、喜んで!」
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