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火炎

作者: 紺一色

蝶々結びのように繋がっていた絆が不意に、目の前から消えた時にまた新たな絆を作り直すことは出来るのか。

僕は今日も独りで考え事をしている。群れている者たちは、除け者を作って、何が楽しいのだろうか。

太陽が空の最高点に辿り着いたとき、僕の考え事は蝋燭の火が消えるように、一瞬姿を消した。

「これからお世話になります。」

なにげない教室に響いたその一言は、物語の始まりを彷彿させた。


<消火栓>

町谷孝。つい先日この学校に転校してきた奴だ。奴は話し方が独特で、一見すると誰とも仲良くなれそうにないオーラを醸し出していたが、実際そうではなかった。

最初こそ、勝手に奴を同類認定していたものの、次第に僕の奴に対する好奇心は高まっていくばかりだった。彼に話しかけようとした。一軍気取りが主導する強制に入らされたクラスラインの通知がポケットから聞こえた。メッセージには、私をアクションするとともに、

「おまえは、あいつとしゃべっちゃダメな。」

と添えられていた。周りから強烈な視線も同時に感じた。だから殻に籠もった。

動けないなら、奴を観察しようと思った。奴の顔は時々引きつっていた。楽しくなさそうな、でも完璧な愛想笑いだった。少し尊敬したくなった。

ある日、奴が学校で話しかけてきた。

「ひろし! あっちで一緒に遊ぼ!」

奴は僕の名前を覚えていたのだ、その瞬間、「何いつの間に仲良くなってんだよ、この友達選び野郎!!」という視線が四方八方から迫ってくる、それから逃げるように奴は図書館に連れてってくれた。

消火栓のある廊下を通り過ぎて、図書館に着くと、奴は僕にこう聞いてきた。「僕は君に興味がわいたよ。なぜクラスで浮いているんだい?」

いかにも直球に聞いてくるから涙が出そうになった。

「僕も越してきたんだけどさ、やってはいけないミスを侵したからだよ」

「侵したミスとはなんだい?」

「僕はこのクラスのボスと最初こそ仲良くできていた。けれどある日遊ぶ約束を家の都合で断ったら、それ以来口も聞いてくれなくなったし、仲間はずれが始まった。これが侵したミスだよ。」

奴は納得していないようだった。

「なんで遊ぶ約束を断っただけで、口も聞いてくれなくなるんだ?おかしくないか?」

「それは・・・その約束は、ずっと前から決めていたものだったんだ。前日まで遊べることは確定していたのだけど、当日に親が急に出かけると言い出して、断ることを得なくなったんだ。その用は、前の学校で仲良かった子と遊ぶみたいな感じで、もしかしたらボスはその時僕が遊んでいた姿を見て、勘違いしているのかもしれない・・・」

奴は解決方法を悟っていたようだった。

「僕が君の状況を変えてあげるさ、転校生にしかできない方法でね。変えて欲しいだろう?」

「出来るなら・・・してほしいさ」

次の日、今まで話しかけてこなかったボスが目の前に来た。

「ひろし・・・今までごめんな。俺が勘違いしてたみたいだぜ。あの約束を破るのも仕方ない事情だったんだな。確かに親の頼みってなかなか断れないよな・・・

おまえの気持ち分かった気がする。これからは前みたいに接して欲しい。これからおまえと俺は対等だ。それでいいか?」

「えー、いいけど(やはり最後はボスらしい一言を付け加えてきたのが少々腹だったが、それもないように)改めてよろしくね」

孝は僕らを遠くから見守っていた、このときはまだ知らなかったんだ。孝が秘密を抱えていたことを。


<着火剤>

遠くの方から鳴り響く消防車のサイレンで、目覚めた。どこかが火事らしい。物騒なこともあるのだと、自分に言い聞かす。

学校に着くと、話題は火事の話で持ちきりだった。

「ひろしくん、聞いた?火事があったとこって明性寺のとこらしいよ。」

「明性寺なの?あそこって全部木造だったよね?」

「そう。だから辺りの森まで火が届いて大変だったって。」

クラスの女子と話せるなんて久しぶりだ。孝に感謝しないとな。孝は右手に絆創膏をつけて登場してきた。

「やっほ~ひろし! この怪我はね昨日親の料理手伝っていたら、包丁で切っちゃったんだよ、痛かったわ~」

僕が理由を聞く前に彼はそう答えた。なんか愛想笑い少ないな。本気で笑ってる感じする。孝からそう感じた。

放課後、孝が僕に相談してきた。

「親と喧嘩して家に帰りづらいから今夜泊めてくれないか?」

「いいよ、着替えとかは僕の貸すね!」

孝とお泊まりするのが楽しみになっていた。いつもの家に向かうだけなのに今日は一段とわくわくする。家に着くと、母が孝を見て、赤面していた。

「ひろしにこんなイケメンの友達が・・・いたなんて」

「よく言われます、でも自分ではそう思いませんけどね」

「まあ、謙虚なところも素敵、明日までゆっくりしてってね」

「お言葉に甘えて、失礼します」

マダムを虜にした孝はやけに上機嫌だった。菓子と茶を持ってきた母親に会釈をするだけで母は胸がいっぱいになっていた。

確かに、孝って月9のドラマで主演張れそうな顔面だし、スタイルもめっちゃいいんだよな、ともの思いにふけっていると、孝が

「僕の話を聞いてくれるか?ひろしにしかこれは話せないんだ。今朝の火事あるだろ?あれ実は僕の親が犯人なんだ。ただ確信はないんだ。」

その言葉を聞いて絶句した。

「今日起きて、リビングにちょい焦げたチャッカマンとマッチ箱があったんだよね、親になんで置いてあるの?って聞いたらおまえには関係ないって怒られちゃった・・・」

かけてあげる言葉が見つからない・・・母もドアの向こう側で聞いて居たようでこっちに一回おいでと手招きされた・・・。母は囁いた。

「多分孝くんって、虐待を受けている子かもしれない。まだ断定は出来ないけど、着火剤は今朝の火事に使ってたものかもしれない、火事を起こしたのも、一番孝くんが焼身自殺に見える場所がどこなのか、探していたのかも?」

「焼身自殺?」

「火で自分を焼いて殺すってことよ、まだ断定は出来ないけどね、虐待っていったのは、絆創膏の位置かな、利き手についてるのにちょっと怪しさを覚えたの。とにかくひろしは孝くんと一緒に居てあげてね。私は大希と秀次さんにちょっと電話で話してみるから。」

「わかった。僕は孝といるね。」

大希というのは僕の父、警察官をしている。秀次さんは父の父、僕の祖父に当たる、警察庁長官を任されている。

孝の元に戻ると、孝が僕の方を見て涙を浮かべていた。

「ひろしのお母さん、優しいな。僕はさ、母からはいつも舌打ちしか返ってこなくて、時々帰ってくる父からは腕相撲と称した暴力がやってきて、いつも胸が苦しかった。今日朝言った傷も、料理で怪我したんじゃなくて、父親の暴力なんだ、誰にもいえなかった。」

孝は震えていた。僕は孝の肩をなでてあげた。

「言ってくれてありがとう。僕が孝を守るからね。」

母が、急いで僕の部屋に入ってきた。

「孝くん、今朝か昨日の夜のこと思い出して欲しいんだけど、お母さんからこれだけは持っとけって渡されたもの無い?」

「そいえば・・・昨日珍しく、母が腕時計をくれました。これです。」

母は腕時計を受け取ると、裏側を見た。小型の黒い物体がついていた、今度は分解を始めた。そうするとすぐにまた黒い物体が出てきた。それを母は握りつぶした。なんていう怪力だ。

「孝くん、今のはね盗聴器と位置情報を拾える小型の機械なの、もしかしたら居場所がバレているかもしれないわ。」

「そうなんですか・・・」

孝はかなりショックを受けてしまっていた。でも母は勇気づけるように

「私たちの家は警察官が二人居るから大丈夫よ。もう外に待機してもらってるし、今から逃げるわよ!」

孝と僕を連れて母は玄関から外に出た。警察車両が待機していた。乗ろうとしたとき、孝のズボンから携帯が鳴った。

「私たちからは逃げられないわよ、あなたは私達のおもちゃなんだから」

嫌な通知だ。私は孝の携帯の電源を消した。

「こんなん気にしなくていい、今は僕の側に居て、じっとしてて。」

警察車両が走り出したとき、僕の家が燃えだした。赤く時々橙色に光る火がこことの別れを告げるように。


<花火>

僕は家が燃えたショックで、涙が止まらなかった。

「ごめんな、ごめんな・・・」

孝もそう呟きながら泣いていた。母は泣いていなかった。

「ひろし、実はあの家はね、かりそめの家なの。」

「かりそめの家?」

運転席にいる父が話し出した。

「まあ偽物ってことだなあ、あの家に実は大切なものなんてないんだよ。大事な書類とかは別の場所に厳重に保管してあるし、これから行くところが本当の家だ。ひろしの部屋も見事に再現はしてあるから安心しろ。」

目的地に着くと、そこは倉庫だった。

「倉庫って思うでしょ?じゃあ大希、あれやってみてね」

父が、倉庫の入り口の端にあるケースに携帯を入れた、そうすると倉庫が家に変形した。しかも全く同じのものだ。

孝も言葉を失っている。

「これはな、警察庁長官の特権なんだけど、祖父が譲ってくれたセキュリティ対策万全の隠れた家だ。」

「すごい!」

孝と僕の声がハモった。すると父の警察用の携帯から電話が鳴り響く。

「もしもし、こちら・・・」

応答してすぐ、なんともいえない表情に変化していた。

「孝くん、君の親を拘束したよ、君はどうしたい?」

「会いたくない・・・です。一緒の家族でいたくない・・・です。」

「そうか・・・なら僕らの家族になるか?ひろしもそれでいいだろ?」

「うん!孝といっぱい一緒に居れるなら、それがいい!」

「皆さん・・・ありがとうございます。」


それから、いろんな手続きを乗り越え、孝を養子として迎えることになった。

「今日から君は、伊東孝だ!まあひろしのほう兄のほうになるわけだけど、二人で仲良く出来るな?」

「うん!(二人同じタイミングで)」

後日聞いた話だが、母の断定できない推理は、ほぼ合っていたらしい。父によると昔から人一倍勘がいい人だったそうだ。

ある夜、孝と線香花火をしに庭に出た。出来事を思い返した。

「孝が来てから、本当に変わった気がする。ありがとう。」

「僕こそ、ひろしがいなかったら、救われてなかったと思う。」

お互いに感謝しあう関係が生まれた。線香花火対決は、同じタイミングで火の玉が落ちたから、引き分けだった。

もう暗くなった空を見上げる。月がこっちを覗いた気がした。星も少し輝いて様子見しているようだ。




蝶々結びは、同じ長さでないと不格好になってしまう。人の絆もきっと同じなんだ。お互いの想いの熱量が同じくらいでなければ、うまくやっていくことはできない。結び直すときに今まで使っていたひもを燃やして捨てて、新しいひもを使うのか、そのまま解いたのを新しく使うのか・・・まあひとついえるのは、それは人の自由であるから、どっちになろうと確実に道は続いてるってことだ。

僕はもう火炎を見たくない。物語がまた始まる気がするからだ。


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