第7話 前へ進む
テラスさんが死んだ後、俺はマナさんと一緒にテラスさんとケルさんの墓を建てることにした。
ただ、戦闘の影響で崩壊した場所に墓を建てるわけにもいかないので、マナさんは土魔術でゴーレムを数十体作り、ゴーレム達に、墓を作る場所を綺麗にするよう命令した。
ゴーレム達が作業をしている間、マナさんは火魔術でテラスさんの亡骸を燃やした。骨はマナさんが土魔術で作った壺に入れた。
ゴーレム達の作業が終わると、俺は壺を墓に埋めた。
ケルさんの体は灰になって消えてしまった為、墓に埋めることができないのが残念だ。
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墓を建て終えた後はカレマ町へと向かった。
カレマ町につくと、マナさんは「私は少し冒険者ギルドに用があるわ。貴方は向こうの広場で待ってて」と言い、そのまま冒険者ギルドへと向かった。
俺は広場へ向かうと、ベンチが空いていた為、そこに座った。
俺はテラスさんとあの怪物…ロストマグナの会話を思い出す。
ロストマグナはテラスさんのことを「裏切り者」と言っていた。テラスさんとロストマグナは昔、仲間だったのだろうか。それと「あのお方を裏切った」という言葉。「あのお方」というのは一体誰なのだろうか。
いや、それよりもまずはこれからどうするか…。
「イズミ」
考え事をしていると、いつの間にかマナさんが隣に座っていた。意外と早く戻ってきた。
「早かったですね。何の用事だったんですか?」
「まぁ、ちょっと知り合いに会いにね…。それよりも貴方に報告があるわ」
「報告?」
一体なんの報告だろうか。
「貴方は元の世界に帰ることはできないわ」
「え…」
いきなり衝撃的な事を言われた。
「ごめんなさい、私は他の魔術師より魔術や魔法陣に詳しいんだけど、異世界召喚の魔法陣だけはどういう仕組みで作ればいいのか分からないの。前にテラスから作り方を聞こうとしたのだけれど、「また今度教えます」って言われて、結局分からなかったわ」
「…そうなんですか」
「テラスの家は粉々になってて、手がかりになる魔法陣は何も見つからなかったわ」
帰れない…か。なら俺はこれからどうすれば。
「マナさん、俺はこれからどうすればいいんでしょうかね…」
俺は俯きながらマナさんに聞く。
「イズミ、私と一緒に旅に出ない?」
「?旅に出る?」
「えぇ、ロストマグナを探すの。テラスの仇を討つ為にね」
「ロストマグナを探しに俺と一緒に旅に…ですか」
…ロストマグナを探してテラスさんの仇を討つ。つまりそれは、奴と戦うということ。
正直言って、俺はあいつが怖い。
あいつはテラスさんを軽々と殺し、マナさんとの戦いでは彼女を圧倒した。
あいつは恐ろしく強い。
そんなあいつと俺は戦うことができるのか?
無理だ。俺はただの一般人だ。たとえ戦ったとしても、何も出来ずに殺されるのがオチだ。
だけど、俺もマナさんと同じで、テラスさんの仇を討ちたい。
だが…俺は何も出来ない。
どうすれば…。
「イズミ。貴方は、自分はあの場で何も出来なかった。何も出来なかった自分がロストマグナと戦えるのか…と思ってるんじゃないかしら」
「…よく分かりましたね」
「まぁ、俺は何も出来ない、っていう顔をしているからね」
どんな顔だ。と俺は思った。
しかし、マナさんのいう通り俺は何も出来ない。
魔術は使えない、戦闘の技術もない。
一緒に旅をしても、ただのお荷物になるだけだ。
「イズミ…何も出来ないと考えるんじゃなくて、何かが出来る様になればいいんじゃないかしら」
「何かが出来るように?」
「そうよ。それに、今すぐにあいつと戦うとは言ってないわ。旅をしている間、貴方は戦う力をつければいいのよ。ひたすら剣を振って、体力をつけて、戦いの知識を身につける。そうすれば、あいつと戦えるようになるんじゃないかしら」
…そうだ。強くなって、戦えるようになるのは今からでも出来るんだ。
それに……前に進まなければ。
決断をして、前に進まなければ俺は一生このままだ。
「俺も…俺も一緒に旅に連れてってください。俺もテラスさんの仇を討ちたいです」
俺は俯くのをやめて、マナさんの目を真っ直ぐ見る。
「決まったようね。それじゃあこれから私達は仲間よ」
マナさんは右手を差し出した。
「よろしくお願いします。マナさん」
俺は右手を差し出して彼女と握手をする。
「えぇ、よろしく。それと、さん付けはしなくていいわ。仲間なんだから」
「あっ、はい分かりましたマナさ…分かった、マナ」
「ふふ、それじゃあ旅の準備をしましょう」
マナは立ち上がり、歩き始めた。
「…よし!」
俺は両手で顔をパチンと叩き、マナの後についていく。
前に進もう。
そして、強くなろう。
テラスさんの仇を討つために。
第1章 アルメリアス 完