第55話 乱入者
戦場に静寂が訪れた。
それは戦闘が終わったいう意味であり、勝者と敗者が決まったということでもある。
マシュラは破滅大砲によって抉れた地面の上を歩きながら、ホーエムに近づいた。
ホーエムは意識を失っていた。
ピクリとも動かない。
まるで人形のように。
ホーエムの身体は見るも無惨な姿になっていた。
腕は曲がってはいけない方向に曲がっており、胸からは血を流しており、下半身は無くなっていた。
「……」
マシュラはそれを無言で見つめた。
数秒後、腕を上げた。
放っておけば死ぬであろうが、トドメは刺しておこうと思ったのである。
腕を振り下ろそうとした瞬間。
「そこまでです」
背後から何者かに腕を掴まれ、止められた。
マシュラは「誰?」とは言わずに、その者の名前を言った。
「ボルドス。邪魔する気?」
そう。
マシュラの背後に立ち、今マシュラの行動を止めたのはボルドスであった。
マシュラは手を振り解き、ボルドスの方へ振り向く。
「やりすぎです」
マシュラは頭を掻く。
確かにボルドスの言う通り、やりすぎてしまった。
楽しくてつい我を忘れてしまった。
反論の余地もない。
だが、楽しみを邪魔したのは許さない。
「今ここでやる?」
ただ一言。ボルドスに向けて言った。
「どうぞお好きに。
私、あなた対策の技を幾つか考えているのです。
味わってみます?」
ボルドスは剣を抜いた。
「…」
「…」
両者、睨み合いの状態に入った。
もしここに一般人などがいれば、その者達はこの場から即座に逃げていたことであろう。
「ま、いいや」
先に睨みをやめたのはマシュラであった。
「確かにやりすぎたねごめん。
ここまでにしておくよ」
そう言いながら、マシュラはどこかへ歩き去っていった。
「ええ、そうしてもらえると助かります」
ボルドスは、マシュラが居なくなるのを確認すると、マシュラとは逆方向に立ち去って行った。
その後、駆けつけたスキャル達により、魔王ホーエムは救出された。
幸いにもまだ息はあった。
すぐに魔王城の医療室へと運ばれた。
スキャルは魔騎士団に周辺の捜索を命じた。
だが、マシュラを見つけることはできなかった。




