第49話 謁見
五大魔将軍スキャル。
綺麗に輝く青い髪と赤い瞳。
顔立ちはとても良く、一目見て好青年だと思うほどの姿だ。
20代後半の見た目だが、魔族だからもしかしたら歳は結構上なのかもしれない。
バルザックによると、彼は貧民の生まれで魔族と人族の混血。
若い頃は魔王軍の兵士として働いていたが、剣の才能を当時の五大魔将軍に買われ、その後魔騎士団に配属。
実績を積み重ねていき、騎士団に配属されてからたったの3年で、五大魔将軍に任命された。
話によるとどうやら彼は、あの剣爺九ツ剣の一つ『魔王剣グルバルタ』を持っているらしい。
なぜ魔王剣を持っているのかと聞くと、今の魔王は剣術が苦手らしく、魔王剣を使わないそうだ。
だが、使わないのは剣を造ってくれた剣爺に無礼だということで、代わりにスキャルに持たせているそうだ。
そして現在、俺たちはそのスキャルに城内を案内されている。
どうやら魔王様がバルザックとその連れである俺たちに会いたいそうだ。
アポ無しの訪問だというのに、城内に入れてくれるとは、とても寛大な人なのかもしれない。
けど…。
「服装これで大丈夫かな? スーツに着替えたほうがいいか?」
「スー…? いやまあ大丈夫だ。魔王様は服装とかは気にしない。普通にいれば問題ない」
バルザックにそう返され、俺は安心した。
なるほど普通にか。なら俺は失礼な無いよう無言でいよう。
そう思いながら俺は、廊下の壁にずらりとかけられている、沢山の肖像画を見ながら歩く。
肖像画の下には名札がついていたが、遠くて読めなかった。
が、おそらく歴代の魔王の肖像画だと思う。
ーーー
それから約数分後。
玉座の間へと、案内された。
5メートルはあるほどの巨大な扉だ。
豪華な装飾が付けられている。
扉の両脇には重装鎧を来た兵士が立っている。
それにしても、てっきり謁見の間とかそういうのに案内されると思ったが、いきなり玉座の間か。
それなら尚更、失礼の無いようにしておかないと。
「どうぞお入りください」
スキャルがそう言いながら、扉を開いた。
中に入るとまず目に入ったのは、巨大な玉座に座る大男…いや、言い方が失礼だ。
目に入ったのは魔王であった。
黒い鎧、黒いマント、金色に輝く王冠。
そして何より目立つのは体格だ。
腕も足も胴も、何もかもがデカい。太い。
身長の方は座っているから正確には分からないが、おそらく2メートル半はある。
「お進み下さい」
スキャルに連れられ、部屋の中心へと進む。
歩きながら辺りを見回す。
部屋のあちこちに、入り口の門にいた重装兵と同じ鎧を来た兵士が10人いる。
武器は各々持っている物が違う。
片手剣、大剣、斧、槍…。
「ここでお待ち下さい」
立ち止まるスキャル。
それに合わせて俺たちも止まった。
「魔王様。バルザックとお連れの方をご案内しました」
スキャルはそう言うと、玉座まで移動し、魔王の隣に立った。
「うむ」
玉座に座る魔王が、姿勢を直すかのようにやや動いた。
「久しぶりであるな。バルザック」
名前を言われると、バルザックは一歩前に出た。
「お久しぶりです、魔王様。
お身体にお変わりはないでしょうか?」
「ああ、大丈夫だとも。
して、今日は何用でここに?」
「はい、少しばかり、資料室を使わせていただきたく…」
「ああ、よいとも。しかしすまぬな。お主はすでに軍を辞めた身。資料室はレベル0のみしか使えぬが…」
「問題ありません。そこに保管されているものが目的ですので」
「それなら、問題ないな。
して…」
魔王は視線の先をバルザックからマナに変えた。
「久しぶりであるな。マナギスタ殿」
「お久しぶりです」
「えっ」
2人の会話に驚いたのはバルザックだ。
幽霊でも見たかのような顔で、マナを見つめている。
「会うのは、ワシが魔術学院に招かれた時以来じゃな」
「ええ、その節は…」
「うむ。それにしても、本当に幼子の頃の姿に戻っているとはな…。
天才でも失敗はするというわけかの…」
「お恥ずかしい限りです」
「すまんすまん。馬鹿にしているわけではない。
今の言葉は忘れてくれ」
少し頭を下げながら魔王はそう言うと、今度は俺とアルスさんとリエナに視線を向けた。
「そちらの者達は初めてみる顔であるな。
わしの名はホーエム・ルス・マーダハ・グルバルタである」
俺達は3人で順番に挨拶をした。
挨拶を終えたあと、魔王ホーエムは何やらゴソゴソと、耳打ちでスキャルに話しかけた。
スキャルはそれにコクリと何度か頷いた後、俺たちの方へ近づいた。
「着いてきて下さい」
そう言いながら、スキャルは俺たちの間を通り抜けて行った。
ーーー
「オマエ、魔王様と知り合いだったんなら先に言ってくれよ。ビックリしたじゃねぇか」
玉座の間から出たすぐに、バルザックがマナに向かって言った。
「別に言う必要ないでしょ」
「…そりゃそうだけど。
んで、オレは今からスキャルと一緒に資料室へ行くけど、オマエらはどうする?」
どうするか…。
と言われても、特に用事とかないな。
「ここって魔術を専門とする部隊ってあるかしら?」
すると、マナがバルザックにそう聞いた。
「あるけど」
「そこに見学に行ってもいいかしら」
「それは…スキャル。構わないか?」
「見学でしたら構いませんよ」
「そうか。アルスとリエナとイズミはどうする?」
「僕は城下町に行って、何か良さそうな道具や武器を探すよ」
「私も、アルス殿と同じで」
「俺は…特に用事ないから、バルザックについて行くよ」
「よし、じゃあ全員行き先決まったな。
じゃあ…」
その時だった。
「バルザックゥゥゥ!!テメェェェ!!!」
ドスの効いた声が、向こうの廊下から響いてきた。
驚きながら声のした方向を見ると、髪型がモヒカンで、鬼の角が二本生えてて、昭和のヤンキーのような服装をきた男と、高身長で全身に鎧を来た男(?)と、暗殺者のような黒いフードを身に纏い、ペストマスクに近い形の仮面を着けた少し背の低い子が見えた。
鬼ヤンキーはカツカツと早歩きでこちらに来て、バルザックにガンを飛ばす。
「おうおう!?テメェ、どのツラ下げてここに戻って来やがったんだ!?ああ!?」
キスする直前かっていうぐらいの距離で、鬼ヤンキーはグイグイと来ている。
「ゴーダ、そこまでです。客人の方が困っていますよ」
仮面の子が、鬼ヤンキーの首根っこを掴み、バルザックから引き離した。
「この人たち、誰…?」
俺は困惑しながらバルザックに聞いた。
「五大魔将軍だよ。
ツノの生えたやつがゴーダ、仮面つけた男がアズライル、後の1人がリリスだよ」
鬼ヤンキーがゴーダ、仮面の少年がアズライル、鎧の人はリリス…。
なんか最後の人だけ、見た目に反して名前が可愛いな。
女性の方だろうか。
「んで、オマエはいつまで後ろに隠れてるつもりだ?
リリス」
え? とそう思った時、鎧の後ろから、白のゴスロリを来た、髪が薄紫で瞳が水色の女の子が、ひょこっと姿を表した。
「バルザック、久しぶりなの」
……え、この子がリリス?
じゃあ。
「あの鎧なに?」
「あれはリリスが操人形魔術で操ってる鎧だ」
マリオネット…名前的にどういう魔術かは分かるな。
それにしても、こんな小さな子が五大魔将軍か。
実力はバルザックと同格なのかな。
「離せアズライル! 俺はこいつの顔面に一発ぶちこまねぇと気がすまねぇんだよ!」
そしてゴーダはまだ、アズライルに首根っこを掴まれていた。
「仕方ありません。大人しくなるまで私の影に入ってもらいます」
アズライルがやれやれと言わんばかりにため息をついたその時、ゴーダが突然、床に吸い込まれた。
いや、床ではなく、アズライルの影だ。
『すまねぇ!アズライル! 悪かった! 俺が悪かったから出してくれ! 暗くて怖いんだよここ!』
そしてその影から、ゴーダの若干こもった叫び声が聞こえた。
「なぁバルザック、五大魔将軍を辞める前、一体何したんだ」
「…聞かないでくれ」




