第47話 転移したその場所は
ヘブンとの戦いに勝利し、元の場所に戻った俺は、マナ達に先程までの状況を説明した。
そして、手紙の主からの言伝も話した。
「天空塔で待つ…か」
マナが顎に指を当てながら言った。
「天空塔って言えばあれだよな。 神人族の」
バルザックが少し考えるような表情で言った。
天空塔。
俺が転移したあの日、テラスさんと一緒に外に出た時に見たあの建物だ。
でも…。
「なんで天空塔…?」
つい、心の中で言おうとしたことを口に出してしまった。
「それは実際に行って、手紙の主に確認した方が早いだろう」
リエナが部屋の奥…巨像が最初に立っていた所で、何かを探っているような動きをしながら言った。
リエナの隣にはアルスさんがいた。
何をしているのかと思い、そばに行ってみると、そこには鉄で出来た椅子があった。
座り心地悪そう。
「手紙の主が言っていた椅子は、これのことだろう。
だが、ただの椅子でそれらしい仕掛けがない…。
"椅子の後ろ"とはどういう意味だろうか」
「こういうのは大体どこかにスイッチとかあるはずなんだけどね」
2人は先程から椅子に触ったり、押したり、座ったりしているが何の反応もない。
俺もじっくりと見てみたが、ただの椅子だ。
すると。
「多分それじゃなくてこれのことじゃねぇか?」
バルザックが椅子を通り過ぎて、椅子の後ろにある壁に触った。
その壁はよく見ると、周りの壁と比べて若干色が薄かった。
バルザックがその壁を押すと、ガコンという音と共に壁が凹んだ
なるほど。
椅子の後ろっていうのは、椅子の後ろ(にある壁)ということか。それなら最初から壁って言ってくれれば分かりやすいんだが…。
なんて考えてるうちに、凹んだ壁はいつのまにか通路になっていた。
隠し通路だ。
この先に何かあるのだろうか。
通路を進んでいくと、狭い部屋に入った。
部屋の中心には小さい祭壇のようなものがあり、その祭壇の前には魔法陣があった。
「これ…転移の魔法陣だわ。
それも、かなり古いタイプの術式ね」
魔法陣に触りながらマナが言った。
「魔力は…通るわね。
おそらくこの先に、手紙の主がいるのかも」
「行くか?」
「当然」
マナが魔法陣を起動させようとしたその時、先ほど通った通路から、途切れ途切れに声が聞こえた。
「…あの〜…ろそろ……入って…大丈…ですか…?」
この声は…ハリスだ。
「やばっ、すっかり忘れてたわ」
マナが急いでさっきの部屋へ戻った。
ーーー
その後、俺たちは壁画のあった部屋まで戻った。
ハリスが壁画を紙に写している間、今後の話をすることにした。
「一度学院に帰って今回のことを報告する必要があるし、魔法陣のあった部屋はまた明日に行きましょう」
「明日か…。
一旦いろいろと準備した方がいいんじゃないか?」
「その必要はないと思うよ。食料は十分あるし、回復薬とかの道具は、必要な分が揃っている」
「私もアルスに賛成だ。それに、手紙の主をこれ以上待たせるわけにもいかないからな」
「俺もかな」
4対1。
多数決の結果、明日次の場所に出発だ。
あの魔法陣の先に、手紙の主がいる…。
いや、まだ転移先を調べたわけじゃないし、いるかどうかは分からないな。
でも流れ的に会えそうだとは思うけどな。
手紙の主は青年の声だったから、男性…それも俺と同い年か、少し歳上だろうか。
ま、会えばわかる。
すると突然。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
甲高い叫び声が聞こえた。
叫んだのはハリス。何やら腰を抜かして身体を震えさせていた。
「どうした!?」
全員が駆け寄る。
「…す、すみません。あれを見て思わず…」
ハリスが指した方向を見る。
そこには骨があった。
それも人骨だ。
生前に着ていたと思われる服もあった。
貴族が来ていそうな豪華な服。
首飾りに指輪や腕輪。
大昔にあったのだろうか、殆どボロボロになっていた…。
「誰の骨だ…?」
「知らないわよ」
ボソリとつぶやいたバルザックに、マナが突っ込んだ。
「どうする? マナ?」
俺はマナに聞いた。
「可哀想だけど、このままにしておきましょう。
こういうのは触らない方がいいわ」
ーーー
翌日。
俺たちは学院に戻り、今回起きた出来事を報告し、マナが回収した巨像の一部を学院長に渡した。
学院長は渡された物に驚きながらも、それを喜んで受け取った。
その後、学院長は、『こちらは調査部に回しておきます。結果がわかり次第、マナギスタ殿に報告致します』と一言俺たちに伝えた。
マナは学院長に巨像の一部を渡した後、転移の魔法陣について話した。
俺たちが明日、もう一度遺跡へ行くということも。
学院長はそれを二つ返事で承諾してくれた。
そして、俺の…肉体再生についてだが。
結論から言うと『よく分からん。答えを探すのは一旦保留。そのうち分かる』ということになった。
電気能力、突然上がった身体能力、再生能力。
何故こんなよく分からないものを身につけたのかはよく分からん。
早く答えを知りたい。不気味すぎて怖い。
ーーー
魔法陣のある部屋は戻ってきた。
「よし、じゃあ行くわよ?」
マナが全員に問う。
俺たちはコクンと頷いた。
マナが魔法陣に魔力を流し込む。
魔法陣が輝き出す。
光が俺たちを包み込んだ。
光が消え始めたその時、風が吹いた。
靴から土の感触が伝わった。
視界が元に戻る。
周りには、石でできた柱や壁、門があった。
所々壊れている。結構昔に建てられたものだろうか。
足元を見ると魔法陣は無くなっていた。
どうやら一方通行の転移だ。
「ここは…どこ?」
「分からないな。初めて見る場所だ」
アルスさんがそう言った。
どうやら冒険者として世界中を旅した(本人談)アルスさんですら、ここがどこか分からないそうだ。
「…いや、分かるぜ」
するとバルザックが口を開いた。
「ここは大昔に魔族が使っていた遺跡だ。
つまりここは…『グルバルタ』だ」
第6章 地下に眠る謎 完




