第45話 戦闘開始
結局の所、テラスさんに教えてもらった事は役に立たなかった。
この力はいつも通り、電撃として使おう。
「さてと…」
今は何分なのだろうか。
少なくとも5分は経っていると思う。
そう考えると残り約15分。
まだ時間はあるが、相手の情報が全く分かってないこの状況では、作戦の立てようがない。
どうするべきか。
…そうだ。後ろだ。
まだあの機械が動かない状況なら、簡単に後ろに回れる。
後ろに回って、電撃を放つ。
じっと立っているから、頭とか簡単に狙いやすい。
…いや待て。たしか「攻撃したら動く」と、声の主は言っていたな。
なら、力を溜めはじめたら動くのではないだろうか?
それか電撃を放った瞬間に動くとか。
いや、その時はその時で考えよう。
俺はそう考えながら、ヘブンの後ろへ回る。
戦闘開始になる距離の3メートルには入らないように、慎重に移動する。
後ろに回っても、ヘブンは相変わらず立ったままだ。
俺の方を向こうとすらしない。
まあ、こちらとしては好都合だ。
奴の背後に立ち、力を溜める。
ヘブンは動かない。
この状況でも、戦闘開始の判断にはなっていないそうだ。
電気が溜まり、左腕を上げ、狙いを定める。
当てる場所は頭部。
距離は約20メートル。
外さないよう慎重に。そして深呼吸を数回。
まだ奴は動かない。
覚悟を決める。
激しい音と共に紫電が放たれる。
それは槍のように。一直線に、ただ立っているだけの機械の頭部へ。
その時だった。
当たる直前、ヘブンの姿が一瞬だけブレた。
そして気づいた時には、ヘブンは姿勢を低くしていた。
紫電は、奴に当たる事なくそのまま通り過ぎ、そして数十メートル進んだところで消えた。
「…マジか」
驚く暇はなかった。
すでにヘブンが、こちらの方に向いていた。
そして。
姿が消えた。奴の両足が踏んでいた地面が、奴が消えたと同時に砂煙をあげるのが見えた。
動いた。
来る。
自身の姿が一瞬で消えるほどのスピードだ。
咄嗟の判断で刀を素早く抜いた。
両手でガシっと握る。
次の瞬間。
ガキィンと、俺の目の前で火花が散った。
両腕が弾かれた。
弾かれた衝撃で俺の手から離れた刀が、回転しながら空へ舞い上がっている。
そして…今まさに、俺に斬りかかろうとしている人型の機械が目の前に。
「ガッ…」
なんの躊躇もなく、鋼の刃が俺の胸を切り裂いた。
傷口から真っ赤な血が溢れ出る。
そして、すぐに傷口が塞がれた…いや治ったという方が正しい。
あの巨像の時と同じだ。肉体が再生した。
(本当に、なんなんだこれは…!)
自分の身に起きた異常(?)を気にしながら、俺はヘブンから距離を取った。
幸い、奴の追撃はなかった。
刀は…俺の後ろ、遠く離れた地面に突き刺さっている。
回収したいが、今はそれができる状況じゃない。
なら、作るしかない。
再び、力を溜める。
姿勢を低くする。
クラウチングスタートに近い姿勢。
上半身を前に若干倒し、両足は地面を踏み抜く直前の状態を保つ。
力が溜まった。
俺は左手をヘブンは向ける。
と同時に、ヘブンが俺に向かって走ってきた。
先程とは違い、今度は走る姿が見える。
だがその速さは、まるで狩りをする獣のようだ。
奴が動き始めてからたった2秒。すでに俺に攻撃できる距離ギリギリまで来ていた。
だが、2度目はやらせない。
俺は電撃を放った。
さっきのと比べると、電撃の速度は若干弱かった。
ヘブンはサッと、横に回避した。
そして体勢を整え、もう一度走り出そうとした。
だが。
「引っかかったな」
バチン!という破裂音と同時にヘブンの身体が痺れた。
奴の身体からバチバチと紫電が出ている。
さっき外したのは、溜めた力の半分。
そしてあいつに当てたのは残った分のやつだ。
1発目の方に意識が行っていて、2発目を放った事に気づかなかったか、もしくは気づいていたけど、避けられないタイミングであったからか…。
どちらでもいい。
奴が痺れて動けない今がチャンス。
俺は身体を回転させ、地面を踏み抜き、刀を回収しに走った。
ダダっと草原を駆け抜け、刀を掴み取る。
回収にかかった時間は3秒。
(恐らくもう奴は立て直している!)
そう考え、俺はすぐさま体の向きを変える。
だが予想は外れていた。
ヘブンはまだ身体が痺れていた。
ブルブルと全身を震わせ、今にも倒れそうになっている。
機械だから効くか不安だったが、その心配はいらなかったようだ。
俺は今なら準備ができると思い、左手から電気を出しながら、それを刀身に近づけた。
さっき巨像の時にしたあれだ。
力を刀に付与する。
バチバチと、刀身が光っている。
準備完了を確認してすぐに、視線をヘブンに向ける。
奴はまだ痺れていた。
深呼吸を1回。そして刀を構えた。
「次はこっちの番だ」




