第43話 試練
戦いが始まった。
アルスさんが巨像の注意を引き、その隙にマナとバルザックが全力の攻撃を叩き込む。そしてリエナはいつも通り、斬撃で遠距離から攻撃だ。
俺は柱に隠れて力を溜めている。溜まり次第、あの巨像の頭部目掛けて放つ…だが。
撃つ勇気がない。
あのとき、ロストマグナに向けて放った電撃。
あいつはケロリとしていた。
この力は強そうに見えて、案外大した力はないのか。もしかしたら、この巨像にも効かないのではないか、という不安が少なからずある。
まだ撃っていないのに何をそんな弱気を、と思うが、やはり不安がある以上撃てない。
そうこうしているうちに力が溜まった。
俺は左腕を見る。
紫電がバチバチと、俺の腕から出ている。
痛みや痺れなどはない。自分の力だからそういうのは感じないのだろうか。
さて、これをどうするか…だ。
『お前はその力の使い方が下手くそだ』
ふと、あのときのロストマグナの言葉を思い出した。
『工夫しようという考えを持っていない』
あのときの言葉はどういう意図があったのだろうか。
工夫をしようという考え……つまりこの力はただ電撃を撃つ以外にも使い方があるということか?
「……」
試しに、左手を刀に近づけた。
すると、紫電が刀身に引っ付いた。
刀が紫電を纏っている。
…まさか武器に付与できるとは。
「イズミ、何をしている?もう終わったぞ」
すると、横からリエナが近づいてきた。
俺はふと巨像の方を見ると、すでに巨像はボロボロの状態で今にも倒れそうになっていた。
巨像の前にはハイタッチしているバルザックとアルスさん、その横で服についた汚れをはたいているマナがいた。
どうやら俺が考え事している間に、すでに終わっていたようだ。
「しっかし、こいつは一体なんだ?」
バルザックが巨像に触れながら言った。
「私もよく分からないわ。とりあえずこれは魔術学院に任せた方がよさそうね」
マナが、巨像の一部を収納魔法に入れる。
この大きさだ。流石に全部は持ち帰れない。
一部だけを魔術学院に渡し、残りはここに置いて学院の方に任せるようだ。
「…待て」
その時だった。突然、バルザックがマナの腕を抑えた。
突然触れられたことに驚いたのか、マナがビクッと体を動かした。
「何か音がする」
バルザックがそう言った。
俺は集中して、周りの音を聴いた。
すると、僅かだがゴオン…という籠った音が聞こえる。
音の発生源を探す。
音の方向からしてこれは…巨像…?
音がだんだんと強くなっていく。
そして。
「…離れろ!」
バルザックが叫んだ。
全員がいっせいに巨像から距離をとった直後。
巨像の腹部からガァン!と何かが飛び出してきた。
それはクルクルと回りながら、俺たちの背後に着地した。
出てきたのは巨像に少し似た…人型ロボットのようなやつだった。
大きさは大体160cm、俺と同じくらいか。
スラリとした体型をしている。
あの巨像の小型ver.みたいなものか?
『ピピピ』
人型ロボットが奇妙な電子音と共に両手を前に向けた。
その動きに反応して咄嗟に構えた、その時。
「…!?」
気がつけば、草原のような場所に、俺は立っていた。
そして…マナ達がいなくなっていた。
いるのは俺と…人型ロボットの2人だけだった。
(転移させられた?)
俺はそう考えながら人型ロボットに刀を向ける。
『慌てるな。和泉仁』
すると人型ロボットが急に喋り出した。
青年のような声だ。
『私は君たちに手紙を出した主だ』
「!?」
『……ああ、すまない。
この機械が私というわけではなく、この声が私という意味だ』
ええと、それはつまり。
「どこかから喋っていて、その音声をその機械から出しているわけですか?」
『そうだ。
今から君に伝えたいことがある。
少し長いがよく聞いてくれ。ちなみに質問は受け付けない』
「…」
『君には今から、この機械を君1人だけの力で倒してもらう。
やり方はなんでもいい。この機械を行動不能にすれば、君の勝ちだ。
君1人だけに戦ってもらうことには理由がある。
君はあまりにも場違いすぎる。
他の4人は戦力的には申し分ない。
だが君は、あまりにも弱すぎる。その特別な力を持ってしても、君は4人と同じ領域に到達できていない。
まあ、君のいた世界は平和な所だったから、無理もないというわけだが。
しかし、ロストマグナを倒すのだろう?
なら、今のままでいてもらうのは困る。君も、弱いままで奴と戦っても、勝てないのは分かるだろう?
この試練は、君が彼らと同じ領域に到達する為の一歩であり、まともな戦力であることを証明する為のものだ。
以上だ。
…ああ。20分ほどだけ、時間をあげよう。
その間にこの機械…名前は『ヘブン』だ。これを倒す作戦とか考えてもらって構わない。ちなみに、半径3メートルまで近づくか、攻撃するかで、自動的に戦闘モードに入るよう設定してある。
では、頑張ってくれたまえ』




