第4話 魔術と世界地図
この世界に来てから1ヶ月半が経った。
テラスさんに魔法陣はどうなっているかと聞くと「あと少しでできるわ。ただ、ちゃんと魔力が流れるかテストしないと。失敗したらやり直しだわ」と言われた。
どうやら魔法陣は強力なものほど正確に描く必要があり、ちょっとした線の歪みがあってはダメらしい。
つまり、成功するまでは正確な魔法陣を何回も描き直さないといけない。俺だったら3回目ぐらいで辞めそうだ。
テラスさんが魔法陣に集中している間、俺は読書をしている。ていうか読書をする以外やることが無い。幸いテラスさんが持っている本は沢山あり、殆どが分厚くてすぐに読み終わるということは無い。
今読んでいる本はこの世界の魔術について書かれている本だ。
魔術は火、土、風、水、治癒、の5つが主に使われている。
転移や結界、重力操作などの魔術もあるが、高度な術の為、使う人はあまりいないらしい。
魔術の発動は詠唱と無詠唱の2つだ。
無詠唱は熟練の魔術師なら誰でも使えるらしく、詠唱を使うのは初心者だけらしい。
ふと気になった。
「俺って魔術は使えるのか?」
まぁ使えないだろう。俺は魔術なんてない世界で生まれたんだ、使える方がおかしい。この世界に転生していたら使えていただろうが、俺の場合は転移だ。この世界で生まれたわけじゃ無い。
「一応、試してみるか…」
俺は外に出て、詠唱が書かれているページを適当に開く。
開いたページは風魔術だ。さっそく試してみよう。
「えーと…風よ。刃となりて敵を切り裂け。風刃」
…。
……。
………。
何も起きない。ダメか。
魔術は使えないと分かったし、この本を読む必要はないな。別の本を読もう。
部屋に戻り、魔術の本を机に置いて次の本を取る。
手に取った本は色んな国について書かれていた。
エルフの国、ドワーフの国、獣族の国、魔族の国。
色んな国があるな。
最後のページを見ると地図が載っていた。
アルメリアスの大陸はアルファベットの『C』に近い形をしていた。
上方向が魔族の国。左方向が亜人族の国。下方向が人族の国だ。
人族は9つの国に分かれていて、亜人族の国はエルフ、ドワーフ、獣族、妖精の4つの国があり、魔族の国は一つだけだ。
人間と亜人は複数の国があるのに魔族は1つだけなのか。
地図を見ると魔族の国は結構大きいから、そこを統治している王様は大変だろうな。
「さてと、一旦休憩するか」
読書をしすぎたせいで目が疲れてしまった。
俺は一旦ベッドで休むことにした。
起きたら次は何を読もうか。そう考えながら俺はベッドに向かった。
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「侵入者だ!秘宝が盗まれた!必ず捕まえろ!」
1人の兵士が叫んだ。
ここは魔族の国『グルバラタ』を治めている魔王が住む城『マーダハ城』
そのマーダハ城で事件が起きていた。
数万人の兵士が警備をしているこの城で侵入者が現れた。
その侵入者はマーダハ城の地下で厳重に保管されていた秘宝を盗み出し、この城から脱出しようとしている。
そこを数人の兵士を連れて、大剣を持った男が立ちはだかった。
「そこまでだ、侵入者よ! 命が惜しくばその秘宝をこちらに渡せ! もし渡さないのであればこの『五大魔将軍』が1人、ガンダスが相手になろう!」
「五大魔将軍…。魔王軍の幹部か…」
侵入者はニヤリと笑うと手に持っていた秘宝を空中へと投げた。
「!?」
ガンダス、そしてガンダスの後ろにいる兵士が驚き、秘宝の方を向いた。
次の瞬間
「ガハッ…」
侵入者が素手でガンダスの胸を貫いていた。
「ふん、弱いな」
侵入者は腕を引き抜くと、落下してきた秘宝をパシッと手に取り、その場をすぐに立ち去った。
「なっ!? ガンダス様が殺られた!」
「五大魔将軍の1人であるガンダス様が!?」
「お、追えー! 決して逃すな!」
「誰か! 魔王様に急いで報告を!」
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「さて、秘宝は手に入れた…。あとはあいつだな…」
城から脱出した男は姿を隠す為に着ていたマントを脱ぎ捨て、盗んだ秘宝を袋に入れた。
「今からそっちに行くぞテラス…。あのお方を裏切ったことを後悔させてやる」
男は背中の翼を大きく羽ばたかせ、目的地へと向かう。