第42話 鋼の巨像
壁画の部屋にあった階段を降りる。
通路の幅が狭く、人1人通るのが限界だ。
その為1人ずつ降りることにした。
前から順にマナ、バルザック、ハリス、俺、リエナ、アルスさんだ。
階段はとても暗くて足元がよく見えなかった為、マナが火魔術『導きの灯火』を使って、中を照らした。
足を踏み外さないよう、慎重に段差を降りていく。
どこまで続いてるのか分からないほどに奥が暗い。
いったいこの先に何があるのだろうか。
降り始めてから5分ほど経った時だった。
ある段差を降りた時、砂を踏んだ時のジャリっという音ではなく、カツンという音がした。
目を凝らしてよく見ると、それは『導きの灯火』の光によってキラキラと輝いていた。
これは金属だ。
ここから先の段差全てが金属で作られている。
そして段差だけではない。壁も金属になっていた。
本当にこの先に、なにがあるのだろうか…。
そしてさらに3分後、ようやく終わりが見えた。
奥に扉があった。
これも金属でできていた。
マナが取っ手を握り、扉を引いた、が。
「…っ、おもっ」
扉は開かなかった。
ガリ、ガリ、という音を立てている。
なにか詰まっているのだろうか。
「くそっ。皆少し離れてて」
マナがウラヌスを装着して、正拳突きの構えに入った。
そして次の瞬間、バゴン!という強烈な音と共に、扉が吹き飛んだ。
少し乱暴すぎる開け方だと思うが、まあ仕方ない。
扉を開けた(?)先は巨大な、とても巨大な部屋だった。
やはりこの部屋も金属でできていた。
そして部屋の奥には唖然とする物があった。
巨像だ。
鋼でできた巨像だった。
騎士の様な鎧に、角の生えた兜、そして手には剣を持っていた。
ここにいる皆があの巨像に驚いている。
「あれは…なんだ?」
リエナが唖然としながら言った。
「ハリス、大昔にあんなのがあった記録は?」
「ありません…あの様な物があるなんて記録は」
マナが恐る恐る前に出る。
「あれ、動くかしら」
「あの像、魔力の反応がある。それも結構な魔力量だ」
バルザックが左目の瞼を思いっきり開けながら言った。
魔力眼であの像を見ている。
「マナ。もしかしたらあれが、手紙の主が言っていた試練じゃないかな?」
アルスさんが剣の待ち手に触れている。
もしもの時の為に動こうとしている。
次の瞬間。
『*<○°・%」<○<*^=:〜×』
謎の機械音を発しながら巨像が動いた。
ズシン、ズシンと歩きながらこちらに向かってくる。
「皆!戦闘準備!」
マナの一言で全員が武器を抜いた。
後ろでハリスが「私は隠れてますね!」と言いながら階段の方へ向かった。
巨像が俺たちの目の前で停止した。
そして、顔を俺たちの方へ向けた。
『○%1々6:|43○」=6*』
それにしてもこの機械音はなんだ。不気味だ。
「…!?
イズミ!避けろ!」
バルザックが叫んだ。
その時だった。巨像の目が一瞬だけ光った。
それと同時に俺の左腕が吹き飛ばされた。
ビチャリと血が顔についた。
そして。
「アァアアァァァァァイッツァァァアア!!!!!!!!」
強烈な痛みが走った。
俺はただ叫びながら無くなった左腕を押さえた。
血が溢れ出ている。
涙が溢れ出そうなほど痛い。
「イズミ、待ってて!回復魔術を!」
マナがこちらに走ってきた。
「来るぞ!!」
リエナが叫んだ。
巨像が俺に向かって剣を振り下ろそうとしているのが見えた。
「っくそ!!」
巨像が剣を振り下ろしたと同時にマナは俺を掴み、跳んだ。
先程まで俺がいた場所に巨大な剣が落ちた。
ズガァンという轟音が部屋中に響き渡った。
「イズミ、じっとしてて。今から回復魔術…を…?」
マナが無くなった俺の左腕に触れようとした途端、手を離した。
俺は痛みに耐えながら(…どうした?)と思いながら左腕を見た。
すると左腕の肉が徐々に膨れ上がっていて、伸びていき、腕の形になっていった。
僅か数秒で俺の左腕が治った。
マナが回復魔術をかけたわけではない。
それをやる前に俺の左腕が治った。
これは…一体?
「肉体…再生…?」
マナがぼそりと呟いた。肉体再生って以前バルザックがやっていたあれの事だろうか。
なぜそれが俺を…?
皆が俺の方へ向いていた。
バルザックが1番驚いていた。ギョッとした顔で俺を見ている。
『○°♪|<*×○3」・☆°1』
また巨像が謎の機械音を発した。
全員の視線が巨像の方へと向く。
だが巨像は剣を振り下ろそうとしているわけではなく、ただ突っ立っていただけであった。
『*%7=」61=・…管理者からのアクセスを確認』
すると、急に巨像が喋った。
管理者からのアクセス…?
『言語を現代語に変更。戦闘モードを排除モードから試練モードに変更。
試練の対象者、マナギスタ・エルメス・ヴァイスルナ、バルザック、アルス、リエナ・パーシズム、和泉仁に設定。
試練を開始します』
巨像が再び動き始めた。
「皆! 来るわよ! 戦闘開始!」
「言われなくても分かってるぜ!!」
皆、戦闘態勢に入った。
「イズミ、左腕の事については後にしましょう。今はあれを」
「…あぁ、分かった」
俺は立ち上がり、刀を握りしめた。
さっきのは一体なんだったのか。それを考えるのは…あとだ。




