第41話 開かれた扉と歴史の壁画
バルザックが落ちた穴に入って地下一階まで降りた。
そこまで高くはなかったので着地に気をつけさえすれば問題はなかった。
地下1階から4階まではとくに何事もなく進めた。
遺跡という事なので魔物の1匹や2匹はいると思っていたが、一度も出なかった。
どうやら魔術学院が定期的に内部に魔物がいるか調査をしており、魔物が住み着いていたら駆除するか、追い払っているらしい。
魔物に会わずに済んだのはよかった。
あの時の手紙には『試練を与える』と書かれていた。
その試練の内容が一体なんなのかはまだ分からないが、おそらく手紙の主が用意した魔物かなんかと戦わされる可能性が高いと思う。根拠はないが試練といえば大体こういうのが高い。
そのため道中は体力を減らしたくない。
魔物がいなくて本当に良かった。
そしてようやく地下5階まで到着した。
ここからは半分までしかいっていないそうだが、何があるのだろうか。
「皆さん見てください。あの大扉を」
するとハリスが通路の奥を指差した。
見ると、巨大な鉄の扉があった。
「あそこは通称開かずの扉と言われています。5階が半分まで調査できていないのはあれが原因です。
そしてこれを」
ハリスは次に大扉の前にあった台座の様なものを指差した。
台座には手のひらのマークがあった。
「恐らくですがこれが扉を開く鍵と思われます。
手のマークがあるのでここに手を置けばよいのでしょうが、やっても反応がないのです」
「どれどれ」
バルザックが台座に手のひらを置いた。
しかし台座が反応することはなかった。
「本当に反応しないな。イズミ、お前も試してみろよ」
バルザックにそう言われて、俺も手を置いた。
すると次の瞬間、台座が「ビー、ビー」という警告音の様な物を鳴らし、台座の周りが赤く光った。
「イズミ! 手をどけて!」
マナが慌てて言った。
言われる前に俺は手をどけていた。あんな音が出れば、びっくりして手を離している。
警告音が鳴り止むとハリスが興味深そうに台座をまじまじと見た。
「これは驚きです。調査隊からの報告書ではこんな事は一度も書かれていなかったのに。イズミさん、一体なにを?」
「何をと言われても…ただ手を置いただけですが…」
「ハリス、どいて」
マナがハリスを台座からどかした。
「次は私が試してみるわ」
マナが台座に手を置いた。
台座は反応しな……いや。
「えっ」
台座が青く光り、台座の上から文字の様なものがうっすらと浮かび上がった。
浮かび上がった文字は象形文字のような形をしていた。
「これは…古代文字…? ハリス、翻訳魔術は使えたわよね?私のは翻訳の精度が低いから代わりにお願い」
「分かりました」
ハリスが詠唱を唱え、浮かび上がった文字に向けて手のひらを向けた。
すると、文字が歪み始め、現在使われている言語に変わった。
『資格あり。扉を開きたくば前に進め』
マナが文章を読むとすぐに台座から手を離して大扉の前へと進んだ。
すると先程までビクともしなかった扉がゴゴゴという音と共に動き始めた。
「こここ、これは一体どういう!? マナギスタ先生、これは…!?」
「私に聞かないでちょうだい。私もなんで開いたのか分からないわ。
……とりあえず進むわよ」
マナが扉の中へ入っていった。
俺たちも続いて入った。
扉の中へ入ると大きな部屋にたどり着いた。
辺りを見ると右の壁に3つの壁画、左には2つの壁画があった。
そして奥にはさらに地下へと進む階段が。
地下6階があるということか。
けどその前に壁画だ。
右の壁画には、
『自然豊かな大地とそこで暮らす動物と人間。そして空に十二人の人がいる絵を描いた壁画』
『空から巨大な船のような物が現れ十二人の人がそれに立ち向かう様子を描いた壁画』
『大地が崩れて人々が大波に飲まれる絵。そして十二人の人が11体の化け物の様なものと戦う場面を描いた壁画』
左の壁画には
『3人の人と3体の怪物が戦う様子を描いた壁画』
『泣き崩れる男と逃げる3体の怪物を描いた壁画』
があった。
これがどういった事を表した壁画なのかは分からない。
ただ思うに、恐らくこれは過去にあった出来事なのだろう。
だが前に読んだ歴史書にはこの壁画に該当する様な出来事は一つもない。
作り話を壁画にしたものなのだろうかと思ったが、わざわざ壁画にして残すものか?こんな巨大な壁画に?
「これは貴重ですよ、大発見です!」
ハリスが興奮気味に壁画の絵を紙に写していた。
写真機などがあればいいのだがなと俺は思った。
「マナギスタ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
するとバルザックが何もない壁を見つめながらマナを読んだ。
気になって俺もマナと一緒に見に行った。
「ここ、崩れてるが何か文章が書かれてる」
バルザックが指差した所をよく見ると、先ほどの台座のものと同じ文字がわずかに書かれていた。
「修復魔術を使うわ」
マナが壁に手を当て魔力を流した。
すると床に落ちていた石や砂粒のいくつかが、壁にひっついた。
「崩れ始めて結構時間が経っているわね。私が直せるのはここまでよ」
マナが壁から手を退けた。
再度壁にかかれた文字を見る。
『×○*・+=$%^々「*・』
「読めねぇ…」
「ハリス、来て!」
ハリスに翻訳魔術をかけてもらい、改めて文字を見た。
『我ら×××族。××の裏切り者。××を殺した罰を××。そして××××を忘れぬよう、この部屋に刻む』
(×は修復できなかった部分)
よく分からない文章だ。
重要そうな所が抜けている。
「…ハリス。これも一応書いておいて」
「あ、はい。分かりました」
ハリスが壁画を描いていた紙の裏に、壁の文章を書いた。
「他にはなにもなさそうね。奥の階段を降りるわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ壁画を描けてなくて」
「じゃあここに残って描いてたら?」
「い、いやぁ。1人は心細いというかなんというか」
「まったく…。帰りに書く時間あげるからその時に書きなさい」
「あ…はい」




