第39話 ユコラス国
次の目的地はミラマレス遺跡ということになったので、俺たちは今その遺跡を目指している。
空を飛びながら。
正しく言うと飛行魔術で空を飛んでいるマナに引っ張られている、だ。
何故空を飛んでいるかというと、ミラマレス遺跡までの距離だ。
ミラマレス遺跡はその名の通り、大昔に滅んだ国『ミラマレス』にある遺跡だ。
ミラマレスはサハカ国からめちゃくちゃ遠く離れた距離にある。
徒歩で行っても、着くのに半年かそれ以上はかかるそうだ。
手紙には『早く来てもらいたい』と書かれている為、手紙の主を半年以上も待たせるわけにはいかないと言うことになった。
そんなわけで空からミラマレス遺跡を目指している。
俺とバルザックは空を飛べないのでマナに引っ張られている。
アルスさんとリエナはグリフォンのピポに乗って空を飛んでいる。
俺も乗りたかったが、人数オーバーらしいので却下された。
ちなみに先ほどミラマレス遺跡を目指していると言ったが、途中で向かうべき場所があるそうだ。
その場所とはミラマレスの隣国、『魔術の国』ユコラスにある魔術学院だ。
どうやらミラマレスを管理しているのがそこの学院だそうで、ミラマレスに入る許可証を作ってもらう為、そこに向かうそうだ。
ーーー
飛んで、降りて休憩、また飛んで、また降りて休憩を繰り返して数日後、ユコラスに着いた。
ユコラスに着くと、グリフォンのピポとはここでお別れということになった。
リエナが俺たちの旅について行くことにしたらしく、ピポだけを家に帰すことにしたそうだ。
ピポは最初悲しい顔をしていたが、リエナは「心配するな」と優しく彼の頬を撫でた。しばらくして、ピポは彼女との別れを惜しみながら飛び立っていった。
街中をながーいこと歩くと、魔術学院に着いた。
学院を見た瞬間に真っ先に思ったのが建物がめちゃくちゃデカいということだ。
東京ドームぐらいはあるのではないかと思った。東京ドーム実際に見たことないけど。
「ちょっと待ってて」
マナはそう言うと、学院の門のすぐ横にある小屋にいる女性(おそらく守衛)に話しかけた。
「どちら様ですか?本日は来客の予定はありませんでしたが…ってマナギスタさん!?」
女性は幽霊でも見たかのように驚いた。
「ごめんなさい、アポを取る暇がなかったの。学院長に会いたいのだけれど、入門許可証は作れるかしら?私と後ろにいる4人含めて」
「は、はい!今すぐお作りいたします!」
そして数十分後、入門許可証を貰い俺たちは学院の中に入った。
中に入ると、人族の他にも獣族、亜人族、魔族がいた。
世界中から魔術師志望の者たちが沢山来るという学院だ。沢山の種族がいる。
「ねぇ、あの人って」
「うそだろ?まじか?」
「本物かしら?」
「なんで急に学院に?」
歩いていると、周りの学生たちがチラチラとマナを見ていた。
マナは最強の魔術師と言われているし、そんな者が学院に来ているなんて驚く話であろう。
「え…あれってバルザック将軍?」
「ほんとだ…いや、あの人は五大魔将軍やめたって話だから将軍じゃないぞ。でも、なんでここに?」
すると、魔族の学生の何人かがバルザックに気づいた。
バルザックは魔族の学生に向けてピースサインをしている。恥ずかしいからやめてほしい。
そうこうしている内に、学院長室についた。
マナがノックをすると、中から「どうぞ」と声がして、俺たちは部屋に入った。
「お久しぶりです。マナギスタ殿」
「久しぶりね。ラウラス」
ラウラスと呼ばれた男性は俺たちが入室すると同時に立ち上がって礼をした。
もっさりとした髭に、力強い目つきをしている。肌のしわが多いから老人だろうか。ただ体つきはガッシリとしている。
ラウラスの向かいにあるソファに座ろうとしたが、3人までのサイズだったので俺とバルザックがソファの後ろに立つことにした。
ちなみに俺から見て真ん中がマナ、左がリエナ、右がアルスさんだ。
「急に学院に来るとは。どのような要件で?もしかして、教師になると決心しましたか?」
「違うわ。ミラマレスに用があってね、許可証を作ってもらいたいの」
それを聞いた瞬間、ラウラスは少しため息を吐いた。
「残念です、マナギスタ殿。あなたがこの学院の教師をして下さらないとは。考えてください。あなたが多くの魔術師を育て上げれば、有能な魔術師たちがたんじょーーー
「話を逸らすな」
マナが机をドンと蹴った。
時々マナは変に怖いところが出る。
少女とは思えないほどの怖さだ。いや中身は結構歳いっているが。
「失礼。ミラマレスに用があるのですね。いいですよ。すぐにお作りいたします。ただお渡しできるのが明日になりますが」
「助かるわ」
ーーー
マナとラウラスの話し合いが終わり、学院長室を出ると1人の青年が立っていた。
「お久しぶりです! マナギスタ先生!」
マナが、げっ…という風な顔をした
「ミラマレスに行くそうですね! 僕も連れていって下さい!」
「帰れ」
マナは青年のお願いに即答で却下した。
すると、青年が突然泣き始めた。
「お願いします! 一度でもいいから行きたいんです! お願いしまーーーす!!!!」
青年がマナの足に抱きつき、泣きじゃくっている。
「誰だこいつ。お前の知り合いか?」
バルザックが青年を掴み、マナから引き剥がした。
「テラスが数年前にここで教師していた時の生徒だった子。ちなみに馬鹿よ」
いるか?最後の情報。
「お願いします! 一生のお願いです! 僕も連れていって下さい!」
青年の泣き声がどんどんと大きくなっていく。
そのせいか向こうの廊下から学生達が、何の騒ぎかとこちらに来ている。
「分かった、分かったわよ。あなたの分も後でお願いするわよ」
「そうですか! ありがとうございます!」
青年は急に泣き止むとバルザックの手を振りほどき、「それでは」と言いながら、その場から立ち去った。
情緒どうなってるんだとツッコみたくなりそうだった。
「めんどくさいのに絡まれちゃったわ…」
マナはそう言いながら、もう一度学院長室に入った。




