「ルーバス第2支部襲撃作戦の数日後」
「グリスクリム、ロストマグナ。今の状況は?」
レディがドアを勢いよく開けながら言った。
グリスクリムはコーヒーをテーブルに置くと、少し深呼吸をしてから話し始めた。
「まず、こちらの状況です。
マシュラは生きてはいます。下半身が無くなっていて、現在意識不明の状態ですが、再生能力は止まっていなかったので半年後には元に戻って意識を取り戻すだろうと、ギメトリスから報告がありました。
ボルドスについてですが今日の朝、彼との通信がようやく繋がりました。今、ヨヨニピトが迎えに行っています。…それとボルドスから『雷帝の攻撃で神物が壊れてしまった』とのことです」
「…チッ」
レディが舌打ちをした。
珍しいな。こいつがイラつきを見せるなんて。
まあ無理もない。問題なく終わると思った作戦が予想だにもしない出来事で無駄になったのだから。
「ルーバスの方ですが、ウルフ兄弟は死んだとの情報が入りました。愚泥についての情報はまだですが、恐らく生きているでしょう」
「しかし予想外だな。雷帝が突然現れるなんて。あの爺さん、俺たちなんざ眼中に入っていないと思ってたんだがな」
「ええ、それには私も驚きました。『三強』の1人であり、その中で1番強い雷帝が現れるなんて。
…それとあと1つ、お伝えしたいことが」
グリスクリムが前屈みになるように座り直した。この姿勢は大事な話をする時だ。
「どうやら聖門が『オフィス』の襲撃にあったそうです」
「……落とされたのか?」
「いいえ。大勢の負傷者を出したようですが、守り抜いたそうです」
「『オフィス』…ということはまさか…」
「そのまさかです。死神と勇者が激突…そして引き分け。お互い現在、意識不明の重体とのことです」
「マジか。『三強』同士が戦うなんて、あり得ないと思ってたんだがな…。いや待て、なんで『オフィス』の連中は聖門を襲ったんだ?」
「どうやら止派の者達が『オフィス』の幹部…それも設立メンバーの1人を殺したそうで…。それに怒った死神が止派に復讐として、聖門を襲ったかと。
勇者は止派の最高戦力。それを討ち取れば止派の連中に仕返しできると思ったのでしょう。
問題はここからです」
グリスクリムが眼鏡をクイッと上げた。
これは確か、話を途中で止めるなの意味だったか…。
「現在、進派の者達は止派に総攻撃を仕掛けようとしています。勇者が動けない今がチャンスなのでしょう。
だが、私としては反対です。
雷帝の存在です。あの老人は戦いがあればどこだろうと現れ、そして暴れまくります。
進派と止派が全軍でぶつかり合えば、とてつもない規模の戦争が起きます。
そして必ず、雷帝が現れます。
そうなれば、被害は我々の予想を上回ります。
下手をすれば両者共に雷帝に潰されます。
上の連中は殆どが馬鹿です。どうせどうにかなるだろうとたかを括っているでしょう。
アビス様は今、なんとか止めようと上を説得しています。
ですが、馬鹿どもはなにがなんでもやるでしょう。
ロストマグナ、レディ…マシュラが今動けない以上、彼女抜きで我々は、止派の連中…最悪の場合、雷帝とも戦わなければなりません。
その覚悟は…できておりますか?」
少しの沈黙の後、俺とレディは互いに見つめ合い、そして頷いた。
「少しきついが、やらなければどうにもならん。
それにマシュラが起きるのは半年後だろう。それぐらいだったら俺たちだけで耐えれるはずだ」
「私も、ロストマグナと同じよ」
「…ありがとうございます。明日か明後日にはアビス様が戻られます。あのお方が上の連中をなんとか説得できていれば、私としては嬉しいのですが…」




